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ガーランディア防衛戦(2)


 

「人生、何がどうなるか分からんもんじゃのう」


「ゼルビア王、どうなされた?」


「何、独り言じゃ。それより、迎撃の手配は済んでおるのか?」


「あれを」


 ノルギスが竜騎兵の飛ぶ方向の大地を指差す。

 そこには、土煙を上げて駆ける騎馬隊の姿があった。


「アデル将軍が五百騎を率いて既に出立しております」


「騎馬隊か……厳しいな……」


「厳しくとも、やってもらうしかありませんからな」


(足止め狙いか。二割も止めれば上々といったところか……)


 ゼルビアが眉を顰めたとき、騎馬隊から魔法攻撃が開始された。みるみるうちに弾幕が作り上げられ、竜騎兵が落ち始める。

 上空から爆散した火球の欠片が降り注ぐが、騎馬隊は怯まず果敢に攻めたてる。対空戦は圧倒的に不利であるにも拘らず、それを感じさせない戦い振りを見せていた。


「なんと……! 半数も足止めしよった……!」


 ゼルビアが驚嘆の声を上げた。だが残る半数の竜騎兵が王都に向かってくるに従い、その感心と賞賛が不穏に染め上げられる。それは、ノルギスもロディも同じだった。


「ルリアナの気配だが、何かおかしい。薄気味悪いものが混ざっておる」


「おそらく、エルモア様の敵でしょうな」


「ノインの言う星の敵か!」


 ノルギスは「如何にも」と答え頷いた。


「あの馬鹿娘が……! とうとう化け物にまで成り下がったか……!」


 歳月を経る毎に邪悪になっていくルリアナこそが、ゼルビアの悔恨の根源。矯正を行えなかった親としての不甲斐なさを感じ、歯噛みせずにはいられなかった。


 ノルギスもまた、似たような思いを感じていた。


 第一王妃を追放してから長く王妃を娶らなかった。

 それは第一王妃の薄情で底意地の悪い性格に辟易していたことと、王としての示しをつける為にルインを捨てたという罪悪感で深く心が傷ついていたからだった。

 十年以上の歳月を経て、ようやくルリアナを娶ることになったが、それもデルフィナ王国との繋がりを深くする為の政略結婚でしかなかった。

 愛する努力はしたが、気性が第一王妃と似通っていたことで気後れした。ゆえに、夫としての責務を果たしてこれたか自信がなかった。


 もっと愛情深く接していれば――。


 ノルギスは未だにそう考え、心苦しく思うことがあった。


「ノルギス王よ。遠慮はいらんぞ。わしは既に見限っておるゆえ」


「そう言われる割に、複雑な顔をしておられますな」


「お主もな。お互い思うことはあろうが、あれは人であることを捨てた。そこに責があるとすれば、お主ではなくわしじゃ。高々、数年の付き合いしかないお主が悔やむなど烏滸がましいというものじゃ。気にせずやってくれ。いや、手を貸してくれ」


 ゼルビアの心からの言葉に、ノルギスは「分かりました」と苦笑を返す。

 僅かではあるが、心が軽くなっていた。


「陛下、竜騎兵が迫っております。どうなさるのですか?」


 ロディが気を焦らせて訊ねると、ノルギスは「まぁ見ておれ」と収納魔法から矢筒を取り出して担ぎ、次に剛弓を取り出して矢をつがえた。弦を張り詰め、防護壁に最も近づいた竜騎兵に狙いを定めて矢を放つ。


 凄まじい速度で飛んだ矢が、ワイバーンの翼を突き破り落下させる。


「お、お見事……」


「相変わらず怖ろしい腕前じゃな。武王は健在か」


 ノルギスは「随分と衰えておりますよ」とまた苦笑する。


「ゼルビア王の防護壁があればこそできることです」


「なに、この程度。ノルギス王には随分と迷惑を掛けておるからな。しかし、落ちたとはいえ、ワイバーンはしぶといぞ。まだ生きておるやもしれん」


「そうです。陛下お一人では――」


「案ずるな。じきに兵が動き出すだろう。非常時には判断を委ねてあるからな。兵だけでなく、我が国の()()()()()にもだ」


 ノルギスの目には、龍神アルトに跨がり空を駆ける戦神アスラと戦女神ディーヴァ、そしてその側を優雅に飛ぶ精霊神シクレアの姿が映っていた。

 

 

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