オーラが視えましたわ!
「見える色というのは、人によって違ったりするんですの?」
「そう……個人差がある。たとえば好意がオレンジに見える者もいれば、黄色っぽかったり、赤みが強く出る者もいる」
「じゃあ、色の意味は絶対的ということでもないのですね?」
「うむ。重要なのは自分の目がどう認識しているかを知ること。だからこそ、訓練が必要なんですな」
「……なんだか、色占いみたいですわね」
「まあ、それと似たようなものかもしれんが……占いよりはかなり正確ですぞ?」
オスカー師匠が、茶目っ気たっぷりにウィンクをしたので、思わず笑ってしまう。
同じ能力を持った者同士だけの共感──それと安心感。
この人になら、何でも相談できそうね。
さっそくだけど、オーラの見方を教えてもらいたいわ!
「では、教えてください。師匠」
「よろしい。まずはオーラというものが、どの次元に存在するものかを説明しよう」
オスカー師匠は、机の上に紙とペンを用意した。
「この世界の構造は、我々が知覚している『現実層』だけではない。ほんのわずかにずれた場所に、『感応階層』という領域が存在しておる」
「感応階層……?」
「俗に『アストラル領域』などと呼ばれる概念に近いですな。そこには感情や記憶、魔力の痕跡など、目には見えないものが漂っている」
「……つまり、オーラはその『感応階層』に浮かんでいるのですの?」
「その通り。我々の感情は、微細なエネルギー反応として、別の領域に滲み出るのです」
なんだか急に、ちゃんとした学者っぽくなってきたわ、師匠。
今日はお酒を抜いてきていただいて、正解ね。
「普通の人間にはその層は視えない。しかし──我々のような者は、『第2視覚』セカンドサイトと呼ばれる特殊な感覚を持って生まれる」
「……セカンドサイト?」
「別の階層に焦点を合わせるための、裏の視点のようなものですな。それを我々は、セカンドサイトと呼んでいるが、それこそが『特別眼』の能力なんじゃよ」
特別眼。それが、セカンドサイト。
──別の次元を視る能力なのね。
師匠が書いてくれる図を見ていると、なんとなくイメージできるような気がするわ。
「じゃあ、わたしがたまに見てしまう過去視も……?」
「そう。『過去視』は、感情や思念の強い痕跡が、物体のセカンドサイトに焼き付いている状態。君はそれを視ているのだよ」
「じゃあ……わたしが見ているのは、幻ではなく、感情の残滓……」
「うむ。時間の流れが少し違う階層の情報だな。視ようとする意志と、『焦点のずらし方』によって、視える内容も変わる」
なるほど、わたしが『見たい』と思ったときだけ視えるのは、意志と焦点の問題だったのね。
面白いわ。
過去に焦点が当たっていたからだったとは。
「オーラ視は、その中でも基本にして基礎。まずはセカンドサイトの表層──『感情層』と同調する訓練から始めよう。なに、コツをつかめばすぐにできる。現在の感情に焦点を当てるのだから、リファクトも簡単じゃ」
「リファクト……?」
「ふぉっふぉ、リファクトとは……要するに『焦点ずらし』じゃよ。目で見るな、心で視るんですな。過去視のときと同じように、心のチャンネルを合わせるのですぞ!」
──心のチャンネルって……
なんか、急にスピっぽいんですけど!
でも、不思議と嫌な感じはしない。
だってこの人、ちゃんと視えているんですものね。
過去視をしているときは、急にいつもあたりがセピア色に見え始めるのよ。
あれが焦点ずらしかしら……
でも、あれは物体に触れることでチャンネルが変わる感じよね。
オーラの場合は、触れずにチャンネルを変えるということなんだけど……
コツがわからないわ。
「あの……過去視のときは、物体に触れることでチャンネルが切り替わるような気がするんですけど、オーラの場合はどうやって焦点をずらすのですか?」
「そうじゃのう……君が触れることでチャンネルを切り替えているというなら、まずは触れて練習してみるとよいかもしれんのう? どれ、ワシの頭を触ってみるか?」
「え……それは、ちょっと……」
「自分の頭でもいいぞ? あそこの鏡の前に行って、頭に触れながら、オレンジの光が見えるところを想像してみるんじゃ」
言われたとおり、部屋の奥にある姿見の前まで歩いていく。
全身が映る大きな鏡。
見慣れた自分の顔がそこにある。
「じゃあ……頭に触れながら、オレンジの光を……」
指先でそっと、こめかみのあたりに触れてみる。
心の中でイメージする
──知りたい、もっと視たい……わたしは今、とても興味がある。
すると──ふと世界が揺れた気がした。
視界の色が、ほんの少しだけ変わる。
鏡に映る自分の頭の上に、うっすらと光が視えはじめた。
まるで夕焼け色の煙のように……
「……視えた」
確かに──オレンジのオーラ。
なんてキレイなの……
こんな美しい光は初めてみたわ。
「師匠! オーラが、見えましたわ!」
思わず大きな声を出して振り向くと、オスカー師匠がにんまり笑ってうなずく。
「おお、見えたか。どうじゃ、思ったより簡単だったろう?」
「はい……あらっ! 師匠の頭の上にも……」
「視えておるか? 何色じゃ?」
「オレンジですわ! とってもきれいな!」
「そうじゃろう、そうじゃろう。ふぉっふぉっふぉっ」
なるほど……
とっさに振り返ったけど、今はセカンドサイトに焦点が合っているのね。
この感覚を覚えておかないと。
「どうやら君は、触れることでチャンネルを切り替えているようじゃな……であれば、こめかみに指を当てたときには、このチャンネルに焦点が合う、と覚えておくといいじゃろう」
わかったわ。
後は訓練あるのみ!
一度焦点を戻して、またこめかみに指をあてて、セカンドサイトへ焦点を移す。
何度かその練習をしていると、自然に切り替えができるようになってきた。