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男たちは私が死んでからも酷い言葉を掛け続けた。
死んだのは私のせいにされていた。
「なんで俺らがこんな目に遭わなきゃなんねーんだよ!」
「おいやめろ! 血が飛ぶ! ゴミで汚すな!」
私は何度も顔や体を踏まれた。
ずっと怖かった。
早く解放されたかった。
やがて夜になった。
その頃には言い合いをしていた男たちも静かになっていた。
私はそのまま捨てられることになった。
家に帰してほしかった。
どこに向かっているのか分からなかった。
けど、きっと人気のない寂しい場所なのだろうと想像はついていた。
家に帰りたかった。
お母さんのところに戻りたかった。
でもそれが叶わないことは分かっていた。
心で泣き喚いていた。
一人になるお母さんのことを考えた。
ずっと私を探すのかと思うと申し訳なかった。
せめて死んだことを伝えたかった。
先に死んでごめんなさいって謝りたかった。
*
揺れがおさまった。
車が止まったのだと分かった。
いよいよ捨てられるんだ。
そう思うと、男たちを呪い殺してやりたくなった。
けど、私にそんな力はないようだった。
どれだけ強く念じても、男たちが苦しむことはなかった。
それがひたすら恨めしかった。
私は気味悪がられていた。
それは私が死んだときからずっと続いていた。
揺れて頭が動いた。
「顔向けんなブス!」
そう言われて頭を蹴られた。
どうしてこんな目に遭わされているんだろう?
何もできないことが悔しくてたまらなかった。
男たちは最後まで勝手だった。
自分たちがしたことなのに、汚い、気持ち悪いと言って私に触れるのを嫌がった。
私は足蹴にされて、バンから蹴り落とされた。
水たまりに頭から落ちた。
首が折れる音がした。
泥水が跳ねて、ぬかるんだ泥が髪や顔にまとわりついた。
私はもっと汚くなった。
洗い流してほしかった。
捨てられたのは雑木林のようだった。
悪魔の爪が土から伸びているように見えた。
こんな場所に置き去りにされると思うと怖くて仕方なかった。
バンのドアが乱暴に閉められて、光とエンジンの音が遠ざかっていった。
やっと解放されたのに、私は行かないでと叫んでいた。
やがて何も見えなくなった。誰かに助けてほしかった。
私は濡れた土の上に置いていかれた。
虫の羽音が耳の側を通った。
口が少し開いているので、入ってこないか心配になった。
暗闇の中、落ち葉と土を踏み締める音が聞こえてきた。
それはゆっくりと私に近づいてきた。
動物?
そうとしか思えない。
やだ、怖い! お母さん!
逃げたかった。
けど、体が動かなかった。
目を閉じることも、耳を塞ぐこともできなかった。
来ないで! 食べないで!
自分が食べられるところなんて見たくなかった。
そう思ってもできることは限られていた。
誰にも聞こえない声が動物には聞こえるかもしれないと思った。
私は追い払えることを願ってただ叫び続けた。




