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鍾乳洞からの脱出(1)

 

 ノインが倒れると叫んだとき、ルシウスはすぐに動いていた。

 ノインが言うことは必ず起こる。それをルシウスは信じて疑わない。だからこそ、ノインが気を失ってすぐに抱き止めることができた。


「まったく、急なんだから」


 七歳の少女。まだ幼女と呼んでも差し支えない小さな体を抱え上げ、アスラの背に乗せる。そしてルシウスもまたノインの支えになる為に、アスラの背に飛び乗った。


 奥にある水面が爆ぜ、巨大な水柱が次々と起こったのは、まさにその瞬間だった。

 飛沫が雨のように降り注ぎ、それを浴びたアスラが数回唾を吐き出す。


《なんだこの水は⁉ 塩気があるぞ⁉》


《あら本当。興味深いわ》


 ノインの緊急事態だと察したシクレアも出てきていた。

 アスラの毛に付着した水滴を指につけて口へと運び、呑気な言葉を呟く。


《毒は?》


《ないわよ。これは海水っていうの。南の方に、海っていう塩水の大きな池があるそうよ。ここの水はそこと繋がってるらしいわ》


《流石、博識だな》


《全部、ついさっきノインから聞いたことだけどね》


 水面から、水柱を上げて飛び出したのはマーマン。その数は十体。

 アスラとシクレアは、会話をしながらも、警戒していた。


 ルシウスもまた、同じだった。体に浴びた飛沫を振り払うこともなく、マーマンの群れから視線を外さず、逃げ出す機会を窺っていた。

 今はまだ睨み合いの段階だが、背を向けた途端に襲い掛かってくるのは目に見えていた。数の上で有利な相手が、油断を見せるのを待っていた。


 アスラもルシウスの考えていることを理解していた。言葉は通じずとも、四年行動を共にしている。アスラはあまり辛抱強くないが、築かれた信頼が合図を待たせた。


 しばらくして、マーマンのうち半数が視線を逸らした。ルシウスはその折を見逃さずに手綱を引いた。アスラは機敏に反応して反転し、一目散に部屋を飛び出した。


《シクレア! 追ってきてるか⁉》


《半分! あっ! 槍を投げるわ!》


 ルシウスの肩越しに背後を見ていたシクレアが叫ぶ。それと同時にシクレアはルシウスの頬をペチペチ叩いて後方を指差した。ルシウスは即座に察して、背後を見た。


 直後、追ってきたマーマンが、槍を投擲した。ルシウスは手綱でアスラに指示を出し、飛んできた槍を躱す。槍は鍾乳石を砕いて、地面に転がった。


《興味深いわ! なんで見てないのに避けれる訳⁉》


《ルシウスが教えてくれるからだ! 任せておけば問題ない!》


 人を二人乗せているとはいえ、アスラの方が速度は上。マーマンとの距離は見る間に開いた。マーマンが槍を投げたのは追いつけないと覚ってのことだった。


(よし。難は乗り切った。あとは……!)


 ルシウスは手綱を軽く数回引いた。それは止まれの合図だった。

 思いもよらない指示に、アスラは怪訝に思いながらも足を止める。

 

 

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