死神さん
むかーしむかしあるところに、小さなクマのぬいぐるみを持っている女の子がいました。
その女の子はいつもひとりぼっちでした。
「なんで私にはともだちがいないの?」
女の子は泣いていました。
すると、クマのぬいぐるみがいいました。
「ずっとボクがそばにいるよ」
女の子はうれしくなりました。
しかし、その幸せは長くは続きませんでした。
女の子は病気になり、やがて天国へ旅立ってしまいました。
残されたクマのぬいぐるみは悲しみました。
「ボクを……おいていかないで……」
それからクマのぬいぐるみは、今も女の子を探してこの世をさまよっているのです。
とある小学校の教室では、子どもたちが怪談話で盛り上がっていた。
「はー、面白かった。でも、こういうのってドキドキして楽しいね」
「でも気を付けないと、本当によくないものが呼ばれるっていうよ?」
「大丈夫だよ。そんなのウワサでしかないんだから」
皆口々に何か言ってるけど、私、浅田 まいかは別の意味でドキドキしていた。
(なんで皆には見えてないんだろう……)
そう、私には幽霊やこの世のものでないものが見えてしまうのだ。よくいう霊感があるといわれるものだ。
「ねぇ、もう帰らない?」
「えー、まだ早いんじゃない?」
だから、もういろいろと集まってきてるんだってば!
私の心配をよそに皆笑っていた。
すると、タイミングのいいことに先生が入ってきた。
「おーい、もうすぐ下校時間だぞ? 早く帰れよ!」
「はーい!」
皆はしぶしぶ片付けを始めた。よかった、これで何も起こらずにすむ。
私がほっとしていると、さっきまでしていた悪寒がなくなっていた。
(あれ? さっきまであんなにいっぱいいたのに、今は何も見えなくなってる)
私がふと窓の方を見たら、何かが横切ったような気がしたので近くに行ってみたが、そこには誰もいなかった。
「気のせいかな……」
それから私も帰り支度をして学校の外に出た。
「あんな話聞いた後だから、早く帰ろう……」
私が学校から帰る途中、前から足まで長く黒いマントを着た男の人がやって来た。
私の近くまで来ると、ぼそっと呟いた。
「ここから先には行くな」
「え、どうしてですか? 私の家こっちなんですけど」
「つべこべ言わずに忠告を聞け」
あまりに失礼だったので、私は少しムッとした。
「なんなんですか、あなたは! 早くそこをどいて下さい!」
すると、男の人はため息をついてあっさりとどいてくれた。
(なんなんだ、この人……)
私は足早に横を通り過ぎて振り返ると、男の人はもういなかった。
「なんだったんだろう、あの人は……」
私が首を傾げて歩いていると、また前から歩くものが見えた。
しかし、今度は人ではなかった。
「なんだろう、あれ……」
目をこらしてみたところ、それはとても小さかった。それはクマのぬいぐるみだったのだ。
「なんでクマのぬいぐるみがこんなところ歩いてるのよ!」
しかも真っ直ぐこちらに歩いてきてるじゃない!
私は逃げようとしたが、足がうまく動かない。
そしてクマのぬいぐるみは、だんだんとこちらに近づいてくる。
「どうしよう……早く逃げないと!」
多分あれは皆と話していたあのぬいぐるみなんだろう。確かまだ女の子を探しているとか。
そしてクマのぬいぐるみは私の前までやって来た。
「やっと見つけた……もう離れないよ……」
その声は可愛いクマのぬいぐるみから発せられたとは思えないほどに低く、その顔は傷だらけだった。
「嫌……誰か助けて……」
私の足はなかなか動かなかった。
すると、クマのぬいぐるみから禍々しい何かが出てきて私の方に向かってきた。
「さぁ、ボクと一緒に行こう……」
私はぎゅっと目を閉じた。
しかし私には何も起きなかった。
ゆっくり目を開けようとすると、悲鳴が聞こえてきた。
「ぎゃあああぁぁ!」
私が目を開くと、目の前にはあの男の人が立っていた。
手には大きなカマを持って。
「邪魔をするな……」
「この世のものでない者よ。今すぐに成仏するがいい。なるべく苦しまずに送ってやろう」
「早くその娘をよこせ!」
クマのぬいぐるみが飛びかかってくると、男の人は大きなカマを振り下ろした。
「ぎゃあああぁぁ! どうして、またボクをおいていくの……」
クマのぬいぐるみはどんどん消えていった。その目には涙が浮かんでいた。
私はそっと近づきぬいぐるみの手を握った。
「大丈夫だよ。きっと女の子も向こうで君を待ってるよ」
私がそう言うと、クマのぬいぐるみは笑ったような気がした。その笑みは優しい微笑みのように見えた。
そして、ぬいぐるみは跡形もなく消えてしまった。
「おかしな奴だな、お前は」
「何がおかしいんです?」
「襲ってきた者に情けをかけるとはな。ヘタをすればお前は死んでいたかもしれないのに」
「だって、あのままじゃかわいそうだもの」
私がそう言うと、男の人はまたため息をついた。
「まったく、人間の言う事はわからんな」
「あなたも人間じゃないの?」
「俺は死神。この世のものでない者だ」
男の人がマントを広げると、その人は浮いていて足が無かった。
「やっぱりね」
「驚かないのか?」
「だって私にはいろんなものが見えるんだもの。今更死神では驚かないわよ」
「ふんっ。可愛げのない娘だな」
「あれ? でも死神ってことは私死ぬの?」
「お前はあの時死ぬはずだった」
「え?」
私が呆然としていると、死神さんはこちらに背を向けた。
「俺の役目は終わった。生き延びた命、無駄にするなよ」
そして、死神さんは遠くへ飛んで行ってしまった。
「ありがとう、死神さん……」
私は死神さんが見えなくなるまで見送っていた。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。