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8


 村に近づくと、喧騒が耳に入った。距離が縮むごとにそれは大きくなる。

 視界に映るのは、小さな男の子と一緒に駆ける母親らしき人。

 その背後で、マーマンが槍を構えている。


「いけない!」


 まだ村には到達しない。このままじゃ——!


 槍が投げられると思った。けど、それは果たされなかった。

 私の背後から、たくさんの氷柱が飛んで行って、マーマンに突き刺さったのだ。


「ふぅ、危ない。間に合って良かった」


「ルシウス! すごい!」


「練習してきた甲斐があったよ。努力が報われたって実感するね」


 氷柱が突き刺さったマーマンが後ろ倒れになる。その背中が地面に着くのを見る頃には、私たちは村の出入口に到達していた。

 アルトのベルトが外れたので、私とルシウスはそのまま村へと飛び降りた。

 

「ひどい……」


「キングは討伐したって聞いてたけど、残党がいたんだね」


 村の家屋は破壊され、焼かれていた。そこかしこに、血痕が飛び散っていた。

 ルシウスが助けた母親と男の子が、私たちの側に駆け寄ってくる。


「た、助けて、助けてください!」


「落ち着いて!」


 恐慌状態に陥っている母親の肩を掴み、ルシウスが宥める。


 いろんな臭いが混ざった悪臭が鼻をつく。背中に槍が突き刺さって、倒れて動かなくなっている人が道端にいるのが見える。耳を塞ぎたくなるような悲鳴も聞こえる。それを虚構じみたものとして捉えず、しっかりと現実として受け入れている自分がいる。


 私は、想像していたよりもずっと冷静でいられた。

 でも、震えた。涙が出た。これは怯えじゃない。怒りだ。


 許せない……!


 道の先に、大きなマーマンがいた。そこには人が積み上げられていた。

 ぐったりした人を担いだマーマンがやってきて、遺体の山に担いでいる人を乱暴に捨て置いた。一匹、二匹、次々にやってきては人を放り捨てていく。


「マーマンジェネラル……! この村を狩り場にしたのか……!」


 ルシウスが怒りを感じさせる声音で言った。歯軋りが聞こえる。私も歯噛みした。

 生きる為に仕方なくやったというなら、私はこんなに怒れなかった。だけどこれは違う。邪悪で利己的な意図が見える。また軍勢を作ろうと目論んでいるのが分かった。

 マーマンジェネラルが、口角を引き上げてこっちを指差した。次はあいつらだと言いたげに。すぐに槍を手にしたマーマンが三匹駆けてきた。


 三匹とも、顔に笑みを浮かべていた。マーマンジェネラルと同じで、知恵があるのが表情から見て取れた。明らかに、侮っている。


 人殺しを楽しんでいる。遊びだと思っている。


 大地から、エルモアの怒りと嘆きが伝わってくる。分かってる。私も、ルシウスも、あなたと同じ気持ちよ。絶対にあいつらをあなたの元へ送るわ! エルモア!

 

 

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