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悲しい話。
「寝物語には丁度良いかもしれない」
良くないよ。凄く辛い。
「ヒメは優しい。会えて良かった」
ルインが私のおでこにキスをする。
それだけでとても幸せな気持ちになる。
私をベッドに寝かせてから、ずっと寄り添ってくれている。
たまに頭を撫でて、髪をすくように指を通してくれる。
この時間が永遠に続けば良いのにと思う。
ほんの少し前に会ったばかりなのに、ルインのことしか考えられなくなっている。
これまで生きてきて、こんなに誰かに惹かれたことはない。
私はルインが好き。
出会う前のことなんて何もなかったのと同じ。
ルインのいない世界なんて、もう想像することさえできない。
だから、切なくて苦しい。
私、どうして死んでるんだろう。
ルインに触れたい。
触れられてばかりじゃなく、私からもこの愛おしさを体で伝えたい。
心だけじゃ寂しさを埋められない。
埋めてあげられない。
指を絡めたい。
唇を重ねたい。
体でも繋がりたい。
なのに、私の思いは伝わらない。
彼の方からも、もう何も伝わってこない。
扉が閉められたみたいに、見えなくなってしまった。
「ありがとう。ヒメ」
ルインは悲しそうに微笑んで私のまぶたを下ろした。
暗闇が訪れた。
その中に一人取り残されたようだった。
ルインは側にいるのに、どんどん遠ざかっていくように感じた。
ルイン! 行かないで!
「私は側にいるよ」
嘘! 何をしてるの⁉
「おやすみ、ヒメ」
その言葉を最後に、ルインは何も言わなくなった。
私が、聞こえなくなったの?
そう気づいて、焦燥感に襲われた。
彼を失うことが怖かった。
不安で押しつぶされそうになりながら、彼の名前を呼び続けた。
やがて世界が白くなり、私は鳥の囀りを聴いていた。
「ルイン!」
小鳥が慌てたように飛び立った。
私は雑木林の中にいた。
肌触りの良い薄手のローブに身を包んでいて、その下は裸だった。
生きていることに呆然として、ルインが何をしたのかを理解した。
ルインは、私から死を吸い取った。
痛みも、苦しみも、酷い記憶もすべてを吸い取って、代わりに命を与えてくれた。
でも、私は彼を失ってしまった。
もう、会えない。
涙でにじむ視界に紙が映った。
封蝋された真っ白な封筒。
拾うと、柔らかい花の香りがした。
ルインと同じ匂いだった。




