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 終業のチャイムが鳴り、放課後になる。

 僕は(りつ)と帰宅しようと、校舎から出るところだった。


 「まったく今日は天華院(てんげいん)花芽(はなめ)に振り回されて散々でした……」

 「毎日同じクラスだと疲れそうだ」

 「そうですね。さっさと元に戻ってほしいです」

 「元に?どういう意味?」

 「あっ…先輩は知りませんよね。実は、天華院花芽があんな感じになったのはつい一週間前からなんです」

 「その前は大人しかったってことか」

 「はい、それはそれはおしとやかで絵に描いたようなお嬢様でした」

 「想像できない」


 今日の天華院さんは一度たりとも座って静かに最後まで授業を受けるなんてしていない。

 大抵は途中で僕にちょっかいをかけてきていた。


 「まあ、天華院花芽が何をしようとも優先輩のことは栗が守りきってみせます」

 「僕の心労の半分は栗だけどね」


 天華院さんにも戸惑ったが、栗も栗で迷惑だった。


 「流石にトイレまでついてこようとはしないでほしかったな」

 「だって、一瞬の隙でも与えるわけにもいきませんから」


 栗が一日中べったりだったせいで、天華院さんはおろか他の誰からも話しかけられなかったのだ。


 「新生活がめちゃくちゃだよ。まさか一人も友達ができないなんて」

 「先~輩、栗がいますよ」


 栗は僕にとびきりの笑顔を向けてきた。


 「栗………」

 「先輩………」

 「―――とはならないよねっ!!」


 僕は栗のつま先を踏もうと足を上げる。


 「っ!―――ですよねっ!もうその手は通用しません!」


 栗は足をずらして回避した。

 何度か追って踏もうとしたが、全て避けられる。


 「しつこいですよ………まあこれでも少しは悪いと思ってますし、この後先輩と遊んであげても―――って先輩?聞いてます?」

 「あれ―――」


 僕は校門を指さした。

 そこでは黒塗りの高級車と、同じく黒い服装の男たちがいて、そのうちの一人に天華院さんの腕が掴まれていた。


 「ああ……いつものことですよ。彼女、登下校はボディーガードが付くんです」


 昨日はボディーガードから逃げていたということだろう。

 しかし、今日はどうにもならないようだ。

 天華院さんはじたばたしているが、びくともしていない。


 「もっとも、ああやって抵抗するようになったのはおかしくなり始めてからですけどね」

 「すごく嫌がっているように見える」

 「嫌がってるはずですよ。だって、天華院花芽は学校以外の外出を禁止されているようですから」


 噂で聞いたんですけど、と栗は付け加えた。


 「だから、逃げないように毎日大勢の付き人が待ち構えてるんです」

 「そんな―――誰も、止めないのか?」


 自分のボディーガードを蹴り飛ばすなんてどうかしてると思っていたが、彼女が必死になるのも事情を知れば頷ける。


 「無理ですよ。この学校の理事長と天華院家には繋がりがあるらしいので」


 学校側は手を出せないということだ。


 「お嬢様基準だと普通ってことじゃないですか?家の事情にまで誰も踏み込めませんよ」

 「そうだけど―――」


 だからって、見て見ぬふりをしてもいいのだろうか?


 「あの人なら……きっと何もしないはずがない」


 僕は変わると決めたんだ。こんなときこそ動かないと。


 「栗、今日は一人で帰ってくれ」

 「え?―――ちょっ、先輩!?」


 何か考える前に走りだしていた。

 困っている人が目の前にいれば誰であれ助ける、そんな人になりたい。


 まずは彼女のいる校門へ。


 「天華院さん!!」

 「……何か御用ですか?」


 黒服の男が僕の進路上にすっと出てきた。


 「あっ……いや―――」


 黒服の男は表情一つ変えず、僕を警戒している。

 昨日はわからなかったが、僕よりも二回り以上背が高い。

 勢いでここまで来たが具体的には何も考えていなかった。というより、僕にどうにか出来るのか?

 しかし、天華院花芽の方は違ったようだ。僕を見つけると、掴まれていない方の手を振りぴょんぴょん飛んでアピールしていた。


 「優!!やっとあなたの方から来てくれたわね!」

 「天華院さん、僕は―――」

 「いいわ。言わなくてもわかってる」


 まただ。昨日と同じ。

 助けたい、そう言おうとしたが遮られてしまった。


 「あなたはあたしとデートしたいのよね!!」


 彼女は恥ずかし気もなく、大声で叫んだ。それも、下校する生徒の大勢いる校門で。


 「へ?………」

 「あなたが来ると信じてここで待っていたの」

 「いや、そういう状況じゃないよね?だって………」


 天華院花芽は黒服の男たちに家に連れて帰られそうになっている。

 そして、彼女はそれを嫌がっている。

 だからこそ僕は彼女を助けに来た、はずだった。


 「じゃ、行くわよ!制服デートに」


 彼女はおもむろにバッグから黒い何かを取り出すと、自分のボディーガードに付きつけた。

 バチリッ、と音が鳴る。すると男は体を震わせて花芽を離した。

 というよりは、力が入らなくなった方が正しい。


 スタンガンだ。


 「さあ、ボケっとしてないで走るわよ!」

 「えっと?………どこに?」


 彼女は気づけば僕の傍まで来ており、立ち塞がっていた黒服もスタンガンの餌食になっていた。


 「そうね……最初は映画にしようかしら。ちょうど優が好きそうなのがこの時期にやっていたのを思い出したわ」


 彼女は僕の手を掴んで走り出す。


 「待って、また何が何だかよくわからないんだけど」


 栗といい、今日は振り回されっぱなしだ。


 「話は後よ!もたもたしてるとあたしのボディーガードが追いかけて来るわ!」

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