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男爵の庶子で女神の奇跡の乙女がが王子の寵愛を受け婚約破棄を唆した?いえ、それ全部嘘です。

作者: 渡辺 佐倉

――絶対に、絶対に許せなかった。


私の家族を切り捨てたあいつらも、それをなかったことにしたやつらも、私たちの不幸の上にぬくぬくと暮らすあいつらも許すわけにはいかなかった。



* * *


私がまずしたことは新しい身分を作ることだった。

私が私だと気が付かれるのは避けなければならない。



一旦貴族の立場を捨て平民になった。

それから、丁度高齢で無くなってお家断絶となるところだった男爵家を見つけてのっとった。

そして庶子としてその男爵の娘となった。

実際は私の両親はこの男爵と何の関係もない、辺境領の出身だ。


それからお家断絶となるほどさびれた男爵領を盛り立てた。


男爵領の畑という畑は今までの倍以上の実入りがあり、熱が出たという子がいると令嬢である私が駆け付け祈った。

すると翌日にはその子は元気になっている。


そういうことを繰り返した。

途中で男爵が亡くなってしまったのも良かった。家臣の中で背格好の似たものを男爵として私はその娘としてふるまえた。

この国の中枢を許せていないのは家臣たちも一緒だった。

だから、復讐なんて何も生みません。なんて言わず何人もの人間が私についてきてくれた。


それに精霊たち。

元々私たちは隣国との境にある辺境伯領で幸せに暮らしていた。

辺境伯の娘たちには時々精霊に愛されるものが生まれるという。

このことは外のものには知られていないけれど、実りの少ない辺境で暮らせるようにという神様の思し召しなのだろうと父である辺境伯は言っていた。


そんな父も母も優しい兄ももういない。

王家に隣国と繋がっていると冤罪をかけられ全員処刑されたからだ。

若すぎた私だけが放免となった。


けれど、それは冤罪だった。

私に見張りすらいないことが物語っている。

本当に隣国と通じて国家転覆をはかっていたなら放免となった私に隣国が接触してもおかしくない。

そんなものはないし、監視すらない。


遺された家臣たちと調べた結果出てきたのは王家による、冤罪。

他の有力な貴族に辺境伯という侯爵位相当の爵位を渡したかったことと我が家の力が邪魔になったこと。


それ以外にも甘い汁を吸いたい貴族たちの思惑があって王家に協力した。


そして両親たちは代々必死に国境を守っていたのに裏切者とされて死んだ。

歴史に残る筈だった一族の栄光は全て塗りつぶされたと聞いた。



許せなかった。許せるはずが無かった。



* * *


私が起こした奇跡の噂が王都にも広がり教会の者が来た。

そしていつも通り老人の病をいやし、子供の傷をいやし、人の飲めないはずの汚れた泉を浄化して見せた。

教会の司教たちは何やらひそひそとした後、私を教会に案内した。


私は女神の神子と呼ばれるようになった。

お家断絶寸前という事で通うのを辞退していた貴族の学園にも通えるようになった。


そこには私たちの家を滅茶苦茶にした家々の子供たちが沢山、沢山通っていた。


私は一人一人、まずは下級貴族から近づいてその男たちを篭絡した。

別に本当に身は捧げていない。

ただ、手を握って「あなたの気持ち分かります」などとその男の欲しそうな言葉を言っただけだ。


それから精霊の力を少しだけ借りて、ドラマティックな出会いを演出した。


態と強い風が突然ふいてハンカチが飛んでしまったり、木の上にのってしまったり。

変な場所に水たまりが有ったり。

そういう自然な出会いや、運命的なエピソードは皆精霊に協力してもらった。


もう一つ、私の髪の毛の色と瞳の色を精霊たちは変えて見えるようにしていてくれた。

私は辺境伯であった父と同じ銀髪だったためだ。


ピンク色にも見えるブロンド。というのも物珍しく、いかにも神子めいていてよかったのだろう。

私に傾倒する男は多くなっていった。

それだけでその婚約者である女子生徒は怒っていた。

その事実だけで私を嬉しくするとは知らずに。

私は婚約者が決まる前に家がなくなってしまったから。


そうやって学園中は滅茶苦茶になった。

次世代を担うはずの貴族たちが学ぶこと以外に時間を割いているのだ。

それだけで損害がある。


女子生徒の中には私に嫌がらせをするものもあらわれた。

私を取り合うためトラブルになった男子生徒もいると聞く。


ばっかじゃないの。と思う。

けれどそれを隠して大げさに、ようやく取り入ることのできた王子たち生徒会メンバーに被害として話した。

それを裏どりもしないで信じちゃう人たちがこの先この国を取り仕切る予定の国って恐ろしいと思った。

男たちにちやほやされながら、女神の加護が有るらしいってだけのちょっと見た目が珍しい女の子にに手玉に取られちゃう人たちがやばすぎるという事だけはわかっていた。

国境に接しているという事で、お兄様の教育にもちゃんとハニートラップ関係のものは入っていた様に思えた。

私は小さすぎて、『だめだよ』と覗きにいったお部屋から追い出されてしまったけれど。

そう言った、兄の声がどんな感じだったのか段々思い出せなくなっているのが辛かった。



けれど、それでも私は大事な人たちを滅茶苦茶にしたこの国が許せなかった。



* * *


「マーガレット!!女神の神子であるララをいじめるとは許されない暴虐!!

お前との婚約を破棄する!」


こぼれそうになる笑みがおさえきれずそれを隠すように王子に体を摺り寄せる。

ただ、気持ち悪くて鳥肌が立ちそうだった。

シースルー素材のロンググローブをつけていてよかった。


けれど私の笑みだけは公爵令嬢に気が付かれて、「これだから小娘は……」と言われた。

勝ち誇った笑みに見えたらしくよかった。

お前も我が家の没落に直接の関与はしていないものの王家を唆して放置した家の人間だ。

行きつく先が婚約破棄なんて馬鹿みたいと思うけれど、公爵令嬢にも別に同情はしなかった。

それに、私は婚約を破棄して欲しいとも代わりに王子妃になりたいとも一度も言っていない。そんなものになりたくはない。


許すつもりは無い。

婚約者がいなくなった人間を都合よく新しい素敵な人間がという事はない。少なくとも私が徹底的につぶしてやる。


そういう風に幸せになれる人間は、優しい人間か能力の高い人間だけだ。

私の正体を見破れず、私を小娘と呼び続けるこの女には両方足りない。


「言い逃れできると思っているのか!!」


王子が唾を吐くように叫ぶ。普通に汚いのでやめて欲しい。


「お前は、ララの持ち物を壊し、学園から孤立させ、そしてあろうことに破落戸に襲わせようとした」


もう言い逃れはできないぞ!!


「殿下、やっていないものはやっていないのです」


公爵令嬢はにっこりと笑った。


「殿下に最初に、平民女が近づいた際にご忠告申し上げました。

その時陛下が私に王家の影をつけてくださったのです」

「影だと!?」


王子は驚いているが当たり前だ。

王子にも何人か常に監視が付いていることを私は知っている。

だからこそ私は危ない橋を渡れたのだ。

少なくとも貞操の危機は無い。

男爵家の庶子はままあるが、王家の落とし子はお家騒動として許されないものなのだろう。

私も復讐はしたかったがそこまでこの屑に差し出す気にはなれなかったし、忠臣たちに止められた。


「陛下?私の身の潔白を証明してもよろしいでしょうか?」


公爵令嬢はそれなりに準備をしてこの場に臨んだらしい。

国王は少しだけたじろいだものの「よい。許す」と言った。


そこであかされる公爵令嬢の身の潔白。

いかに公爵令嬢が素晴らしく国に献身していたか。


それに対して馬鹿王子が馬鹿に過ごしていたか。

第三者からみて馬鹿に見えるように導いた人間である私も、ここまで馬鹿になるとは思わなかった馬鹿っぷりを王子は晒していたらしい。


「申し開きはあるか!!」


国王がこちらをにらみつけた。

ああ。あの日の様だと思った。

冤罪で我が一族を断罪したあの日のようだと。


今度は冤罪で我が子を裁くのだ。

愚王としての行動として最高ではないの!!


私はわざと怖がるふりをして見せつけるように王子にしがみついた。


「第一王子と公爵家令嬢マーガレットの婚約は第一王子有責として破棄する。

また第一王子は廃嫡とする!」


ヒッ。王子の喉から悲鳴のようなものが聞こえた。

私はわざとらしく王子から離れた。


「女神の神子よ、そなたは本当に女神の寵愛をうけているのか?」


国王が私を見た。

私は首を傾げた。

私が女神の寵愛を受けている。と自分自身で言ったことは無かった。

実際に使っていたのも女神の力ではなく、精霊の力と家臣たちのちから、それから両親たちが遺してくれたいくばくかの金の力だ。


「ここに女神の加護を受けたものが触れると神秘なる光があふれるという魔導具がある。触れてみよ」


『ねえ、代わりにひからせてあげようかー』

『にじいろー。虹色の光をふらせてあげるよー』


精霊たちが言うのを小さなジェスチャーで断る。

女神の加護があるという事でどこかに閉じ込められても困る。

それなら処刑された方がまだマシだし、逃げ出しやすい。


奇跡を使う事を強要されたくもない。




私が触れても魔道具には何も起きなかった。


公爵令嬢が勝ち誇った様な顔をしている。

あの女の差し金かと気が付く。


「神子を騙ったこの女を追放刑とする!」


騙ったことは無いのだけれど、そんなことはどうでもよかった。

追放刑でよかった。

勝手に出ていける。


家臣たちも皆ついてきてくれるだろう。

私が学園で集めた貴族たちの醜聞をまき散らした後で。勿論それはあの甘い汁を吸っていた貴族たちの家門や関係している者たちのだ。

今まで必死に集めてきた物を全てばらまいてやることにした。

王家も今は醜聞で余裕が無い。どうすることもできないだろう。


これでこの国は混乱のさなか、だろう。

国外追放?ちょうどいい。

辺境紛争のもう一つの関係者のいる隣国へ行って、あの国も同じ目に合わせてやる。


幸い、精霊たちはこんな私でも味方をしてくれている。


『当たり前だよー!!』

『精霊の愛おし子だもん』

『精霊だからって、やられてもやり返すななんていわないよー』


私にしか見えない、光の粒たちがそう言った。

彼らの協力なしではここまでこの国を無茶苦茶にすることはできなかった。

私と一緒に多くの豊穣をもたらす精霊が移動することによって、本当の意味でこの国はもう“御終い”だ。

女神の寵愛は無くとも奇跡は起きていた、様々な別の方法で起こしていた。

けれどそれも今日で終わり。

そうなった時この国はもちこたえられるのかしら。


それに、治癒をせよと王家から命じられたもののうち、両親の冤罪による処刑に関わったものと発覚しているうちのものは実際に治癒はしていない。

痛みを軽くしたりはしているのもののいずれはとけてしまうまやかしだ。

私は女神の神子を騙っていたらしいのでそこは自分たちでどうにかして欲しい。


もしどうにもならなくなって、私のことを調べようとしても最初から男爵は死んでいて娘なんていない。

どうすることもできないのだ。

その上ほぼ立太子することが決まっていた第一王子を廃してしまったのだ。

あの王子は本当は優秀だった部分もある。

残りの王子たちはにたりよったりのぼんくらだ。

そのぼんくらがぼんくら同士争っている。

追い詰められているのに、仲間を必死になって蹴落とそうとしている国がどうなるかなんて、ねえ。


その間に私は隣の国に潜入して、同じように国を中から腐敗させる準備をする。

さしずめ、追放された令嬢は、隣国で王太子の愛を得るって事かしら。そのほとんどは嘘だけど。


だけど、全部、本当に全部終わったら。

故郷に帰って静かに暮らすことを夢見て、私は隣国に向かうのだった。

余談:本名がララではなく男爵令嬢になった時の名がララです。

12月は忠臣蔵の季節ですねという短編でした。

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