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 「それで、また会いましょう、とだけ言って去っていったんだ」

 「なんですかそのラノベみたいな展開、ベタ過ぎて今時全然ウケませんよ」

 「僕だって信じたくはないけど……実際のことなんだって」

 「まさか先輩……引きこもりすぎて妄想と現実の区別つかなくなったんじゃないですか?(りつ)が治療してあげますっ!!」


 パンパンに詰まったスクールバッグが僕の頭目掛けて振り回される。

 「あぶなっ……たしかに僕は一年間休学していたけれど、割と外に出歩いていたよ。というか君はそれを知ってるよね、わざと嫌な言い方してるんだよねっ!」


 僕はスクールバッグを止めると、反撃に彼女の足を踏みつけた。


 「いたっ!―――か弱い後輩の女の子をいじめるなんてサイテーですよ!」


 僕と二人で登校する彼女は椋田(くらた)(りつ)。小動物みたいな小柄さと、同じく小動物のような童顔が特徴的な年下の女の子。

 そして僕の同級生だ。


 「後輩、じゃないだろ?」

 「ああ、そうでしたね。残念ながらこれからは、先輩であることを口実にあれやこれやをパワハラと言いがかりをつけて、慰謝料をふんだくれなくなります」

 「慰謝料ね……どうせコンビニスイーツのくせに」


 僕は半年前に彼女と出会ってからというもの、ことあるごとに奢らされていた。


 「どうせって何ですか!!コンビニスイーツは素晴らしいんですよ!」

 「普通にケーキ屋で買えばいいだろ。まあどっちも奢る気はないけど」

 「コンビニであの美味しさが手に入るってことにこそ意味があるんです。先輩、ちゃんと食べたことあるんですか?」

 「いや、ないけど……」

 「食べたことない人に否定する権利はありません!今すぐコンビニに行きましょう!そして、二人分買ってきちんと試食するんです!」

 「朝っぱらから食べるわけないだろ。しかもちゃっかり自分の分も買わせようとしてるし」

 「まあ放課後にでも奢ってもらうとして、話は戻ります」

 「僕は購入を了承した訳じゃない」


 ちょうど信号待ちだったからか、栗は僕を覗きこむようにぐいっと顔を寄せてきた。


 「その先輩の妄想の花嫁さん、可愛かったんですか?」

 「だから、妄想じゃないんだよ。ていうか、そんなに重要なこと?僕は僕が巻き込まれた不思議な話をしたいんであって、決して出会った女の子が僕のタイプドストレートだったって話をしたいんじゃないんだけど」

 「や~っぱり、可愛かったんですね!」

 「ん、…まあ」


 いでたちからおそらく名家のお嬢様なのだろう。容姿のオーラからして一般庶民とは一線を画す上品さがあった。

 それに性格にしても僕の好みに合致していた。底抜けに明るく、少し強気に引っ張ってくれる。

 僕の理想とする女の子のステレオタイプに近すぎる。

 あまりにも都合が良すぎて、不自然にも感じられた。


 「お嬢様……ね。そんなに目立つような人なら私も知っているかもしれませんね」

 「歳近そうだったし、案外同じ学校だったりして」

 「たしか、名乗ったんですよね?どんな名前ですか?」


 そう、確かに彼女は名乗った。

 そして何故か僕の名前を知っていたから、そのときのことをはっきりと覚えている。


 「えっと、天…華院だったかな」

 「天華院花芽!!………なるほど―――ぐっ、そーゆうことでしたか」


 驚いたかと思えば、納得したような素振りをし、それから苦々しい顔になった。


 「気持ちはわかるよ。僕もたまに鏡の前で色んな変顔をしてみたくなる」

 「違いますよ!天華院花芽のことです!話を遮らないでください!」

 「ごめんごめん。彼女のことをよく知ってるような口ぶりだったけど」

 「はい、だって天華院花芽は私のクラスメイトですから」

 「てことは―――」


 このとき僕はようやく全てを理解した。

 きっと昨日の出会いは偶然なんかじゃなかったんだって。


 「そう、優先輩、あなたのクラスメイトでもあるんですよ」


 僕は唸木(うなき)(ゆう)。平凡な一高校生だ。

 だけど、少しだけ特別なことがある。

 それは、訳あって前の学校を退学し、一年の休学の後に新たな学校に編入したということだ。

 そして今日は、僕のささやかなリスタートとなる初登校日である。


 「賢い先輩なら、栗の言いたいことはわかりますね」

 「そうだね、あんな可愛い子が同じクラスだなんてこれからの学校生活が楽しみだよ」

 「本当はわかってますよねえ?」

 「イタタッ!―――そんなに怒らなくてもいいだろ」


 頬っぺたを思いきりつねられた。


 「栗の反応からして、彼女はクラスでも悪目立ちしてるんだろ?編入ってだけでも浮くかもしれないのに、そんなのに絡まれたら僕の新生活デビューははちゃめちゃに、ってことだよね」

 「はちゃめちゃなんてものじゃないです!はちゃはちゃめちゃめちゃくっちゃくちゃです!」

 「君のよくわからない誇張表現はともかくとして、そんなに心配することでもないんじゃないかな」

 「ともかくって何ですか。先輩はもっと自分に感心を持ってください!自分を変えたいって言ってたじゃないですか!」


 そういえば、彼女は僕に変わらなくていいと言った。

 あのときは怒りが先に湧いてきてよく意味を考えなかったが、どういう意味だったのか。


 「うん、そうなんだけど……」

 「とにかく、あの女が先輩に変なことをしようとしたら、栗が止めてみせますから。こうっ!やって!」


 栗は両腕を大きく広げ、僕にアピールしようとしている……のだが、栗の体格では小学生でも簡単に突破できてしまいそうだ。


 「うん…………頼もしいよ」

 「ぜ~ったい、思ってもないですよね?」

 「ま、頼りにしてること自体は本当だよ」


 栗には言わなかったが、他にも気がかりなことはある。

 それは彼女が僕を知っていた、ということだ。

 僕にはてんで覚えがない。

 知らないはずなのに知っている。確かにいたはずなのに存在しない。

 彼女との出会いはもしかすれば―――


 「―――先輩?何時までに学校に着けばいいんでしたっけ?」

 「あっ……」


 つい話し込んでしまったが、初日は早めに職員室に来るように言われていた。

 今から走ってもぎりぎりなことに気づく。


 「ごめんっ、先に行ってる!」

 「栗もいっしょに行きます!職員室の場所、案内しないといけませんから!」

平日8:00より毎日投稿します!よろしくお願いします!

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