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江戸の雪月花 〜さくらの剣 第二部〜  作者: 葉月麗雄
第二章
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山くぐり衆動く

「只今戻りました」


「如月か。どうであった?」


「残念ながら収穫なしでございます。滝川ゆきは御庭番も徳川桜の事も名前しか知らないようです」


「仕方あるまい。もしや御庭番の事を知っていればと情報を聞き出すために少しばかり始末するのを伸ばしただけよ」


「して、頭領。次の手筈は?」


「予定通り。実際に戦って相手の力量を見極めるまでよ。これまでの調べで御庭番は松平桜を含めて五人。それに大奥別式の鬼頭泉凪とやらがおるらしいが、手強いのは徳川桜と鬼頭泉凪の二人のみ。残りは敵ではないだろう」


頭領の言葉に如月はうなづく。


「徳川桜は先の三日月党との戦いで右手が動かず、鬼頭泉凪は月影が負わした怪我がまだ万全ではありますまい。どちらもまともに動けませぬ。我々にとっては絶好の機会」


「三日月党か。小田原を拠点とする暗殺集団と聞いていたが、腕が鈍ったようだのう」


「では早速四人を連れて行って参ります」


如月がそう言い終えるか終えないかの内に四つの影が姿を現す。


幽玄ゆうげん白夜びゃくや涼風すすがぜ水月すいげつ。御庭番と戦い打ち破って来い。誰が誰を倒そうと構わぬ。出来るところから順にやっていけ。俺は滝川ゆきと決着をつける」


如月の言葉に四つの影が一斉に動いた。


「さて、幕府の誇る御庭番とやらがどの程度か見定めさせてもらおうぞ」


ついに薩摩の忍び集団山くぐり衆が動き出した。


⭐︎⭐︎⭐︎


数日後、吉宗から急遽呼び出しがかかり、桜と源心たち御庭番は吉宗の元に集められた。


「お前たちも名前は聞いた事があろう。最近江戸を騒がしている赤薔薇と申す辻斬りの事を」


「はい。しかし赤薔薇は大岡様の南町奉行所が捜索しているのでは?」


源心の問いに桜を始め他の者たちも吉宗を見る。


「赤薔薇の実態が掴めぬぬえに御庭番にも捜査を手伝ってほしいと忠相から依頼がきてな。合同捜査となった」


「左様でございましたか」


源心がそう答えると吉宗は桜の方を向き厳しい表情で話しを続けた。


「赤薔薇が今のところ一般の町人に手を出したという報告はあがっていない。だが、これ以上野放しにしてはお上としても奉行所も面目というものがある。それに腕の立つ辻斬り浪人を一太刀で仕留めているところからかなりの腕と推測される。桜、余との約束覚えていような」


「お義父様とうさまは私がその赤薔薇に敗れるとお思いなのですか?」


「敗れるとは申さん。だが、無理はせぬと約束したからには手強いと思ったら引く事も考えよと言う事よ。約束は約束だからな」


「よく覚えています。もしその赤薔薇と出会い、手強いと判断したらその場は無理をせず引き上げましょう」


桜は実際に赤薔薇が強敵であれば、そうそう退散など出来ないと思っていてもそれを口に出したら即刻捕えられて牢に入れられると直感し、内心身震いした。


「源心、左近。お前たちは桜の監視役も申しつける。もし余との約束を守らず赤薔薇と無理を押して戦うような事があれば首に縄を掛けてでも連れ戻せ。よいな」


「く、首に縄を。でございますか」


無理だ。二人とも剣術においては桜の方が上なのは承知している。

源心と左近は内心そう思ったが、二人も桜同様、口に出したらどうなるか考えると「承知致しました」と答える他なかった。

こうして、桜たち御庭番も赤薔薇捜索に乗り出す事となった。




「上様、絶対私たちが桜を抑えられないのわかっているよね」


「おそらくは桜に釘を刺す意味合いがあるんだろうよ」


左近と源心がそう話しているので桜はすまなさそうな顔をしている。


「いざ戦いが始まって赤薔薇が達人なら逃げられる状況にはならないと思う。無理を押しても戦って退けるしかないって考えてるけど。お義理父様には見透かされているんだろうな」


「しかし、滝川親子を狙う薩摩の忍びに加えて赤薔薇とは忙しくなりそうだ」


⭐︎⭐︎⭐︎


「月光院様、それは何でございますか?」


「おお、泉凪。これはシャボン(石鹸)と申すものでのう。万理が長崎から取り寄せて献上してくれたのじゃ。ほれ、いい香りがするであろう」


泉凪は不思議なものを見るような目でシャボンに顔を近づけるとふわっといい香りが漂ってきた。


「本当にいい香りがしますね。これは何に使う物なのですか?」


「体や手を洗う物じゃ、顔もこれで洗うと綺麗になるぞ。なかなかに高価なもので江戸では滅多にお目にかかれぬからのう」


大奥でもシャボンは滅多に手に入らない貴重品であった。

泉凪も初めて見るシャボンに興味津々であった。


「私は生まれが長崎でしたし、母は芸者でそれなりにお金を稼いでいましたから子供の頃からシャボンで体や手を洗う習慣がついていました。長崎の知り合い商人に頼んで年に二、三回江戸に送ってもらっているんですよ。今度、泉凪と桜さんにもお贈りしますね」


「うわ!シャボン貰えるんだ」


「泉凪もこうしてみると女子だのう」


「月光院様、私は普通に女子なんですけど。何にお見えになるのですか?」


「剣を持ったら男子に見えるし、桜と一緒にいても見ようによっては男女の組み合わせに見えるのう」


月光院の言葉にがっくり肩を落とす泉凪。


「桜と並んで私が男に見えるとは。。」


そんな中、突如吉宗が大奥に姿を現す。


「ほう、いい香りがするな」


「これは吉宗殿。事前にご連絡下さればお出迎えに参りましたものを」


月光院の声に前を向くとそこには吉宗が立っていた。

突然の吉宗の来訪に泉凪と万理はその場に平伏する。


「月光院、今しがたいい知らせと悪い知らせが参った。いい方は美村紗希がまもなく江戸に到着する。お主たちと共に戦うためにな」


「美村紗希!桜の師匠が来てくれたのですか」


「この国で最強の剣客と言ってもいい人物が来てくれたからな。紗希にはこの大奥を守ってもらおうと思っている」


「ありがたき事に存じます。それで悪い方の知らせというのは?」


「薩摩山くぐり衆が動き出した。相手は今のところ最低でも六人いるという事だ。この大奥にも再び潜入を試みるやも知れぬ。用心しておけ」


「六人でございますか」


「桜からの情報だ。ありがたい事に吉原の遊郭と遊女たちが情報収集に協力してくれた。我々にとっては頼もしい味方がついてくれたわけだ」

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