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江戸の雪月花 〜さくらの剣 第二部〜  作者: 葉月麗雄
第一章
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桜の決意

「泉凪、怪我の具合はどうだ?」


桜が二日ぶりに泉凪を見舞いに行くと、腕に三角巾を付けてはいるが、床からは起き上がって自由に歩けるまでに回復していた。


「この通り、歩いてもいいと彩雲先生から許可も出たところだ。戦いはもうしばらく無理だけどな」


「そうか。。」


元気のない桜を心配して泉凪が声を掛けてきた。


「桜、元気ないな。どうかしたのか?」


「泉凪、今の私じゃ何の役にも立たないって事なのかな」


「それはないと思う。月光院様も私も桜が居てくれたらどれだけ心強いか。でも一方で、片腕で戦えるのかという不安もあるのは確かだけど。。」


「不安にさせちゃっている時点で私は駄目なんだね」


「そう言われちゃうと困る。桜の力が衰えてるとは思わないし、実際片腕でも桜は普通の武士よりもはるかに強い。ただ。。」


「ただ、何?」


「一番重くのしかかっているのは桜が上様の養女って事なんだよ。御庭番時代なら桜さえ良ければ一緒に戦えた。でも徳川の姫となるとそうはいかなくなる」


「それならば、私が上様の養女じゃなくなればいいのね」


「おい、桜。。」


泉凪の呼び止める声も聞こえてないかのように桜は吉宗の元へ向かう。


⭐︎⭐︎⭐︎


「お義父様とうさま、お願いがございます」


「この前の件ならもう済んだ話しだ。聞かぬぞ」


「いえ、親子関係を解消して頂きたく存じます」


「なんだと?」


「私が上様と義理の親子関係でいる限り、この身が自由になりません。月光院と泉凪を助けるためにはまず、そこからしなければならないと思いました。


散々お世話になっておきながら、勝手な申し出、本来なら手打ちものと思いますが、私の一生に一度のお願いでございます。何卒、親子関係の解消を。。」



桜の申し出にさすがの吉宗も動揺を隠せない。


「そこまでして戦いたいのか?」


「戦いたいのではありません。誰かのお役に立てないのであれば私は生きている価値がない人間でございます。月光院様は今、私を必要としてくれています。必要とされる事が私にとっては幸せな事であり、生きる糧になるのです」


「そうか、誰かの役に立ちたいというのがお前の生きる糧になっているのか。。」


吉宗は再び腕組みをして考えこんだ。

そしてしばらくしてから腕組みを解き、桜に返答を返した。


「片腕での戦いと納刀の問題をどうするか?それを解決出来るのなら無理のない範囲での戦いを許可しよう。ただし、余が見て無理だと思ったら無理矢理にでも連れ戻すぞ。よいな?」


「上様?」


「お義父様でよい」


「はい。お義父様、ありがとうございます」


「余にとっては全然ありがたくないがな。しかし、いつかもう一度お前の力を貸してもらう時が来るかもしれぬと話したのは、何かの予感だったのかもしれぬな。よいか、必ず生きて帰って来い。死ぬ事は許さんぞ」


「はい!必ずまたここに戻って参ります」


それから桜は納刀の対策として、鯉口に穴を開けて鞘の入り口に指一本分の木片を打ちつけた。

納刀した際に鯉口の穴にはまるように上手く合わせてある。

これで、この木片を使って刀を滑らせて切っ先を鯉口に誘導出来る。


抜刀に関してはひたすら練習するしかない。

桜は一日何百回も居合い抜きの練習をおこなった。


桜には一つ思案している事があった。

それは小太刀の使い道である。

小太刀は長刀よりも威力は劣るが軽くて使いやすい。

小太刀を使って戦うという事も視野に入れていた。


銀龍牙しろがねのりょうがに代わる新しい技を考えなくちゃ」


片腕で両手斬りに匹敵する技を会得するために小太刀を選択肢に入れたのだ。


こうして桜が再び剣を取って戦う時が来たのである。


⭐︎⭐︎⭐︎


それから一週間後、吉宗より桜と左近の二人は期間限定で御庭番として復帰する事を許可された。


「徳川桜、十文字左近。今回だけ特別処置として限定的に御庭番の任を復活させる。必ずクラウフェルト万理とその母を狙う薩摩の忍びどもを撃退してみせよ」


「はっ!」



「久しぶりに御庭番の服装に戻ってみると不思議な感じね」


「やっぱり桜にはその姿が似合うな。お姫様も悪くはないけどさ」


「私もそう思う。でもお義父様にはそんな事言えないし」


「そうだよね。とにかく月光院様と万理を守るのが私たちの役目。行くとしようか」


桜と左近がおよそ二年ぶりに御庭番としての活動を再開した。



「龍之介、那月」


「桜さんに左近さん。二人が来てくれて心強いですよ」


そう言って真っ先に桜と左近を出迎えてくれたのは川村龍之介。後から鈴村那月も出迎えてくれた。二人は桜たちが御庭番を辞めた後に紀州から新たに呼び出され、後任としてその役目に当たっている。


「那月も大きくなったね」


「みやさん、私もう十六歳ですよ。紀州にいた時より大人になってます」


「龍之介と那月がいまや御庭番の柱だからね。でも油断は禁物。うかうかしてると紀州から新たに来る後輩に追い抜かれるよ」


「そうならないように日々精進しますよ」


龍之介が力強く答え、左近は頼もしくなった後輩たちに目を細めた。


⭐︎⭐︎⭐︎


一方の吉宗は加納久通を呼び出していた。


「久通、紀州に使いを出してくれ」


「紀州に?何用でございますか」


「知れた事よ。美村紗希を江戸に呼ぶ使いだ。桜に援軍を連れて来てやらねばならぬ」


「はっ!では直ちに」


加納久通は早速「紀州七里飛脚」を使い美村紗希に手紙を送った。

紀州七里飛脚とは江戸と紀州〔おそよ五百八十四キロ〕を二十八キロ〔七里〕ごとに中継ぎ役所を置き、荷物を運ばせる五人一組の飛脚である。


主役をお七里、それ以外の四人をお七里衆と呼び、剣術と弁術に長けたものが選ばれた。

江戸、紀州間は通常であれば片道八日かかるが、特急便の場合は四日で到着した。


こうして加納久通の手紙は美村紗希にわずか四日後に届けられたのだ。


「薩摩忍び衆か。薩摩示現流が相手となると、今の桜にはちと大変かもな」


吉宗からの書状に目を通した美村紗希は薩摩示現流と聞いて吉宗が自分に来るように命じた理由をすぐに理解した。


「上様、わかったぜ。私も今回の件に協力しようじゃねえか」


桜にとって最も頼もしい助っ人が紀州から江戸に向けて出発した。

※七里飛脚に関しては吉宗の時代にはすでにあったと思われますが活動していた正確な年月がわかりませんでした。物語なのでその辺はご了承下さい。

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