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村人Bが神になってやる

かつて、村の片隅にひっそりと暮らす一人の青年がいた。彼の名はリューク。どこにでもいる普通の村人で、特に目立った才能もなく、誰からも注目されることはなかった。彼は村人Bと呼ばれ、日々の平穏をただ生きるだけの存在だった。


 リュークは自分の平凡さを痛感していたが、それでも大きな野望を抱くことはなかった。日々の生活に満足しているわけではなかったが、不満を漏らすこともなかった。何より、自分が何者かになれるとは思っていなかったのだ。


 だが、そんな彼の運命は突然変わる。ある日、彼は村の裏山にある古びた祠で、奇妙な光を見つける。その光に導かれるように足を踏み入れると、そこには不思議な石が祀られていた。


 「なんだ、これ……」


 リュークは無意識のうちに手を伸ばし、その石に触れた瞬間、彼の体はまばゆい光に包まれた。そして、次の瞬間、彼の目の前には壮大な神殿が広がっていた。


 「ここは……どこだ?」


 辺りを見回すリュークの前に、一人の老人が現れる。彼の姿はまさに神そのものであり、その眼差しはリュークを鋭く見つめていた。


 「お前が選ばれし者だ。神の座を継ぐ者として、ここに召喚した」


 リュークの胸に、かつて感じたことのない興奮が湧き上がる。平凡な村人Bだった彼の運命は、この瞬間から大きく動き出した。


リュークは驚きと困惑の中で老人に問いかけた。


「神の座を継ぐ者?それは一体どういう意味なんだ?」


老人は微笑みながら答えた。「ここは神界。人間界とは異なる次元に存在する場所だ。この世界には数多くの神々が存在し、その中で最も偉大な神、創造神の力が今失われている。お前はその創造神の後継者として選ばれたのだ。」


リュークは信じられなかった。自分が神の後継者だなんて、ただの村人Bだった自分にそんなことができるはずがない。しかし、老人の言葉には何か得体の知れない説得力があった。


「でも、どうして僕なんだ?僕には何の才能もないし、ただの普通の村人だよ。」


老人は優しく首を振り、「それはお前が思っているだけだ。全ての者には潜在能力が眠っている。お前がそれを目覚めさせることができるかどうか、それを試すためにここに来たのだ。」


リュークの胸の中で何かが燃え上がった。今まで感じたことのない感覚だ。村人Bとしてただ日常を送っていただけの彼に、新たな目標が生まれた。


「わかった。やってみるよ。村人Bが神になるってのも、悪くないかもしれない。」


老人は満足そうにうなずき、リュークに一冊の古い書物を手渡した。「これは『神の書』だ。ここには神としての力を習得するための全てが記されている。お前の旅はこれから始まる。」


リュークは老人から受け取った『神の書』を慎重に開いた。中には見慣れない文字や図形がぎっしりと詰まっていた。意味が理解できない箇所も多かったが、それでも何か不思議な力がこの書物に宿っていることを感じ取った。


「最初の試練は、この書に記された神の言葉を解読することだ。お前の心と知恵を試すためのものだ」と老人は言った。「神になる道は容易ではない。だが、この書を理解し、力を手に入れた時、お前は新たな力を得るだろう。」


リュークは頷き、神殿の一角にある静かな部屋へと案内された。そこには簡素な机と椅子があり、彼は早速『神の書』に取り組むことにした。文字を読み解くにつれ、彼の頭の中に不思議な映像が浮かび上がってきた。光の筋が交差し、異なる次元が重なり合う様子がまるで現実のように鮮明に見える。


「これが、神の力の片鱗か……」


その瞬間、彼の体が一瞬震え、意識が飛びかけた。だが、強い意志で自分を支え、書に集中し続けた。次第に、文字が意味を持ち始め、リュークの中で新たな力が芽生えていることを感じた。


「これでいいのか?」リュークは自分に問いかけた。


しかし、返ってきたのは自信のある声だった。「これでいい。神の道は、一歩ずつ進むものだ。」


こうしてリュークは、神への道を歩み始めた。村人Bとしての平凡な日々は、遠い昔の記憶となりつつあった。


数日が経った。リュークは毎日神の書と向き合い、神殿内での静かな生活を続けていた。解読するたびに、力の断片が体の中に浸透していくような感覚が広がっていく。彼の中で眠っていた何かが、少しずつ目覚めているのを感じた。


そんなある日、老人が再びリュークの前に現れた。「よくやっているな、リューク。しかし、これからが本当の試練だ。今度は実践だ。お前には実際に神の力を使い、試練を乗り越える準備ができているはずだ。」


リュークは緊張しつつも、確かに以前の自分とは違う感覚があった。力を感じるのだ。「わかりました。どんな試練ですか?」


老人は微笑み、杖を掲げた。すると、周囲の風景が急に変わり、リュークは見知らぬ荒野に立っていた。空は不気味に赤く染まり、遠くに怪しげな影が蠢いている。そこには巨大な怪物が立ち塞がっていた。


「お前の最初の試練は、この怪物を打ち倒すことだ」と老人の声が遠くから聞こえてくる。「その力をうまく使え。お前はすでに神の力を少しずつ手に入れている。今こそそれを証明する時だ。」


リュークは深呼吸をし、体内に眠る力を引き出そうと集中した。手に感じる熱、そして全身に広がる力。それは、村人Bだった頃の自分では想像もつかない力だった。


「やってやる…!これが、僕の新しい運命だ!」


そしてリュークは、覚悟を決めて怪物に向かって走り出した。


リュークは荒野を駆け抜け、怪物の前に立ちはだかった。その巨大な姿に圧倒されそうになるが、村人Bとしての平凡な自分を超えるため、恐怖を押し殺した。怪物は、赤い瞳でリュークをじっと見つめると、地響きを立てて一歩踏み出した。振り上げた腕は大木のように太く、その一撃はリュークを容易に粉砕しそうだった。


だが、リュークは冷静に神の書の教えを思い出す。「力を恐れず、流れに身を任せよ」。彼は拳に力を集中させ、その中に宿るエネルギーを感じ取った。


「今だ!」


怪物の攻撃が迫る瞬間、リュークは体の奥から湧き上がる力を解き放ち、右手を突き出した。その手から放たれた眩しい光が、怪物の拳とぶつかり合い、激しい衝撃波が荒野に広がる。リュークの全身に力がみなぎり、手応えを感じた。


「これが、神の力……!」


驚くべきことに、怪物はその一撃で大きく後退し、リュークの放った光に包まれながら徐々に消滅していった。荒野に静寂が戻り、リュークは肩で息をしながら、勝利の感覚に浸っていた。


「やった……本当に、僕にもできるんだ……」


その瞬間、老人の声が再び響いた。「よくやった、リューク。だが、これはまだ始まりに過ぎない。お前は確かに力を手に入れつつあるが、神の座を手に入れる道は険しい。さらなる試練が待っている。」


リュークは拳を見つめ、微笑んだ。もう、かつての村人Bではない。彼は、神の座を目指す冒険の最初の一歩を踏み出したのだ。


リュークは怪物を倒した後、しばらくその場に立ち尽くしていた。自分の手が信じられなかった。かつては村の片隅で静かに暮らしていただけの存在が、今や神の力を使って巨大な怪物を打ち倒すまでになったのだ。


「これが……俺の新しい力か……」


そのつぶやきに、確かな実感がこもっていた。しかし、老人が言った通り、これはまだ始まりに過ぎない。リュークの前に立ちはだかる試練は、これからますます厳しくなるのだろう。だが、不思議と恐怖はなかった。むしろ、その先に待つ未知の力と運命に対する期待感が、彼の心を躍らせていた。


「次はどんな試練が待っているんだ?」


リュークはふと周囲を見渡した。荒野は変わらず赤い空が広がっているが、怪物の消滅した場所に何かが残っていることに気づいた。ゆっくりと歩み寄ると、そこには輝く水晶のような石が浮かんでいた。


「これは……?」


手を伸ばし、慎重にそれを掴んだ瞬間、石から強烈な光が放たれ、リュークの体に吸い込まれるようにして力が流れ込んできた。体が熱くなり、まるで新たな力が解放されるような感覚が彼を襲った。


「なるほど、試練を乗り越えるたびに力が与えられるのか……」


彼は拳を握りしめ、その力の高まりを感じながら、さらなる試練に向けて歩を進める決意を固めた。神への道はまだ遠いが、一歩ずつ確実に近づいていることをリュークは確信した。


新たな力を得たリュークは、ふと辺りを見渡し、どこに向かうべきか考えを巡らせていた。この荒野に次の試練が待ち受けているのか、それとも別の場所に移動しなければならないのか――その答えはすぐに見つかった。遠くの地平線に、微かに光る塔のような建物が見えたのだ。


「次の試練はあそこか……」


リュークは決意を胸に、その塔に向けて歩き始めた。足元の荒れ果てた大地が彼を拒むようにざらついているが、彼は怯むことなく進んでいく。神になるための道は、もはや引き返すことができない。


道中、彼は神の書を再び取り出し、力を得る方法について更に読み進めた。これまでのように試練をクリアするたびに力が与えられるのは確かだが、それだけではない。神の書には「盟友」についての記述があった。神の座を目指す者には、力を共にする者、すなわち盟友の存在が不可欠であるという。


「盟友か……」


リュークはその言葉を反芻した。これまで一人で戦ってきたが、この先には誰かが必要になるのかもしれない。そう考えながら塔に向かって歩き続けていると、突然、背後から風のような音が聞こえた。


振り返ると、そこには青い髪を持った少女が立っていた。彼女の瞳は不思議な光を宿し、リュークを真っ直ぐ見つめている。


「あなたがリュークね。私も同じ目的を持っている。協力してくれる?」


彼女は静かに問いかけた。その瞬間、リュークは自分に新たな展開が訪れたことを悟った。


リュークは青い髪の少女をじっと見つめた。彼女の存在感はただ者ではないとすぐに感じ取れた。だが、協力の申し出に対して即答するには、まだ警戒心が拭えなかった。


「君は誰なんだ?どうして俺のことを知っている?」


少女は微笑みながら、リュークの問いに答えた。「私はセリア。この荒野で、同じく神の力を手に入れるための旅をしている者よ。あなたの試練を見ていたの。あの怪物を倒したところをね。」


リュークは驚いたが、続けて聞いた。「じゃあ、君も神を目指しているのか?」


「そう。でも、一人では限界があることを悟ったの。神の書にも書かれているでしょ?盟友の存在が必要だって。だから、私はあなたと協力したい。お互いに力を貸し合えば、より早く神の座に近づけると思うの。」


セリアの言葉は理にかなっていた。リュークはしばらく考えた後、ゆっくりと頷いた。「分かった、協力しよう。俺たち二人なら、どんな試練も乗り越えられるかもしれない。」


セリアは満足そうに微笑んだ。「ありがとう、リューク。これからよろしくね。」


こうしてリュークはセリアという盟友を得て、再び塔に向けて歩みを進めた。二人で力を合わせ、さらなる試練を乗り越えることで、神への道は確実に開かれていく。果たして次に待ち受ける試練とは――リュークの冒険はまだ始まったばかりだ。


リュークとセリアは並んで塔へと歩みを進めていた。二人は言葉を交わしながら、お互いの過去や目的について少しずつ打ち明けていった。セリアもまた、平凡な村に生まれ、力を求めることなく過ごしていたが、ある日突然この地へと召喚され、神の試練を与えられたという。


「私も最初はただの村娘だったの。でも、神になる道が開かれていると知ったとき、何かに導かれている気がして…」


リュークは彼女の話に共感し、頷いた。「俺も同じだよ。神なんて夢のまた夢だと思ってたけど、気がつけばこんな場所にいる。」


二人は笑い合い、互いの存在に少しずつ信頼を深めていった。道中、リュークはふと思い立ち、神の書を開いた。書には次の試練についての予言のような記述が書かれていた。


「塔の中には、心を試す幻影が現れる…か。」


セリアはリュークの横顔を見つめ、不安そうに呟いた。「幻影…それって、心の奥底にある弱さや恐れを見せられるってことなのかしら。」


リュークもまた、その言葉に少し緊張を覚えた。自分が避けてきた恐れや、認めたくない感情が幻影として現れるとしたら――それを乗り越えられる自信は、まだなかった。


「でも、二人ならきっと乗り越えられるよな。」


そう言って微笑むリュークに、セリアも頷いた。「うん、一緒に頑張ろう。」


二人は手を取り合い、いよいよ塔の入り口へと足を踏み入れた。闇の奥に何が待ち受けているのか、今はまだ知る由もない。

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