表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
75/117

ギリアムとの戦い(6)

 


「ぐうっ、なんて叫びだ……!」


 ルシウスは耳を塞いで顔を顰めた。体にまで若干の痺れが感じられる。もし距離を取っていなければ――それを考え、ルシウスは背筋を冷たくした。


「ルシウース!」


 聞き覚えのある、澄んだよく通る声で名を呼ばれ、ルシウスが振り返る。

 アルトに乗ったノインが近づいて来ていた。

 その下、通りの曲がり角からはアスラが姿を現す。

 ルシウスの姿を見て取るなり、アスラは全力で駆け寄った。


「ルシウス、無事だったか!」


「もう! 心配したんだからね!」


「ごめん」


 ノインは、ルシウスが無事だったことに安堵した。

 薄く涙ぐんだが、すぐに袖で拭ってギリアムへと目を向けた。



【名称】不明

【真名】ギリアム

【種族】不明

【性別】オス

【魔物ランク】不明

【スキルA】不明

【スキルB】不明

【スキルC】不明

【スキルD】不明



 ほとんど内容が掴めないが、ノインはすぐに察した。ギリアムがエルモアの言う邪悪によって、あのような姿に変わったのだと。

 魔物の光はマーマンジェネラル同様の赤さで、やはり体表に黒い靄を纏っている。


「さっきのとんでもない叫び声は奴のものか?」


「うん。近くで受けると動けなくなると思う。ノイン、何か分かった?」


「駄目。ほとんど分からない。けど、邪悪な敵なのは確かよ」


「確かに、先程と同じ気配がします。エルモア様の敵……先鋒は俺が!」


 言うなり、アスラが駆け出しギリアムとの距離を詰める。

 ギリアムは機敏に反応し、アスラに向かい猛然と襲い掛かった。


 アスラは素早く大剣の柄を握り、飛び込んでくるギリアムへと振り下ろす。だが、その一撃は巨大な右手の甲で弾かれた。打ち込んだ大剣が硬い音を発して跳ね返され、アスラは驚愕に目を見開く。刹那、体勢が崩れた体にギリアムの左拳がめり込んだ。


 大猿に転じたギリアムの体格はアスラの倍程ある。前腕と拳が大きく、アスラは体の右側面のすべてを打たれたような形になった。その膂力は凄まじく、アスラの体を軽々と吹き飛ばす。アスラは激しい音をたてて家屋の壁を突き破り、通りから姿を消した。


「アスラ!」


 ノインとルシウスが声を重ねて叫ぶ。ギリアムはアスラの追い打ちに向かおうとしている。それをさせてはならないという気持ちも重なる。

 ノインはアルトと共に空を飛び、ルシウスは駆けて追い打ちの阻止に向かう。だが無情にも、二人の視界からギリアムの姿も消えてしまった。


 ギリアムはアスラが壁を突き破った家屋に入った。そこで突然、目の前が暗闇に覆われた。直後、ギリアムは体の前面に強い衝撃が走るのを感じた。


 それはアスラが放ったスキル、常闇の審判だった。

 その身に抱えた悪意が大きい程に大きさと重みを増す闇の球。ギリアムはそれを両手を開いて受け止めたが、後ろ足が土を抉ってじりじりと押される。


 ノインとルシウスの目に、巨大な黒球に押し戻されているギリアムの姿が映る。その後を追うように、体の右半身を押さえたアスラが姿を現す。

 ノインとルシウスが名を呼びながら側に寄る。


「アスラ、大丈夫?」


「なんとか。ですが、腕をやられました。とんでもない力です」


「あの黒い球は?」


「俺のスキルだ。時間稼ぎにしかならんだろうが……」


 それを聞いたルシウスが、ギリアムの左側に駆けて行き氷柱を放ち始める。


「ノイン! 今のうちに弱らせるんだ!」


「分かってる!」


 ルシウスが動いてすぐにノインも動いていた。

 既にギリアムの真上に位置取り、攻撃の準備はできている。


《アルト、もう少し高くして!》


《無茶だよ! ノインが危ない!》


《お願い!》


《ああもう! 怪我しないでよ!》


 二十メートル程の高さになったところで、ノインは頭を下にしてアルトから飛び降りた。素早く小太刀を鞘から抜き放ち、刺突の構えを取る。

 ギリアムはアスラの攻撃が弾かれる程の堅さを持っている。ノインは非力な自分では攻撃が通らないと考え、重力を利用した。


 ギリアムはノインの攻撃に気づかなかった。前方の黒球と、ルシウスの氷柱による攻撃に意識を取られ、苛立ちを募らせていた。その苛立ちが、ギリアムに咆哮を上げさせようと上を向かせた。偶然が奇跡を生んだ瞬間だった。


 大口を開けたギリアムの目に、小太刀を構えたノインの姿が映る。


「食らえええええ!」


 ノインの叫びとほぼ同時に、ギリアムの口に刃先が入った。舌の上に突き立てられた刃が、喉を斬り裂きながら突き進む。


(今!)


 柄まで入った瞬間、ノインは小太刀を手放し、体を屈伸させてギリアムの項を蹴った。そのまま進めば、行き場を失った力で大怪我をしてしまう。

 ゆえにノインは飛び降りたときからずっと、離脱のタイミングに意識を集中していた。そしてそれは、ノインが考えていた以上に上手くいった。


 力の向きが変わり、落下時の衝撃が和らげられることは間違いなかった。

 だがそれは飽くまで二十メートルから落下した際の衝撃が緩和されただけのこと。

 まだ四メートルはある。受け身が取れなければ危険なことには変わりない。


(おかしい。倒れない)


 ルシウスはギリアムの様子を見て疑念を抱いた。

 明らかな致命傷を受けたにも拘らず、未だ黒球を離さない。

 そればかりか、不意にギリアムの胸が膨らんだ。


「ノイン! 耳を塞いで!」


 異変に気づいたルシウスが叫んだ。ノインはハッとしたように耳を塞ぐ。

 まだ着地前。手を使わずに、四メートルもの高さから落下することになるが、気にしてはいられなかった。


 直後、ギリアムが大量の血を吐き出しながら咆哮を上げた。その勢いで小太刀も抜け落ちる。ノインは咆哮の衝撃で体が僅かに後方へ飛ばされた。

 ビリビリと体が痺れ、受け身は取れそうもない。それでも最低限できることをしようと体を丸めた。だが、やはり落下時の衝撃は大きく、ノインは意識を失った。







評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ