せっかくなので、訓練してみましたわ!
……もう何曲踊ってるのかしら。
シャルロット王女はテオの腕をしっかりと掴んだまま、まったく離す気配がない。
あの調子じゃ、最後まで延々と踊り続けるつもりかも。
若いっていいわね、体力があって。
私はそろそろ立っているのに疲れてきたわ。
適当なところで本当は帰りたかったのだけれど……
飲み物のおかわりでも取りに行こうと、ドリンクコーナーへ向かおうとしたら。
見覚えのある人が近寄ってきたわ。
「おや、ヴィヴィアン嬢。酒の相手を探しているのかい?」
「オスカー師匠……違いますわ! 私のはジュースです!」
「そうか。まだ子どもじゃのう。ふぉっふぉっ」
手にしたグラスを差し出し、ふたりで乾杯のポーズをとる。
スコープの師匠──オスカー・ド・カステリオン侯爵。
以前の私なら、ただの酔っ払いのオジサマだとしか認識していなかったけれど。
今は、頼りになる上司のように見えているから不思議だわ。
「師匠……どう思われますか? 隣国の王女様」
「そうじゃなあ……ま、陰謀のニオイはしないようだが。少し、訓練のつもりで視てみるか?」
「ええ、そうね。せっかく人がたくさんいるんですもの」
こめかみに軽く指をあて、セカンド・サイトを発動させる。
私はひとりひとり意識を集中させないと見えないのだけれど、師匠は常に視えているらしいわ。
貴族たちの頭上に、色とりどりのオーラが浮かんでいる。
鮮やかなオレンジ色や黄色など、喜びの色を浮かべる人たち。
眉間に皺を寄せて、青黒いオーラを浮かべている人たち。
どうやら王女のわがままを、「吉」だととらえている貴族と、「迷惑」だと思っている貴族が、真っ二つに割れているようだわ。
「あそこらへんにいるの、ラングレー家……テオドールの親戚筋ですわ」
「ふむ……集団で金色のオーラだな。わかりやすい。王女の気まぐれを歓迎しているのではないか?」
私はちらりとダンスフロアに視線を戻し、王女の頭上を見た。
ピンクにオレンジが混ざったような……サーモンピンクというのかしら。
自己主張の激しいカラーのような気がするけれど……確かに悪気はなさそうね。
師匠も陰謀のニオイはしないと言っていることだし、大丈夫かしら。
「……あの王女、思ったより、裏はないのかしら?」
「うむ……まあ、あれは、恋をしている色でしょうな。ただし……」
師匠は声をひそめて、私の耳元にささやいた。
「……あれは、かなり奔放な女性ですぞ」
「奔放……?」
「開放的というか……まあ、あれは狩猟者のオーラですな……」
奔放って……あの王女、まだ十七歳ぐらいじゃなかったかしら。
まあ、結婚できる年齢ではあるけれど。
狩猟者ってことは、獲物はテオってこと?
次に、私はテオのほうを視てみた。
──青と黒が混ざったような、陰気くさい色。
あからさまに嫌がっているわね。
オーラを見るまでもなく、顔が引きつっているわ。
周囲の人を順番に視ていたら、ふと──
視界のすみに、妙な違和感があることに気づいた。
頭上に何も視えない人がいる。
ヘンね……オーラがない人なんているのかしら?
上品な服装の青年だけれど……
「オスカー師匠、あちらの人──」
「ああ……気付いたか。彼はスコープのメンバーだ。オーラを消しておるじゃろう?」
「オーラって消せるんですか?」
「彼は特別だ。メンバーにオーラを視られることがよほど嫌だったようでな……消す方法を自力で見つけたようじゃ」
「へえ……そんな人もいますのね」
その青年が、私とオスカー師匠の視線に気づいて、ほんのわずかに頭を下げた。
私も小さく会釈を返す。
──なるほどね。
視る側に回ってみると、まるで世界が違って視えるわ。
国王がスコープを保護しているのもわかるような気がする。
こういう場所で、悪意のある人間を見つけ出すのが、スコープの仕事ね!
◇
「お、お嬢っ……!」
パーティーの終盤、ようやくテオが解放されて戻ってきた。
「やっと戻ってきたのね。楽しそうだったわね? 王女様と──」
「あれが、楽しそうに見えました!? なんで俺が隣国王女と外交しないといけないんですか! 丸投げするなんて、国王も何考えてんだか……」
やっと戻ってきたと思ったのに、貴族たちがわらわらと集まってきた。
テオの親族だわ!
ご挨拶しようかと思ったけれど、皆、私のことなど眼中にないみたい。
一目散にやってきて、テオを取り囲んだ。
「おおっ! テオ坊!」
「いたぞいたぞ、テオ! よくやったな!」
「王女殿下に気に入られるとは、やるじゃないか!」
「わ、なっ……な、なんですか急に!?」
「何を言ってるんだ、大出世だよ! いやー、ついにうちの家名も……まさか王族と縁続きになるとはなあ」
「……あの、わたくしはもう帰りますので、後は好きに盛り上がってください」
もうこれ以上テオを待っていられないわ。
今なら騒ぎにまぎれて、消えても気づかれないわよね。
「ちょ、ちょっと待ってください……お嬢! 俺、送りますよ!」
慌てて追いかけてきたテオ。
私を送り届けたら、実家に帰ってくるようにと言われていたようね。
テオのご両親も……いったい何を考えているのかしら。
帰りの馬車の中。
面倒な親戚たちから解放されて、ようやくホっとしたと思っていたんだけど。
テオの愚痴が、延々と続いている。
「……ったく、なんなんですかあの王女! 何回足踏まれたことか!」
「大変だったわね。あれは……私よりも酷かったわ」
「しかも、曲が終わっても腕にぶらさがってて、離してくれないんですよ!? 腕が自由にならないって、恐怖ですよ! 恐怖!」
「災難だったわね……」
まくし立てるような勢いで、テオの愚痴が止まらない。
「お嬢……なんであんな人が王女なんですか? うちの国の王女様、あんなじゃないですよね?」
「知らないけど……オスカー師匠が言うには、あの王女は奔放で情熱的なタイプらしいわよ」
「冗談じゃない……なんで俺なんですか!? しかも顔? 顔が好きって言われても……」
「あら。それはいいことじゃない。私もテオはイケメンだと思うわよ?」
「普通は思うだけなんです! それだけが理由で相手の腕にぶら下がったりしない!」
まあ……
それだけ嫌だったってことね。
相手を気に入ったのなら応援するけど、ちょっと気の毒だわ。
別に、テオは私のものってわけじゃないけれど。
でも、護衛としてずっと側にいてくれた存在。
それをいきなり現れた第三者に奪われるというのは、私としても気分が良くないわね……
……ヤキモチではないわよ?
あくまで、雇用主としての問題よ!
どうしたものかしら。




