表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
江戸の雪月花 〜さくらの剣 第二部〜  作者: 葉月麗雄
第三章
22/50

新しい技

桜はここまでの報告のために江戸城へ戻った。

そして久しぶりに師匠である美村紗希との再会を果たした。

紗希に会うのは二年ぶりである。


「紗希さん。よく来てくれたね」


「上様からの依頼とあっちゃ断れないからな」


紗希も吉宗配下の武将である以上、主の命令には当然従う。

しかし、いつもよりやけにニコニコしている紗希を見て桜は嫌な予感がしていた。


〔なんか、紗希さんの笑顔が不気味だな。こういう時の紗希さんは大抵良からぬ事を企んでいるからな。。〕


桜の脳裏に危険を知らせる鐘の音が鳴り響くと、紗希が音もなく近寄って来て桜の頭を締め付けた。


「お前、月光院様に私が男だか女だかわからない奇人って言ったそうだな」


「え?いや、それは。。」


「奇人とはなんだ!美人だろうが〜」


頭を紗希に締め付けられてきゃあきゃあわめく桜を見て月光院は大笑いする。


「まあ、仲の良い師弟じゃな。歳の離れた姉妹のようじゃ」


「こんな乱暴な姉さんがいたら私は命が持ちませんよ」


そう言いながらも嬉しそうな桜である。




「村田半兵衛?」


桜からの報告を聞いた月光院は万理にその名を確認させるが、万理には聞き覚えのない名前だという。


「そのような人は薩摩藩の中にいなかったような。いえ、私も薩摩に住んでいた頃は幼少でしたから単に私が知らないだけだと思いますが」


「そなたの母、ゆきは知っているのですか?」


「それは母に確認してみないと何とも」


「わかった、ゆきさんには私から聞いてみる」


「桜、引き続きよろしく頼むぞ」


月光院の言葉に桜は「はっ!」と返事をする。


「おお、久しぶりに桜のその返事を聞いたのう。お姫様になって久しいが、その姿もやっぱり似合うておる。桜は何をやっても様になるのう」


「いえ、そんな。。」


「月光院様、こいつをあまりおだてると調子づきますので」


「紗希さん、せっかく月光院様がお褒めくださっているのに茶々を入れないで」


「茶々なんぞ入れてないぞ。おまえはなあ、ガキの頃からちょっと褒めると調子づくからけなしてやった方がいいんだ」


「私は褒められて伸びる性格です。けなされたら凹みますよ」


「凹んだのを見た事ないけどな」


「紗希さんの影に隠れて涙を流してたんです」


そんな師弟の漫才みたいなやり取りに万理も声をあげて笑う。


「まあ、本当にお二人は仲がいいのですね。私は母と二人で母も仕事で家を空ける事が多かったので羨ましい」


桜はそんな万理に優しく話しかける。


「万理、今のあなたは一人じゃないよ。私も泉凪も月光院や紗希さんだっている。血の繋がった親姉妹じゃないけど、いつだって力になるから」


「ありがとう、桜姫」


「桜でいいよ」


「いえ、上様の娘君に向かって呼び捨ては畏れ多くて。。」


「桜がそう申しておるのじゃ。ここは無礼講じゃ。善きに計らうが良い」


「月光院様のおっしゃる通り。無礼講だから普通に接してくれていいよ」


「そうだ、こんな風にな」


そう言って桜の頭を抱える紗希。


「ちょっと。。それは無礼講じゃなくて本当に無礼だって。行き過ぎ」


そんな紗希と桜を見て笑みがこぼれる万理であった。




江戸城では吉宗が源心からの報告を受けていた。


「薩摩の忍びは残るところ頭領を含めて二人か」


「泉凪と桜が一人ずつ。紗希さんが一人倒してくれて残る一人は赤薔薇と戦って敗れたようです」


「赤薔薇とは不思議な奴よ。敵なのか味方なのか。今度ばかりは一人倒してくれてこちらとしては助かったというところだがな」


「ですが、油断のならぬ相手である事に代わりはございません。いくら手負いだったとはいえ、桜と泉凪の二人がかりで互角という実力は脅威と申し上げざるを得ません」


「それほどの実力か。敵に回ったら厄介だな」


「はい。赤薔薇については今後も動向を注意深く監視致します」


「薩摩山くぐり衆がどう出て来るかだな。ここで引くとは思えぬ。新たな仲間を呼び寄せる可能性も視野に入れねばならぬぞ。まだ我らは何も成し得ていない。油断するなよ」


「はっ!」


⭐︎⭐︎⭐︎


桜は泉凪の道場で剣を振っていた。

普段は門下生で熱気に溢れている道場もこの日は桜と泉凪の二人だけであった。


桜は茉衣の実力を知り、あらためて右腕の動かない身で戦う厳しさを知った。

格下ならまだしも、かつての自分と同等の実力の者が相手となると体力的にも使える技が限られてしまうのも不利となる。


それは予想していた事ではあったが、心のどこかにそんな相手はいない。いるわけがないと高を括っていた。

茉衣と戦って、現実を甘く見ていたと思い知らされたのだ。


「今の私では茉衣には敵わない」


今のままでは次に戦ったら確実にやられる。

茉衣は桜を敵討ちとしているのだ。

だが、桜は逃げも隠れもするつもりなどなかった。

ここでやられるようなら、それまでだったという事。


茉衣とは戦いたくないけど、彼女の気の済むやり方も皆目見当もつかない。

なにしろ自分は彼女のたった一人の肉親の命を奪っているのだから。

そんな中で桜は次なる戦いに備えて銀龍牙に代わる新しい技を考えていた。


「泉凪、ちょっと見てくれる」


桜の依頼に泉凪は心良く応じる。


「今回、赤薔薇との戦いで今の自分の使える技だけでは厳しいと実感してね。次の戦いに備えて新しい技を色々と考えていたんだけど、小太刀を使った技が一つ出来たんだ」


そう言って桜は小太刀を構える。


それは一瞬であった。

泉凪でさえ、反応出来ないほどの剣速で繰り出された技。

それは左手一本による超高速の乱れ打ち八連撃であった。


「名付けて桜流抜刀術舞桜花さくらりゅつばっとうじゅつまいおうか


舞い散る桜の花びらのように不規則に攻撃を行う事から付けた名前だ。

小太刀が長刀よりも軽くて扱いやすい特性を活かした剣速重視の技で、師匠美村紗希の必殺技「疾風」を桜流に改良した片腕での乱れ打ちであった。

欠点としては威力が弱いために怪我は負わせても斬り倒す事は出来ないという点である。


「どう?赤薔薇の技に比べて威力は落ちるけど速度は負けてないつもりだよ」


「凄いよ桜。この技は一度見たくらいじゃ避けられない。確かに威力は落ちるかもしれないけど、相手を警戒させて迂闊に近づけなくさせるには十分だよ」


「この技は単発じゃなくて他の技と合わせて使おうと思っているんだ。これが今、片手で出来る私の精一杯」


泉凪はそんな桜を尊敬していたし、自分も頑張らなければと思うのだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ