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江戸の雪月花 〜さくらの剣 第二部〜  作者: 葉月麗雄
第一章
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謎の辻斬り赤薔薇

一七二六年の暮れ頃から二七年にかけて江戸の街でとある人物が噂となっていた。

その名を「赤薔薇」という。

誰かが付けた異名ではなく、本人がそう名乗っているとか。


赤薔薇は辻斬り犯人を斬り捨てるという、辻斬り犯人専属の辻斬りという異質な存在であった。

同じ辻斬りでも無差別に斬る他の辻斬りと違い、赤薔薇が斬るのはそういった辻斬り犯人だけ。

一般の町民に手を出した事は今のところない。


江戸の町民は赤薔薇を正義の味方だと呼ぶ者もあれば、辻斬りは辻斬り。同じ穴のムジナだという者もあった。

そしてその夜も赤薔薇は現れた。


「何者だ?」


「赤薔薇」


そう答えた赤薔薇は赤い頭巾を被り、顔を隠して目だけを出し、黒地に薔薇の模様が入った着物を着て刀を持っている。


「お前たち、井筒屋の旦那を殺害した犯人だろ?この罪は死んで償ってもらう」


三人の浪人は一斉に刀を抜く。


「赤薔薇だか何だか知らねえが、俺たちに突っかかってくるとはいい度胸してるぜ」


浪人の一人が赤薔薇に斬りかかるが、居合い抜きの一刀で葬り去られる。

残る二人の浪人がその実力に狼狽する。


「その程度で辻斬りや用心棒まがいの商売が出来るとは侍も落ちたものだ」


「やかましい」


残る二人の浪人は左右から同時に赤薔薇に斬りかかっていったが、実力の差は歴然であった。

それから僅か数秒後、三つの遺体が地面にひれ伏していた。

赤薔薇は仕事を終えると赤い薔薇の絵の入った紙を辻斬りたちの遺体の上に置き、夜の闇の中へと消えていく。


⭐︎⭐︎⭐︎


現場に駆けつけた南町奉行所同心、三浦半兵衛は遺体がすべて同じ斬り口でやられている事を確認していた。


「また赤薔薇の仕業か。しかも奉行所が追っていた辻斬り事件の犯人と思われる連中ばかりを斬り殺している。。」


すべて一太刀でやられている事から相当な腕前と推測される。

三浦は南町奉行所に戻ると、大岡越前にここまで調べた事を報告に上がった。


「赤薔薇はこれまで五件の辻斬りをおこなっていますが、いずれも奉行所が追っていた別事件の辻斬り犯人ばかりでございます。それ以外の一般町民を斬ったという報告は今のところ受けておりません。腕利きの辻斬りたちを全て一太刀で仕留めているところから相当な実力者と推測されます」


「赤薔薇の狙いはわかったのか?」


「いえ、それはまだ。。個人的な恨みなのか誰か他の者に依頼されてやっているのか。引き続き調べを進めます」


「江戸の町民の間には赤薔薇を正義の味方とする声も上がっていると聞くが、たとえ相手が凶悪な辻斬り犯であろうと人斬りの罪は罪。人を斬った者は法の裁きを受けねばならぬ」


「おっしゃる通りでございます」


一礼して仕事に戻ろうとする三浦に大岡越前はひと言注意を促す。


「赤薔薇が怪我をする前の桜と同じくらいの腕を持っているとしたら見つけても一人では無理だ。単独で発見しても手を出さず、すぐに他の同心を呼ぶがいい」


「はっ!」



赤薔薇の話しは江戸城内に居る桜にもすぐに伝わってきた。


「薩摩忍び衆を調べようとしてたところにまた変わった辻斬りが現れたものね」


「まあ、その赤薔薇っていうのは何らかの事件に関わった辻斬り犯しか斬らないって話しだから私たちには関係ないだろうけどな」


泉那の言葉に桜も相槌をうつ。


「とりあえずその赤薔薇とやらは大岡様にお任せして、私は万理のお母さんに会って話しを聞いてみようと思っているんだ」


桜は薩摩の事を調べるには万理の母である滝川ゆきから話を聞く必要があると考えていた。

薩摩は謎の多い藩である。

御庭番の桜たちですらその内情はほとんど知らない。


「そうか、万理は必要以外には大奥から出られないからな。しかし紗雪さんってのは相当な売れっ子芸者で、まともな方法じゃまず会えないって聞いているけど当てはあるのか?」


「私は吉原に芸者として潜入した事があるんだよ。その時のつてを辿れば会えるかも知れないと思ってね」


「そんなつてがあったなんてさすが御庭番だな。それじゃ紗雪さんの方は桜に任せた」


「泉凪の怪我もだいぶ良くなってきたようね」


「ああ、もう少しで戦えるまでになるだろう」


泉凪はそう言って怪我をした左手をぐるぐると回して見せた。


「鬼頭家に伝わる秘伝の薬があってね。何種類かの薬草を合わせて作るんだが、私もまだ父上から作り方を伝授されていないんだよね。でも効果は抜群でこの通りさ」


切り傷によく効くという鬼頭家の薬草は直接傷に塗る物と飲み薬の二種類があった。

泉凪はこれにより通常なら三週間は動けないであろう怪我が十日ほどで腕を回しても痛みがほとんどなくなるまでに回復していたのだ。

斬られた刀傷もそれほど深くなかったのが幸いしたのかほとんど塞がっていた。


「私も何かあったらその薬貰えるのかな?」


「もちろん、桜にも渡すさ。ただ、その動かない腕だけはどうしようもないけど。。」


「そんな事は泉凪が気にしなくていいよ。じゃあ、私は吉原に出向いて来るから万理をよろしく頼むね」


桜は吉原で芸者をしているという万理の母「紗雪」こと滝川ゆきと会うためにひさしぶりに吉原の大見世「玉屋」を訪ねる事となった。

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