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「それから、お父様に訊かれたの。お前は花芽の何だ?って。そこで優は言ったのよ」
おほん、と花芽は咳払いをして僕の声真似をした。
「俺は婚約者だ!!」
「言ってない!」
「やはり栗もいた方がよかったですね」
花芽の救出の日の次の朝。幸運なことに普通に登校できるのだが、かなり寝不足だった。欠伸混じりにマンションを出るとすぐに花芽と栗が待ち構えていたのだ。
「言ったのは花芽だし、そもそも自分のこと俺って言わないし」
待ち構えていたのは、花芽と栗だけではない。天華院家のボディーガードも数人いるはずだ。
もっとも、僕らの視界に入らないように隠れているはずだが。
「花芽が婚約者なんて言ったせいで、話がややこしくなって大変だった」
「こうやって自由に行動できてるってことは最終的には説得できたんですね」
「あ~……まあ半分物理的だったけど」
引き連れられていたボディーガードの半分くらいは、花芽にこてんぱんにやられていた。
「あたしとしてはもっと徹底抗戦してもよかったんだけど……」
「僕が妥協案を出したんだ」
あのまま花芽を野放しにしておくと冗談抜きで新たな事件が起こりそうだった。
「色々と細かい決め事はあるけど、一番大きいのは自由に行動していい代わりに一人にならないってことかな」
「だからあたしは常に優の傍にいないといけないのよ!」
不意に花芽が僕の右腕に抱き着いてきた。
「別に優先輩じゃなくてもいいですよね。というか、べたべたしすぎです」
今度は逆側から栗が腕に抱き着く。
「人の目が恥ずかしいんだけど。それと……腕に色々当たってる…」
とにかく知り合いに見られないよう俯く僕を他所に、二人はどんどん声を張り上げていく。
「別にいいじゃない。あたしは優の妻よ!!」
「元、です!今は全然関係ありませんから。それより栗の方がずっと今の先輩とは関係が深いです!!」
「そういうの僕と関係ないところでやってくれるかな……」
ここはもう学校にだいぶ近づいていた。
つまり、周りは同じ制服を着た生徒だらけだ。
「どっちにせよあたしの方が関係が深いわ。なぜなら、優は同棲を了承してくれたもの!」
「栗だって初対面で先輩にパンツを覗かれました!!」
二人の発言に周囲の生徒がざわつく。
「また僕の変な噂が立ちそうだ」
というか、ずっと隠してきた栗のパンツ事件がバレていた方がショックだ。
あと覗いてないし、たまたま見えただけだし。
「はっ!負け犬が何かほざいてるわね。一度優の心を射止めたのだから、二度目も射止めるのは当然のことよ。それに優は昨日あたしに結婚しようって言ってたわ!」
「あれはああ言うしかなかったからです。先輩を幸せにしに来たなんて豪語しておいて、肝心なとこであんな情けない姿晒すなんて、恥ずかしくないんですか?」
「結局ほだされてぴょこぴょこ優に付いて回るだけのおチビさんには言われたくないわね」
「今カッチンきましたよ。後で謝っても許しませんから!」
「ええ。あなたこそ後で靴を舐めて謝らせてあげるわ!」
「あの、僕を挟んで喧嘩しないでほしい―――」
「ぐぬぬっ!!」
「ええいっ!!」
二人がヒートアップし今にも手が出そうなところで、背後から間の抜けた声が聞こえた。
「おっ、うなきゅう」
振り返らずともわかった。
星野明日葉、僕が今一番会いたくない相手だ。
「今日は二人も侍らせてんねんなあ。これは大ニュースや。爆誕うなきゅうハーレム、校内に広めんと」
「そんなことより、今二人を止めてくれよ!!」
こうして、未来の妻になるかもしれない彼女と、未来のボディーガードになるかもしれない彼女と、それから今を生きる僕たちの賑やかな日常が始まった。
最後まで読んでいただきありがとうございました!
現在ゲームシナリオの方メインでやっているので、次回作はまだまだ先になると思いますが、是非よろしくお願いします!!
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