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 帰宅の前に、僕らはショッピングモールに来ていた。花芽の日用品を揃えるためだ。


 「ねえ、本当にこんなに必要?」


 花芽の買い物で僕の両腕両肩はびっしり埋もれていた。


 「女の子には必要なものがたくさんあるのよ」


 対して、花芽は手ぶらだ。

 理不尽だ、そう思い花芽に非難の目を向ける。


 「な~に?もしかして、もうへばったの?」


 片腕に4キロ、両腕で8キロはある。重い荷物だけでも十分疲労がたまるのだが、極めつけは―――


 「せめて手錠をそろそろ外してくれないかな!!」


 カフェではめられた手錠が未だ花芽と繋がったままなのだ。


 「これは罰よ」

 「何の!?」

 「あたしをかき乱した罰」


 カフェで花芽が見せた色んな顔が思い浮かぶ。


 「顔真っ赤にしたのがそんなに恥ずかしかった?」

 「そっちじゃないわよ!」


 花芽は足を早めながら、手錠をグイっと引っ張る。身重な僕はバランスを崩しそうになりながらなんとか付いていく。


 「とにかく、あんたはリードを引っ張られるわんちゃんみたいに大人しくしていればいいの」

 「夫から犬に降格か……」


 ご立腹の花芽に何を言ってもこの過酷な労働環境を改善してくれそうにもなかった。


 「次で最後なんだから、我慢できるでしょ?」

 「最後って当たり前だよね。これ以上はもう持てな―――」


 花芽が向かう先にある店が目に入った。その瞬間、僕は絶句し、足に急ブレーキをかける。


 「ちょっと!!どうして止まったのよ?」

 「無理無理無理!!僕が入れるわけないだろ」


 花芽が入ろうとしていたのはランジェリーショップだった。

 僕の抵抗を無視して、花芽は強引に入店しようとする。


 「おっかしいわね…躾を間違えたかしら?」

 「外で待ってるから一人で買ってくればいいじゃないか」


 ランジェリーショップに入るという行為さえ、白い目で見られそうだというのに、手錠をつけて入店なんて、完全に変質者だ。


 「ほら、抵抗しない。行くわよ!」


 花芽はずかずかとランジェリーショップに入っていく。

 僕は知り合いがいないことを願い、周囲を見渡した。

 だが残念なことに、ショッピングモールの通路には見知った顔が。しかもばっちりと目が合ってしまった。


 「きゃあああ!!やっぱり転校生は変態だったのよ!!」


 全員うちの制服を着ている。星野明日葉とその取り巻きだ。

 しかも、取り巻きの方は悲鳴をあげて走り去ってしまう。


 「二人でデートとはお熱いことやなあ」


 星野さんは取り巻きのことは全く気にせず、僕らに話しかけてきた。


 「明日葉じゃない!奇遇ね!」


 花芽は星野さんに気付くと、声のトーンをあげた。

 星野さんはにこやかな笑みを浮かべてこちらに近づいてくるが、途中で何かに気づいたようにはっと足を止めた。


 「あ、話しかけへんほうがよかった?せっかくデート中やのに」

 「ううん、気にしなくていいわ。明日葉ちゃんと会えて嬉しいもの」


 未来で何があるのかは知らないが、花芽は星野さんのこと特別気に入ってるようだ。

 話しかけてきたのが別の相手なら確実に無視か塩対応を取っていただろう。


 そんなことより………


 「星野さん、もっと色々ツッコむところあるよね?というか、友達はいいの?」

 「こっちの方がおもろそうやからな」


 星野さんは新しいおもちゃを見つけたかのように、ギラ付いた視線を僕に向ける。


 「そんなに僕らが面白いかな?」

 「そらおもろいに決まっとる。うちの友達の反応見たやろ?変態!!やって」


 整った顔を台無しにするほどゲラゲラと笑いだす星野さんに少しむっとした。


 「花芽に振り回されてるだけで、僕自身はまともなつもりなんだけどな」

 「まとも?うなきゅう学校でなんて噂されとるか知っとる?」

 「いや……知らないけど」


 正直良い噂はないことだけは覚悟していた。


 「けっこうあるんやで。入学早々弱みを握った女を侍らせた、校門で誘拐をした、旧校舎の窓ガラスを割って回った、担任に呼び出されたのに逆に泣かせた………あとなんかあったかなあ―――」

 「もう大丈夫……だいたい僕がどう思われてるかわかったよ」


 多少尾ひれはついていたが、どれも昨日からやらかした出来事に基づいている。改めて並べられると、僕がこれから平穏凡庸ルートの学校生活に軌道修正するのは不可能に思えてきた。


 「どれもこれも君のせいなんだけど」

 「そんなことあたし知らないわよ。だいたい知らない人にどう思われてもいいじゃない」

 「これから知り合うかもしれない人たちなんだよ」


 たしかにこんな状況では、順風満帆な学校生活なんて身の安全に比べれば些末なことなのかもしれない。

 だが、学校に居場所がなくなる辛さも僕は知っている。だからこそ、少しは気にしないといけないとも思うのだ。


 「そんで、今度はペットプレイでもしとったん?うなきゅうはわんちゃんだから、どんな秘密の園でも入りたい放題!エッチなこともし放題!下着屋さんでくんかくんか!!………ってとこやな?」

 「全然違う!!」「全く違うわ!!」


 僕と花芽は同時に声を上げた。

 花芽は僕と繋がった手錠を掲げる。


 「これはね―――」


 散々僕のことを犬扱いしていたが、他人に僕のことを犬扱いされるのは嫌らしい。

 僕は花芽に期待のまなざしを向ける。上手く誤魔化してくれ。


 「ペアリングよ!!」

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