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【第一話】『婚約破棄は円満に』有罪ですわ

こちらは、「お騒がせ令嬢ヴィヴィアン」の連載版です。

第一話の内容は、短編版とほぼ同じですので、ご了承ください。

短編版をすでに読まれた方は、第二話以降を楽しんでいただけるとうれしいです。

 わたくし、ヴィヴィアン・ド・モンテローズ伯爵令嬢。

 目の前に座っているのは、婚約者のハロルド・ド・ローエン伯爵令息ですわ。

 今日は月に一度の、婚約者同士のお茶会ですの。

 ローエン伯爵家自慢の庭に招待されて、ガゼボで香り高いお茶を飲む……

 なんて優雅な午後のひととき……


 ……なわけないわ!

 こんな窮屈なドレス着せられて!

 コルセットが苦しすぎて吐きそう。こんなの、前世の拷問レベルでしょ!?

 おまけに婚約者は口ベタでなーんにも話さないし!

 まるで観葉植物とお茶してる気分よ。

 婚約して一年になりますけど、私アナタのこと、なーんにも知りませんけど!

 いつになったらしゃべるのかしら。この人。 


 ……と思っていたら、風が吹いてきて、ハロルド様の手袋がポトリと落ちた。

 「ハロルド様? 手袋が落ちましたわよ」

 何か難しい顔をして考えごとでもしているのか、手袋が落ちたことにすら気付いていないわね。

 仕方なく、手袋を拾い上げるとその瞬間、ふっと視界が揺らぐ。


 あ。

 これ、過去視だ。

 この手袋に触れた人物が何をしていたのか、セピア色の映像となって映し出される、私の特殊能力。


 ──白くて細い指?

 ──その指の持ち主は、手袋を両手で抱きしめるようにして、顔を寄せ——


 はぁああああ?

 今の……何?

 絶対女だよね?

 しかも、やけに大事そうに。

 いやいやいや、アンタ、すました顔して呑気にお茶飲んでる場合じゃないでしょ!?

 「この手袋……ハロルド様のものですよね?」

 「……私のだが?」

 怪訝そうな声。

 うん、そうよね。

 でもさ、その手袋に頬をくっつけて、まるで恋人のように抱きしめていたのは、一体誰なの?


 気になるわね……もうちょっと何か手がかりはないかな。

 ハロルド様のそばには一冊の本。

 この人、本なんて読むの?

 読んでるところ、見たことないんだけど。


 「何を読んでいらっしゃるの?」

 興味があるふりをして、さりげなく手を伸ばす。

 本の表紙に触れた瞬間、またしても視界が揺らいだ。


 ──本を胸に抱く色白の腕。

 ──美しい髪。


 だんだんと、女性の姿が鮮明になっていく。

 どこかで見たことがある貴族令嬢だわ。

 女性をやさしく後ろから抱きしめるたくましい腕は……

 ……あ、この袖飾り、見覚えがあるわ!


 はい、ハロルド様。

 有罪確定。


 ◇


 自分の屋敷に戻って、部屋のソファにどさっと腰を下ろす。

 あー疲れた。やっと拷問コルセットから解放されたわ。

 「さて、どうしましょうか……」

 ここまでくると、もはや確定よね。

 ハロルド様には、間違いなく恋人がいる。

 別に腹は立ってないし、好きな人とは一緒にさせてあげたいと思うけど、そう簡単にはいかないのがこの貴族社会なのよねえ。

 私としては他に想い人がいる婚約者なんてまっぴらだから、穏便に婚約解消したいんだけど。

 お父様はそう簡単には許してくれないわね。


 「お嬢様、悪だくみ中ですか?」

 ノックの音。

 幼なじみで、護衛騎士のテオだ。

 「ちょっとね。面白いことがあったのよ」

 「またですか? 何か危険なことなら止めますよ」

 「危険なんてないわ。ただ……少しテオの協力が必要ね」

 テオドール・ド・ラングレー

 うちの伯爵家の隣にある、ラングレー子爵家の四男だ。

 小さい頃から一緒に育ったので、私のことなら彼が一番知ってる。

 そう。ヒミツの能力のことも。


 「で? 今回は何を見たんです?」

 「ハロルド様の浮気現場……のようなもの、かしら」

 「未来視?」

 テオが思い切り眉をひそめた。

 「違うわ。あれは過去視よ。たまたま彼の手袋を拾ったの。そしたら過去視が発動して……知らない女性が、それを愛おしそうに抱きしめていたのよ」

 「過去ならすでに手遅れか……」

 「それから、本にも触れてみたわ。そしたら、その本を持っていた女性が、泣きながら走り去ったの。それと、落ちていたペンを拾ったときは、ハロルド様が手紙を書いて苦しそうに破り捨てているところも見えた」

 「……それって」

 「どう考えても、ふたりは想い合っているのに、諦めようとしているみたいなのよねえ……」

 「で?」

 「どう考えても、私が邪魔者ってことでしょ? まあ、そういうことなら? 想い合う者同士一緒になってもらおうかと」

 「お嬢は、それでいいのかよ? まあ、ショック受けてるようには見えないけど」

 「当たり前でしょ! ハロルド様なんて、婚約者という名のオブジェみたいなもんだったんだから。むしろ好都合だわ」

 「なるほど……で、その令嬢の名前は?」

 「それが、顔は見たことあるような気がするけど、名前が思い出せないのよ」

 「じゃあ、俺が調べますか」

 「ええ、お願いするわ」



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