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エルモアの使者~突然死したアラフォー女子が異世界転生したらハーフエルフの王女になってました~  作者: 月城 亜希人
挿話【夏の紅い月夜の下、紅い瞳の孤独な彼と】
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2

 男たちは私が死んでからも酷い言葉を掛け続けた。

 死んだのは私のせいにされていた。


「なんで俺らがこんな目に()わなきゃなんねーんだよ!」

「おいやめろ! 血が飛ぶ! ゴミで汚すな!」


 私は何度も顔や体を踏まれた。

 ずっと怖かった。

 早く解放されたかった。


 やがて夜になった。


 その頃には言い合いをしていた男たちも静かになっていた。


 私はそのまま捨てられることになった。

 家に帰してほしかった。


 どこに向かっているのか分からなかった。

 けど、きっと人気(ひとけ)のない寂しい場所なのだろうと想像はついていた。


 家に帰りたかった。

 お母さんのところに戻りたかった。


 でもそれが叶わないことは分かっていた。

 心で泣き(わめ)いていた。


 一人になるお母さんのことを考えた。

 ずっと私を探すのかと思うと申し訳なかった。

 せめて死んだことを伝えたかった。

 先に死んでごめんなさいって謝りたかった。



 *



 揺れがおさまった。

 車が止まったのだと分かった。


 いよいよ捨てられるんだ。

 そう思うと、男たちを呪い殺してやりたくなった。

 けど、私にそんな力はないようだった。


 どれだけ強く念じても、男たちが苦しむことはなかった。

 それがひたすら(うら)めしかった。


 私は気味悪がられていた。

 それは私が死んだときからずっと続いていた。

 揺れて頭が動いた。


「顔向けんなブス!」


 そう言われて頭を蹴られた。


 どうしてこんな目に()わされているんだろう?


 何もできないことが悔しくてたまらなかった。


 男たちは最後まで勝手だった。

 自分たちがしたことなのに、汚い、気持ち悪いと言って私に触れるのを嫌がった。


 私は足蹴にされて、バンから蹴り落とされた。

 水たまりに頭から落ちた。

 首が折れる音がした。

 泥水が跳ねて、ぬかるんだ泥が髪や顔にまとわりついた。


 私はもっと汚くなった。

 洗い流してほしかった。


 捨てられたのは雑木林のようだった。

 悪魔の爪が土から伸びているように見えた。

 こんな場所に置き去りにされると思うと怖くて仕方なかった。


 バンのドアが乱暴に閉められて、光とエンジンの音が遠ざかっていった。

 やっと解放されたのに、私は行かないでと叫んでいた。


 やがて何も見えなくなった。誰かに助けてほしかった。


 私は濡れた土の上に置いていかれた。

 虫の羽音が耳の側を通った。

 口が少し開いているので、入ってこないか心配になった。


 暗闇の中、落ち葉と土を踏み締める音が聞こえてきた。

 それはゆっくりと私に近づいてきた。


 動物? 


 そうとしか思えない。


 やだ、怖い! お母さん!


 逃げたかった。

 けど、体が動かなかった。

 目を閉じることも、耳を塞ぐこともできなかった。


 来ないで! 食べないで!


 自分が食べられるところなんて見たくなかった。

 そう思ってもできることは限られていた。

 誰にも聞こえない声が動物には聞こえるかもしれないと思った。

 私は追い払えることを願ってただ叫び続けた。


 

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