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 エルモア! 助けて!


 ピシリ――と氷がひび割れる音が響き、風景が灰色に染まった。

 音が消え、世界が動きを止める。


 良かった……。成功した……。


 心で安堵の息を吐いていると、視界の端から、ふよふよと浮かぶクピドの姿が入り込んできた。視界の中央にくると、くるりと一回転する。


(お久しぶりですね、ノインさん)


 そうね。最後に会ったのは静寂の森だから、四年ぶりになるわね。


(危機らしい危機が訪れませんでしたからね。戦争も回避されましたし、僕も驚いてます。ノインさんの動き一つで、こうも世界が変わるとは思ってませんでした)


 私は、ただあなたに導かれるまま動いたってだけなんだけど。


(僕はきっかけを与えたに過ぎませんよ。それを活かしたのはノインさんです。さて、粗方の事情は察してます。その少女を引き受ければいいんですね?)


 え? いえ、二人を受け入れてほしいんだけど。


 エルモアは両手を広げて肩を竦める。


(それは無理です。この男の子は、僕の中に還ることを望んでませんから)


 何言ってんの? 望んでない訳ないでしょ?


(彼は、ノインさんと一緒にいることを望んだみたいですよ。ね?)


《うん、おいら、ノインと一緒にいたい》


 男の子の声が、会話に混ざり込んできた。


 え⁉ 何⁉ あなたエルモアとも話せるの⁉


《うん。言ったろ? 少しだけ触れたって》


(彼は今、僕と繋がってるんですよ。姉を気の毒に思うあまり、無理やり現世に留まっているだけで、還ろうと思えばいつでも還れるんです)


 じゃあ、お姉さんと一緒に還ればいいじゃない。そのままだと魔物になっちゃうのよ? しかもレイスよ? あんなのに変わっちゃうなんて最悪じゃない。


 私は正論を言ったつもりなのだけど、エルモアに苦笑された。


(この子は、レイスにはなりません。別の魔物に変えます。当人がそれを望んでいますし、それを行えるだけの力も、今の僕にはありますからね)


 ちょっと待って、何に変わるつもり?


《決まってる。おいらはノインの望むものに変わるのさ》


 男の子が得意げにそう言うと、エルモアがふわふわと移動して、ウインドゼリーフィッシュが集まっているところを指差した。


(ノインさんは、既に知ってますよね。僕が出来るのは、空の器に霊魂を収めることだけだってことを。丁度、ウインドゼリーフィッシュが繁殖を行おうとしてますから、そのうちの空の器になる個体に、彼の霊魂を収めるんです。転生ですね)


 魔物に転生って。ああ、でも、私もその選択肢があったのよね。忘れてたわ。だけど、いいの? ウインドゼリーフィッシュよ? この世界で最弱の魔物なのよ?


《そんなこと言ったって、他の魔物にはなれないんだから、しょうがないだろ。それに、ノインはその魔物を仲間にしたいって思ってるんだろ? なら、おいらはそれになるしかないじゃないか。ノインと一緒にいたいんだから》


(この子は、ノインさんに恩義を感じているんですよ。このまま星に還ると後悔すると思うほどにです。その気持ち、汲んであげませんか?)


 私は心で溜め息を吐いて承諾した。そこまで言われたら受け入れるしかないじゃない。気持ちを無碍にしたら、私の方が後悔しちゃうわよ。


(それでは、そのように)


 エルモアは、(またいつかお会いしましょう)と言って少女と共に姿を消した。それと同時に、世界に色と音が戻り、あらゆるものが動き始める。


《ノイン、ありがとな。姉ちゃんを人のまま星に還してくれて》


《気にしないで。私がしたくてしたことだから》


《ヘヘっ、そっか。でも、ありがとな。それじゃ、またな》


 男の子は私の方を見て歯を見せて笑うと、手を振って消えた。

 

 

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