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 「………僕が…世界を滅ぼす?」


 すぐに頭に浮かんだのは、二人が僕を騙してからかっている、ということだった。

 本当は包丁はおもちゃで、おぞましい殺意は迫真の演技なんだ。

 だって、世界を滅ぼす?スケールが大きすぎて馬鹿馬鹿しすぎるじゃないか。

 だいたい僕が?どうして?

 十年後に僕がどうすればそんな考えに辿り着くのか想像もつかないし、そんな大それたことなんて僕にできるはずがない。


 そう、未来から来たってのも本当は嘘で、一昨日からのことも全部嘘で、僕はただ信じ込まされてたってだけで、二人で綿密に打ち合わせをして転校したての僕をからかおうとして………

 だけど、二人とも黙り込んだままで、ドッキリ大成功の札はいつまで経っても出ないままだ。


 「冗談……じゃないん…だよね……」


 わかってる。本当に何もかもが真実だってわかってはいるんだ。

 だけど、出来過ぎた嘘なんだって妄想したい。


 だって、だってそうじゃないと、僕は………


 「そう、先輩は世紀の極悪人。人類の歴史に終止符を打つ大罪人なんです。だから、栗は断罪しに来た。先輩が何億という人間を手にかける前に、その芽を摘みに来たんです。それが栗がやって来た理由。先輩も、わかってくれますよね?」

 「僕が悪……」

 「りっちゃん、あんた………」


 栗は落としたナイフを拾う。

 だがそんなことおかまいなしに、僕の頭の中では栗の言葉が反響していた。


 僕が世界を滅ぼす……僕は極悪人……僕は大罪人……僕が人を殺す……僕は悪…僕が滅ぼす…僕が…僕が僕が僕が僕が僕が僕が僕が僕が僕が僕が僕が僕が――――――


 「優、逃げるわよ!!」


 言葉が何度も何度もリピートされる。何度も、何度も。

 花芽の声は僕の耳を滑っていった。

だって、僕は悪。僕が僕が僕が僕が僕が僕が僕が僕が―――


 「しっかりなさい!!今の優は未来の優じゃない、あなた自身が言ったことでしょう!!」


 花芽に頬をぐいと引っ張られた。

 痛い―――だけど、この痛みには花芽の気持ちがこもっていて、僕を絶望の渦から引き出すには十分だった。


 「そう…かも」


 僕は未来の僕じゃない。昨日花芽に言ったことなのに、僕は愚かにも忘れてしまっていた。

 花芽が差し出した手を取り、立ち上がる。


 「先輩が納得しなくたっていいです。結局本当の意味はわからないでしょうから。でも、栗は必ず先輩を殺します。そして、未来を変えてみせます」


 言い終わらないうちに、栗は僕らに迫ってきた。


 「違う。そんなことをしても変わらないわ」


 花芽は再び栗の前に立ちふさがった。


 「また強がりですか?栗とまともに力比べしても虚弱な花芽ちゃんには勝てませんよ」

 「あたしは虚弱なんかじゃないわ。それに、まともにやりあうつもりなんてない。わざわざこんなところに呼びつけたってことは、人目につきたくなかったのね。だったら―――」

 「何もさせません!」


 栗が襲い掛かり、再び二人の戦闘が始まる。

 双方身のこなしは高校生離れしていた。花芽は栗の振るうナイフを上手く捌いており、僕の目から見て力量の差はない。


 「優、真後ろに走りなさい!狙いはあんたなのよ!!」


 完全に傍観者と化していた僕は、そこではっとする。


 「あたしはいいから!早く!!」

 「……わかった」


 僕は一人、背を向けて走りだした。


 「そのまま真っ直ぐよ!」

 「えっ!?」


 背後から指示を出されるが、そのまま真っ直ぐいけば窓にぶつかる。


 「いいから!突き当りでジャンプ!!」

 「ここ二階!!」


 窓を突き破って出ろと言うことなのだろうが、二階から飛び降りて無事でいられるわけがない。

 だいたい、そんな窓を突き破ること自体、僕に出来るかどうかも怪しい。

 そんな思考の淀みが僕の足を鈍らせた。


 「大丈夫よ!あたしを信じて!」


 ぎゅっと腕を掴まれた。

 いつの間にか花芽が僕に追いついていて、隣まで来ていた。

 彼女はちらりと僕と目を合わせると、前を向いた。

 目が合った一瞬の間に、僕に纏わりついていた不安が吹き飛ぶ。

 花芽を信じる。だから、花芽の言う大丈夫はきっと正しいんだ。


 「さあ、飛ぶわよ!!」


 並走して窓へ一直線。直前で両足を宙に浮かせ、窓へ飛び込む。

 ガシャン!


 僕らは窓を突き破り、校舎の外に放りだされた。


 「ひええっ!やっぱり死ぬって!!ここからどうするんだよ!?」


 地面が見えると、落ちているのだということが感覚的な恐怖として刻み付けられる。


 「この高さは、絶対ダメなやつ!!」

 「じっとして」


 花芽は僕の体に腕を回す。

 よくわからないが彼女を信じるしかない。

 僕はそのまま落下まで身を任せた。

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