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「ルシウス、見えたよ! でも、あんな大きかったっけ?」


「発展したんだよ」


 振り返ると、ルシウスが目を閉じたまま説明してくれた。


 一年前、私とルシウスが海繋がりの洞窟で知った真実。それをノルギスお父様に伝えたところ、マーマンの軍勢に対する処置が取られた訳だけど、それが発生するに至った原因の解決には、ルシウスが携わっていたみたい。まったく知らなかった。


 詳しい説明は省かれたけど、アルトやそのお姉さんが受けたような悲しい出来事が起きないようにしたらしい。要するに、新たな産業を持ち込んで各村を裕福にしたってことだ。東の村は養鶏場。鶏や卵は、ここから運ばれているそうだ。


「貧困に喘ぐ人のすべてを救える訳ではないけど、改善はされているよ」


「そうなんだ。私、ちょっとでも役立ててるんだ」


「ちょっとじゃないよ。これから僕たちが旅行するのはね、ノインが発展させた場所なんだ。家畜の飼育も、飼料を得る方法も、医療もそう。他にもまだまだある。君の二王国同盟への貢献は計り知れないほど大きい。君がいたから、多くの人が幸せになっているんだ。僕は君に、それを実感してほしかったんだよ」


 私が提案したことが国の役に立っている。それで不幸な出来事が減っている。

 ルシウスの思惑は、モヤモヤしている私に国民の笑顔を見せることだったのだ。

 そんな粋な計らいってある? なんて思って、ちょっと胸が詰まった。


《あの村に降りればいいんだね?》


《えぇ、お願い》


 アルトの体を撫でながら言うと、ゆっくりと下降し始めた。靡いていた髪が落ち着いていくに従って、段々と地面が近づいてきた。


《ねぇ、ノイン。おいらさ、ノインに感謝してんだ。せっかく生まれたのに、ちょびっとで死んじゃったからさ、今が楽しくって仕方ないんだよ。だけどさ、まだまだだよ。いろんなものが見たいし、いろんなものが食べたい。やりたいことがいっぱいあって、毎日が楽しいんだ。全部、ノインのお陰だよ。ありがとな》


《どうしたの、急に?》


《だってさ、ノイン、近ごろ元気ないだろ? おいら、元が人だし、エルモア様とも繋がったことがあるから、ノインの中にいるとなんとなく分かるんだ。こんなことしてていいのか、とか、このままでいいのかって気持ち。でもさ、ノインは気づいてないだけで、いっぱい頑張ってる。たくさん幸せを振りまいてるんだよ》


 ルシウスとアルトは、二人とも同じことを言った。

『一人で背負いこむことはないんだよ』って。


 二人に言われて、知らないうちに、そうなってたんだって気づかされた。

 王女だから、もっとやらなきゃって、もっと頑張らなきゃって。

 でも、それをさせてもらえない環境にモヤモヤしてた。

 だから、余計なことまで考えちゃってた。


 決して悪いことではないんだろうけど、続くと塞ぎ込んじゃってたかもしれない。


「ありがとう、二人とも」


 前世、アンコだったとき、私は両親からしか、こんな風に気遣ってもらったことがなかった。だから純粋に嬉しかったのだけど、そこで不意に気づいた。

 私は、アンコとして過ごしてきたときも、ノインとして過ごしている今も、頑張れって言われたことは一度もなかったってことに。むしろ、脱力させてくれている。

 たぶん、それは私が負けず嫌いで、我を張っちゃうことを知ってるからだ。


『アンコ、どうしたそんな顔して。そうか、選手に選ばれなかったか。そりゃ悔しいな。でもそんなこともあるよ。それよりほら、父ちゃんの指を握ってごらん』


 ぷぅ。


『あっははは、あらやだ。私まで出ちゃったじゃない。やめてよもう。あ、そうだアンコ、明日、お母さんと遊園地行こう。なんだか急に行きたくなっちゃったのよ。悪いけど、お母さんに付き合って。一人だと恥ずかしいから』


 お父さん、お母さん……。

 私、今もお父さんとお母さんみたいな優しい人たちに囲まれてるよ。


 ルシウスとアルトの優しさが、かつての両親の懐かしい笑顔を呼び起こし、私は涙を抑えられなかった。

 

 

 

 

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