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 「罰ゲームはうなきゅう~!!」


 カラオケに入って早々洗礼を受けた。

 流行りの曲が流れ、みんなは立ち上がって踊っていたのだが、僕は知らなかったのでポツンと一人座っていた。

 去年までなら、流行りを少しは知っていた。だが、この一年で流行ってた曲は全くわからない。


 もっとも、知っていたとして盛り上がれる気分でもなかった。


 「じゃあ、飲み物よろしくぅ」


 クラスメイトたちから次々に飲み物を頼まれる。

 罰ゲームの内容はドリンクバーで全員分取ってくるというものだった。


 僕は全員分のドリンクを部屋に持ち帰ると、置くだけ置いて自分は外に出てきた。

 荷物は部屋の中にあるので、帰るわけにもいかなかった。僕は廊下で一人座っていた。

 しばらくして部屋から出てきたのは星野さんだった。


 「長いトイレやな」


 星野さんは真っすぐ僕の方へ向かってきた。


 「無理やり連れてきたうえに、僕が絶対に勝てないゲームをするって酷くないか」


 僕が負けたのは、流行りの曲のメドレーを歌えなかったら負けというものだった。

 星野さんは僕の隣に同じように座り込み、肩をぽんと叩いた。


 「失恋はこれくらいバカ騒ぎするほうがええんやで」

 「えっ?」

 「………えっ?違うん?」


 微妙な間があった後、星野さんは気まずそうに指をもじもじと絡める。


 「うちてっきり、天華院さんと付き合ってて、家のことで色々あってうなきゅうがフラれたんかと」

 「だから付き合ってるとも一度も言ってないし」


 この前説得したのに、やはり邪推していたらしい。

 まあ、事情を知らない者からすれば、勘違いしても仕方ない。


 「ごめんやで」

 「励まそうとしてくれたのは嬉しかった。途中だけど、僕はそろそろ帰るよ」


 立ち上がろうとすると、星野さんに手首を掴まれた。


 「待って。悩みは、天華院さんのことなんやろ?」


 声色が変わった。

 今まではいつでも声にどこかふざけたニュアンスが含まれていたが、今は真剣そのものだとわかる。


 「茶化したりせんから」


 花芽が困ったときは頼れと言っていたのを思い出した。

 たしかに今の僕はどうしようもなかった。

 頭の中では堂々巡りだし、相談できる相手というのもいなかった。

 だからと言って、正直に全て話すわけにもいかない。

 少し逡巡すると、出来るだけぼかして話すことに決めた。


 「これは僕の知り合いの話なんだけど―――」

 「定番のやつは別になくてええから。てかさっきまで思い切しうなきゅうの話やったやん」


 僕は、おほんと咳払いをして、言い直した。


 「これは僕の話なんだけど、気になってる子がいるんだ。だけど、その子は僕のことなんてどうとも思ってなくて、というか僕なんかよりずっとすごい奴のことが気になってて、しかもそいつ自身も僕よりずっとすごい奴でさ。それでその子がピンチなんだけど、僕にはどうしようもない問題というか、僕は必要なさそうというか………」


 具体的な話ができないので、たどたどしくなってしまった。


 「やっぱ恋のお悩み相談やん」

 「いや、そう単純な話じゃなくて…………そうかも」


 星野さんの言う通り、僕自身が複雑に捉えすぎていたのかもしれない。


 「で?」

 「それで、どうすればいいか困ってるんだけど」

 「そんなん決まっとるやんっ!」

 「痛あっ!!」


 不意に背中を叩かれた。しかも本気のやつで滅茶苦茶痛い。


 「今すぐ動かな」


 星野さんに非難の視線を向けるが、悪びれもせずにっと笑っていた。


 「だから、動くっていったって何をすればいいのかもわかってないって」

 「うなきゅうは天華院さんが困っとるからなんかしたい、それだけの話やろ?」

 「その何かがわかれば悩んでないんだけど」

 「何一つないっていうんはありえへんやろ。それより、うかうかしとったら終わってまう方が問題や」

 「いやまあ花芽が自分自身でどうにかできるかもしれないから、それならそれでいいんだけど」

 「何もわかってへんな。そういう話やないんやって」

 「じゃあどういう話?」

 「知らん」

 「いやいや、ここまで話してて知らないってことは………」

 「だって知らんもんは知らんし」


 星野さんはそこで話は終わりだと言わんばかりに立ち上がった。

 それから僕の正面に移動すると、立って、とだけ一言。


 「うん、立ったけど?」


 星野さんは僕の胸にごんっと拳を突き立てた。


 「どういう話かは知らん。決めるんはうなきゅうや」


 そう言って部屋の方へ歩いていく。


 「戻りづらいやろうし、荷物取って来るわ。あ、でもちゃんと料金は払ってもらうで。二人分な」

 「何で二人分?」

 「うちの相談料は高うつくんや」


 ケラケラと笑い声をあげる。真面目モードはもう終わったようだ。

 結局、具体的にどうすればいいのかは全くわからなかった。

 だけど、星野さんと話してから胸に詰まっていたもやもやはだいぶ薄れていた。


 星野さんから荷物を受け取ると、一人分だけ払って外に出た。

 それから、もう一度一人で考えた。

 今度はどうするべきかじゃなくて、どうしたいか、について。

 これまで悩み続けてきたのが嘘のように、答えはすぐに出た。


 僕は花芽を助けたいんだ。

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