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江戸の雪月花 〜さくらの剣 第二部〜  作者: 葉月麗雄
第三章
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如月動く

「五人のうち四人までがやられたか」


薩摩山くぐり衆で頭領村田半兵衛の連れてきた五人のうち、すでに四人までやられて残るは竜胆だけとなっていた。


「確かに予想外ではございますが、私一人でも残る相手を仕留めてみせます」


如月の言葉に半兵衛は腕組みをしたまましばらく思案していた。

如月は頭領の表情を伺うも能面の中の素顔を見る事は出来ず、何を考えてどう対処しようとしているのかを待つしかなかった。


「いかがなされましたか?」


沈黙を破るように紫苑が声をかけると半兵衛はうっすらと目を開ける。


「薩摩より新たな者を呼び寄せる」


その言葉に如月は驚きの表情を見せる。

それはお前一人では心許ないと言われたにも等しいからだ。


「半兵衛様、今しばらく。今しばらくお待ち下さい」


如月が止めるが、半兵衛は首を横に振る。


「決してお前が信用出来ない訳ではない。だが、現実として四人がやられたという事に目を向けなければならぬ。こちらはまだ相手を一人も倒せておらず、そこにお前が一人で斬り込んだとて勝負は決まっておろう」


半兵衛の言葉に如月は返す言葉が見つからなかった。

いくら強がりを言っても一人でゆきだけでなく赤薔薇と紗希にまで含めた相手に戦いを挑んだところで一人でも多く道連れにする以外に勝ち目などないのは明白であったからだ。


「我らは薩摩の忍びが幕府の隠密とどこまでやり合えるのかという勝負を挑んだのだ。ここで引くのも一手かも知れぬが、それではお前も気が済むまい。なればこそ、仲間を増やして今一度油断なく戦いを挑む。それでもダメならその時はその時よ」


「半兵衛様がそういうお考えであれば」


如月は半兵衛の言葉に納得して従った。


「松風、桔梗、凛音、月光を呼ぶ」


半兵衛の命令に伝令が各方面に向かった。


「最終決戦といこうではないか。お前も早く滝川ゆきを倒さぬか。まさか怖気ついたのではあるまいな」


「滅相もございません。必ずや討ち取ってご覧に入れましょう」


如月が滝川ゆき討伐のために隠れ家を離れると半兵衛は含み笑いを浮かべる。


「滝川ゆきを討つ決断がつかずにもたついて一人だけ生き残るとは運のいい奴よ。今だに幼少の頃の恩と恋心が抜けぬ軟弱者が。お前など初めからこの計画の頭数に入れておらぬわ」


⭐︎⭐︎⭐︎


三日後、半兵衛が新たに呼び寄せた四人が集結して来た。


「松風参りました」


桔梗ききょうここに」


凛音りんねお呼びにより参上仕りました」


「うむ、あとは月光だけか」


「半兵衛様、月光はここにおります」


その声が聞こえた時、月光と呼ばれた忍びは既に他の仲間とともに参列していた。


「全員揃ったようだな。お主たちを呼んだのは他でもない。既に承知のように、我らは徳川幕府の召し抱える御庭番に戦いを仕掛けたが、相手を見くびっていたこちらの油断もあり睦月、涼風、白夜、幽玄の四人が相次いで倒された」


「睦月たち四人が倒されましたか。幕府の御庭番はそれほど手強いと見てよろしいのですか」


「松平桜と鬼頭泉凪と申す二人が手強い。一人残ったのは如月だけだが、彼奴には滝川ゆきの討伐を命じておる」


「半兵衛様、如月は滝川ゆきを斬れるとは思えませぬ。何故にゆきに彼奴を差し向けたのでございますか」


新たに招集された四人のうちの一人、月光が疑問を投げる。


「斬れぬであろうな。良いではないか」


「。。と申されますと?」


「如月が昔の温情なく滝川ゆきを斬ればそれでよし。斬れぬとなれば命令違反で処刑にすれば良い。寝返ってゆきについたとしてもまとめて始末すれば良いだけの事。彼奴は前頭領の時から滝川ゆきの派閥。ならば裏切らせた方が始末の理由もつけやすい。無論、彼奴がゆきに斬られても一向に構わぬ」


「そういう事でございましたか」


「いずれにせよ、どちらもわしにとっては不要な存在。互いに同志撃ちして消えてくれれば一番良いというもの。単なる余興よ」


四人は半兵衛が如月と滝川ゆきの共倒れを画策している事を知って納得した。


「お主たちには幕府の御庭番と戦い、これを打ち破ることを期待している。よいか、相手を見くびるな。こちらは既に四人やられているのだ。これ以上の犠牲者は薩摩に取っても恥となると思え」


そこまで言い終えると、半兵衛が補足の命令を追加する。


「一つ言い忘れておった。今、江戸を騒がせている赤薔薇という辻斬りがおるが、我々の目的遂行の邪魔をする場合は斬っても構わぬ。ただし、あくまでも邪魔だてした場合だ。何も仕掛けてこない場合は相手にせずともよい。無駄な戦いでいらぬ犠牲を出しては目的遂行に支障が出るからな」


「はっ!」


半兵衛はここでも赤薔薇にはやむを得ぬ場合を除き手を出すなと命じる。

目的を遂行する事を第一として、それ以外の無駄な戦いをしないというのが徹底されていた。

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