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江戸の雪月花 〜さくらの剣 第二部〜  作者: 葉月麗雄
第二章
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桜vs白夜

赤薔薇の見回りのために江戸市中を警戒する桜とお庭番であったが、今だに赤薔薇と出くわすことはなかった。

赤薔薇が出なくとも桜たちは薩摩の忍びにも警戒の目を光らさなくてはならない。


源心と左近は見回りは龍之介と那月に任せて情報収集に奔放していた。

江戸に潜入しているで薩摩の忍びを見つけ出すのは至難の業ではある。


しかし、忍びには独特の歩き方や薩摩の人間が話す薩摩言葉なども探し出すのに有効な決め手となるため、源心と左近は街を歩く人たちにも目を光らせた。


無論、江戸に入るために薩摩言葉を封印して江戸言葉〔下町弁〕を使うが、ちょっとしたアクセントの違いは出てくる。


こういった役目はまだ経験値の浅い龍之介と那月よりも源心、左近の方が適任であった。

しかし、桜の監視も吉宗から厳命されている二人は交代で桜にも付いた。


特に赤薔薇に出くわした際には必ず止めなければ、どちらかが倒れる事になる。

むしろ片腕の桜の方が危ういという事が二人にはよくわかっていた。


桜の後ろを歩く龍之介と那月には桜の背中が大きく頼もしかった。

そして遠かった。

いつになったらこの人に追いつけるのだろう。

いや、自分たちがこのレベルにまで到達出来るのだろうか。

そんな事を考えていたがら突然それは遮断された。


「龍之介、那月。下がって」


桜の様子が尋常でない事に二人は即座に顔を見合わせてその場から離れた。


「いよいよお出ましか?薩摩の忍び衆」


桜がそう話しかける先には白い布を顔に被った人物が立っていた。


〔忍びというより剣客に近い気だな〕


桜はそう感じ取っていた。

こいつらは暗殺を得意とするらしい。三日月党に似ている。

三日月党も忍びというより剣客だった。


「我が名は白夜。幕府の隠密がどの程度なのか、その実力見せてもらおう」


桜は左手で剣の鯉口を切ると一気に抜刀した。

白夜もまた抜刀して蜻蛉の構えを見せる。


「やはりあの技か」


片腕で蜻蛉をまともに受ける事は出来ない。


焔乃舞ほむらのまい


得意の一文字斬りからの先手攻撃に出る。

それに合わせるかのように蜻蛉の斬撃が上から振り下ろされ、刀と刀が激しくぶつかり合った。

二つの技の威力は互角。

桜と白夜はすぐさま二撃目の攻撃に移る。


やはり思った通りと桜はふっと笑みが溢れた。

義父様とうさまは心配なされたが、いくら示現流と言っても紗希さんに比べたら大した事ない。

桜はここまで自分を鍛え上げてくれた師匠に感謝しつつ次の攻撃を繰り出す。


真空斬しんくうざん


真っ向斬りが白夜を襲うが、寸前で避けると一文字斬りを繰り出す。

しかし桜も連続して一文字斬りを繰り出し、再び両者の剣が激しくぶつかる。

五合、十合と打ち合いが続くと白夜は刀を持ちながら蹴りを繰り出してきた。


揚心流ようしんりゅうと呼ばれる薩摩の柔術である。

水月〔みぞおち〕、人中〔鼻と上唇の間にある急所〕などの人体急所を狙い撃ちし、締め技を得意とする。

桜も剣と共に柔術を心得ているので、技を一目見て柔術だとわかった。


「剣と柔術の合わせ技なら江戸にもある。お前たちだけの専売特許じゃない」


「だろうな。この程度で倒せるようならわざわざ江戸まで出向いて戦いなど挑まぬ」


白夜が前に出て桜の剣をよけると同時に懐に入ってくる。

桜の足を取って後ろに倒そうとしたのであろう。

倒されて抑え込まれたら片腕の動かない桜は抜け出す事は出来ず、そのまま首を締め上げられておしまいである。


だが桜は右膝を咄嗟に高く上げて白夜の額に膝蹴りを打ちつけた。

足は手の三倍から五倍の威力があると言う。

膝蹴りなら普通に蹴りを喰らわすよりもさらに威力があるだろう。


ゴン!という鈍い音がした。

並の人間なら今の一撃で脳震盪を起こしてその場に倒れたであろう。

しかし白夜は一瞬動きが止まったものの、すぐに桜から離れて距離をとった。


「今ので倒れないとは。タフなのは認めてやるが、ダメージはあったはず。次の一撃で勝負を決めてやる」


確か泉凪が戦った相手も胸をひと突きしたのにも関わらず、動けたと言っていたな。

こいつらは剣術だけでなく体の強さも持っている。

桜がそう思っていると白夜は蜻蛉の構えを見せた。


実は桜が思っている以上に白夜はダメージが大きく、勝負を長引かせられないと一気に決めに来たのだ。

相手を仕留める命を受けている以上、ここで退くのは敗北を認める事になる。


〔今の額への一撃はかなり堪えた。まだ頭がクラクラする。。早めに勝負を決めないとまずい〕


白夜は睦月が鬼頭泉凪に居合い抜きでやられた事を知っているだけに警戒していた。


「鬼頭泉凪とお前は共に居合い抜きを得意とする。だがそれさえわかっていればそう簡単にいかせぬ」


泉凪と違い、片腕の桜は刀に細工を施しての納刀である。

戦い終えた後ならともかく戦闘中の居合い抜きのための納刀は想定範囲外であった。

桜はならばと思いついた考えがあった。


居合い抜きのために納刀しようとすると、それを狙っていた白夜の蜻蛉が振り下ろされた。

その瞬間、桜は納刀せずに腰を捻り、その反動を利用して剣を放った。


焔乃舞ほむらのまい


納刀すると思っていた白夜は完全に裏をかかれ、蜻蛉よりも早く決まった一文字斬りにより一刀両断された。


「納刀して居合い抜きと見せかけて腰の回転のみで撃ち放つ焔乃舞。片腕で出来る技の一つが何とか決まった。これで二人」


実際には赤薔薇が一人倒しているので三人倒した事になるのだが、その情報が入るのはもう少し後のことであった。


「やっぱり片腕でも桜さんは強いです」


那月の言葉に桜は首を横に振る。


「いや、まともに両手が動いていたらこんなに手こずる事なく倒せていた。やっぱり影響は少なからずあるけど、この程度であれば問題ない」


桜は久しぶりの戦いにも冷静に今の自分の力を分析していた。

油断は禁物だけど、この程度であれば何とかなる。

そう思えるのはやはり師匠美村紗希の力が大きな遺産になっている。


幼少の頃から死ぬかと思うくらい鍛え上げられた事が今、自分の命を救う力の源になっている。

桜は夜空を見上げて紗希を思い浮かべていた。

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