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エルモアの使者~突然死したアラフォー女子が異世界転生したらハーフエルフの王女になってました~  作者: 月城 亜希人
挿話【夏の紅い月夜の下、紅い瞳の孤独な彼と】
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4

 目尻から涙が流れた。

 落ちてきた雨粒が、目に入って溢れただけだった。

 けれど、私の気持ちを表してくれていた。


 もっと沢山流れ出てほしかった。

 それが叶わないと分かっていても、この気持ちをすくいとってほしかった。


「分かってる。泣かないで。私が(そば)にいるから」


 彼はハンカチを取り出し、頬を優しく拭ってくれた。


 胸が詰まる。

 切なさが消えない。

 でも涙が溢れない。

 苦しい。


「大丈夫。もう怖くないからね」


 私の顔は、今とても醜いはずだ。

 散々、乱暴されてきた。

 右目の視野が狭いのも、たぶん、腫れ上がっているからだと思う。


 彼は泣きたいような顔で私の顔を拭い続けた。

 それでも微笑もうとしてくれていた。

 大切なものを扱うように、髪をすいて泥を落としてくれた。

 その優しさに、私はまた胸が締めつけられた。


 こんな気持ちは初めてだった。

 ずっとこの人といられたら、どんなに幸せだろう。


 時折、彼のしなやかな指が頬に触れるのが分かる。

 もう失われていたはずの感覚。

 肌が彼を感じる。


 冷たい。なのに温かい何かが流れ込んでくる。

 心地よくて、落ち着く。


 生きてるうちに会いたかったな……。


 彼の手が私の目を覆った。


「どんなことでも、やりようはあるものだよ」


 まぶたがそっと()でられる。

 彼の手が離れ、微笑む顔が目に映る。

 隠れていた世界が戻っていた。


 え、どうして? 右目が開いてる。


「治したんだよ」


 どうやって?


「少し私と繋げた。こっちに移した」


 彼はスーツの袖口を()くった。

 肌が真っ黒になって(ただ)れていた。

 私は悲鳴を上げた。

 彼が何をしたのかが分かって怖くなった。


 やめて! そんなことしないで!


「平気だよ。すぐ治る」


 袖口を戻し、苦笑いする彼の心が見えた。


 彼は孤独だった。

 この世界の誰にも見えない、別の世界の人だった。

 寂しいという感情が流れ込んできた。

 もう、一人でいるのは嫌だと彼の心が叫んでいた。

 それがとても憐れで愛おしかった。


 彼の(そば)にいてあげたいという気持ちが心に溢れた。

 言葉にする必要もなかった。

 彼にもそれが伝わっているのが分かった。


 これから私たちは一緒に暮らすことになる。

 それはとても素敵なことのように思えた。


 けど、私は腐っていくだろう。

 臭いも見た目も酷い有様になるに違いなかった。

 そうなる自分を見られたくなかった。


「大丈夫。私が何とかする」


 彼は立ち上がり、私を抱き上げた。

 折れた首が曲がらないようにそっと腕で支えてくれた。

 優しさに包まれているようだった。

 

 

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