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江戸の雪月花 〜さくらの剣 第二部〜  作者: 葉月麗雄
最終章
42/50

品川宿 三

桜はぐっと拳を握りしめる。


「東郷景光がこの決闘状を出した相手だったとは。。」


「桜、知っている相手なの?」


「うん。紀州にいた時に一度会っていてね」


桜は幼少の頃の話を泉凪に聞かせた。

師匠美村紗希の盟友で幼い頃の桜と手合わせした事。

いつか大人になって一流の剣客となった時に再戦を約束した事。


「東郷景光が相手なら私を指名してくるわけね。ここは私がいかなければならない」


七つまではあと一刻〔二時間〕しかない。

私たちが江戸から新たな仲間を呼べないように早く勝負を決めたいんだな。

桜と泉凪はそう考えた。


〔もっとも新たな仲間と言っても源心、左近姉さんに那月しかいない。三人とも剣客ではないし、まさか紗希さんは来ないだろうし〕


「私に万一の事があった時にはあとを頼んだよ」


「そんな事頼まれたくない。嫌だよ」


泉凪は頑なに拒んだが桜はそんな泉凪を笑顔で諭す。


「泉凪にしか頼めないんだよ。二刻〔四時間〕経っても私が戻らなかったら江戸に戻って紗希さんにこの事を伝えて」


「嫌だよ。それなら私も一緒に行く」


「万一の場合って言ったでしょ。必ず勝って戻るから」


「約束だからな。必ず勝って戻って来い」


こうして桜は一人、決闘の場所となる洲崎弁天へ向かった。


「桜はああ言ったけど、やっぱり一人で行かせるのは危険だ。後で怒られても構わない。私もこっそり後を追います」


泉凪の言葉においとも相槌を打つ。


「行かなかったらきっと後悔するでしょう。桜様が逆の立場でもそうなさったと思います。私はこの事をあやめさんに報告しておきますので、泉凪様は桜様の元へ」


「おいとさん、ありがとう。後は頼みます」


泉凪も急ぎ桜のあとを追う。


おいとはこの事を江戸にいるあやめに知らせるために至急の馬を手配した。


「朝霧姐さんにこの手紙を大至急渡して」


玉屋の使いは手紙を受け取るとすぐに馬を走らせて江戸へと向かった。


⭐︎⭐︎⭐︎


江戸城大奥内にある中庭。

有島は木に止まった一羽の鳩を眺めていた。

何気ない風景である。

知らない人が見れば木に止まっている鳩を見ているだけに見えただろう。

それが伝書鳩で矢文を付けているなどと思わずに。


「これで私の役目は終わった。。おそらくもう月光院たちに私の正体が判明している事だろう」


有島は薩摩藩、厳密に言えば村田半兵衛に雇われた薩摩のくノ一。

大名のコネを利用して大奥に潜入して徳川桜と鬼頭泉凪を品川宿へ誘き出す。

それが与えられた任務であった。



あやめからの知らせを受けた月光院はすぐさま紗希を呼び内容を伝える。


「紗希、あやめからの手紙じゃ。見るがいい」


紗希は「拝見致します」と手紙を受け取り、内容を確認すると驚きの表情を浮かべる。


「これは。。有島は薩摩の回し者で桜と泉凪は品川宿まで誘い出されたという事ですか。しかも相手は東郷景光。片手の桜には最悪の相手です」


「紗希、行ってやりなさい」


「月光院様、よろしいのですか?」


「私たちは大丈夫です。あなたほどの剣客をこの大奥に閉じ込めて置くつもりはありません。行って桜を助けて来て欲しい。上様には私から申し上げておきます」


紗希は一瞬躊躇したが、おそらく東郷景光は相手の最後の切り札。

薩摩と村田半兵衛は追い詰められている。

この大奥に薩摩の忍びが来る可能性は低いであろうと判断して月光院の命に従い、桜を助けに行く決意をする。


「わかりました。月光院様、ありがとうございます。ですが、その前に一つ片付けておかなければなりません」



美村紗希が有島の元に向かっていた。

紗希の後ろから月光院が大奥の別式を数名従えてついて行く。

有島はこの時を待っていたかのように部屋に座っていた。


「桜と泉凪を品川へ出向くように差し向けたのはあんたか?」


「ごめんなさい。。」


有島は紗希に謝罪する。


「謝られても困る。事情を聞かせてもらおうか」


「実は。。」


そう言った瞬間、有島はいきなり立ち上がり紗希に斬りつけてきた。


「おっと」


紗希はこの不意打ちを読んでいたように軽く身をひるがえして避ける。


「化けの皮が剥がれたな。薩摩の手の者か? まあ問うたところで答えるはずがないだろうがな」


短刀を逆手に持ち、再び紗希に斬りかかる有島だが、相手は超一流の剣客。大人と子供の差であった。

あっけなく手を取られて捻り上げられ捕えられ、短刀を取り上げられた有島は観念したのか大人しくなった。


「桜と泉凪を品川宿に連れ出した理由は東郷景光と戦わせるためか?」


紗希の言葉に有島はにやりと笑みを浮かべると奥歯に仕込んでいた毒を噛み砕いて自害した。


「もう。。遅い。今頃徳川桜は東郷景光によって斬られている頃だろう。。」


それだけ言い残して有島はこと切れた。


「しまった。あらかじめ口の中に毒を仕込んでいたか」


紗希は思わず舌打ちした。

おそらく有島も薩摩の忍び。

捕らえられたり正体がばれた時には自決する覚悟で忍び込んでいたのであろう。

気づくのがもう少し早ければ猿ぐつわをとっさにはめる事も出来た。


「月光院様、すみません。服毒しているとは予想していませんでした。私の失態です」


「気にせぬとも良い。おそらく有島は初めから捕らえられる前提での捨て石であったのだろう。後は私たちが片付けておく。紗希は早く桜の元へ行っておやり」


「はい!」


月光院の言葉に紗希は急ぎ江戸城から品川宿へ向けて馬を走らせた。


「月光院様。。」


「万理、いよいよ最後の戦いが始まる。私たちはみんなが無事で戻ってくる事をここで祈って待つしかない。無力じゃのう。。」


「はい。私も自分の無力を痛感しております。母が品川宿へ向かってくれているようなので、私も母に命運を託します」

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