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 *



 宿場町から王都ガーランディアまでは徒歩三日。

 だけど、アスラとディーヴァがいれば一日だった。


 という訳で、翌日夜――。


 私たちはガーランディア王国の王城、王の間にいた。

 赤い絨毯の前で、ロディとアリーシャ、そしてルシウスが跪いている。


 私はと言えば、父であるノルギス王に抱き上げられていた。


「よく帰ってきた! おお、おお、なんと可愛らしいのか!」


 ノルギス王は見るからに怖そうな印象の中年男性だった。だけど、人は見掛けによらない。帰ってきたなりに玉座から立ち上がり、私に向かって一目散に駆けてきて抱き上げ、謝罪の言葉を口にしたのだ。


 今まで悪かった、と。


 どんな人かと思ってたけど、その一言だけで、とても心優しい人なのだと分かった。

 事前にロディとアリーシャから聞いていた通り、やはりルリアナが諸悪の根源のようだった。


 とはいえ、とはいえだ。


 かれこれ、もう五分はかわいがられている。

 いい加減、頬ずりされすぎて、顔の皮が擦りむけそうだ。

 優しいことは十分すぎるくらいに分かったから、そろそろ放置しているルシウスたちの相手をしてもらわないと、もう、威厳も何もあったものではないでしょうに。


「ちょうっ!」


「あ(いた)っ!」


 ノルギス王の額にチョップを見舞い、私は腕から飛び降りた。

 しゅたっと着地。赤絨毯、思ったより薄いのね。床が硬くてびっくりしたわ。


「な、何をするんだ。ノイン?」


 悲しそうな顔で額を撫でながらノルギス王が言う。ごめんなさいね。本当は頭頂部にしたかったんだけど、王冠があるものだから、額になっちゃった。


 いえ、そんなことはどうだっていいわ。


「おちょうちゃま! わちゃしを、愛ちてくりぇていりゅのは、もう分かりまちた!」


「む、そ、そうか」


「でちゅから、わちゃしを連れ戻ちた、ロディと、アリーちゃを、褒めてあげちぇくだちゃい!」


「おお! そうだな!」


 ノルギス王が、笑顔で頷き、ロディとアリーシャに向き直る。


「お前たち、よくやってくれた! これほど嬉しいことはない! なんでも褒美を取らそう!」


「いえ、そんな、滅相もございません!」


「私たちは、主君を探したまでですので!」


「主君か! ふはははは! そうか!」


 ノルギス王は、さも愉快そうに大笑いした。そして、また私の方に顔を向けた。

 

「ノインよ、この者たちは、お前の側仕えにするが、良いか?」


 私は、「あい!」と力強く言って頷く。そして、ルシウスに駆け寄る。


「おちょうちゃま! ルチウちゅ殿下と、おはなち、ちてくだちゃい!」


「もちろんだ。ルシウス殿下、すまなかったな。娘と接するのはこれが初めてだったもので、少々取り乱してしまった。無礼を許されよ」


「いえ、構いません。陛下の優しさを知ることができ、嬉しく思います」


 ノルギス王はルシウスの受け答えに驚いたようだった。

 それはそうよね。子供の回答じゃないもの。しっかりしてるのよ、ルシウスは。


「ふむ、なるほどのう」


 私は無意識にルシウスにしがみついていた。

 ノルギス王が何を見ているのかと思ったら、私だったみたい。

 ちょっと油断しすぎちゃったかもしれない。

 娘がいきなり他国の皇子を連れてきて抱きついてたら、いい気はしないわよね。


「随分とノインが懐いておるようだが、どういった経緯で出会ったのかを教えてくれるか?」


「はい、喜んで」


 ルシウスはそう言って、私との出会いについてをノルギス王に語った。

 なにが凄いって、まったく物怖じせずに、淡々と事実のみを伝えていくこと。

 特権階級にありがちな、余計な詩的表現や大袈裟な言い回しを一切挟まず、必要ないところは省いて、端的に分かりやすく話すものだから、あっという間に説明が終わってしまった。もう出来過ぎて、なぜか私が誇らしいわ。


 なんて思ってたら、王の間がざわめいた。私も驚いてしまった。

 ノルギス王が、ルシウスに向かい跪き、その手を取ったのだ。


「ルシウス殿下、そなたはノインに命を救われたと言うたが、共に暮らした七日の間、その逆もまた確実にあり得ただろう。そなたがいたことで、ノインもまた命を救われたのだ。これは、王としてではなく、父としての礼だ。心より感謝いたす」


「勿体ないお言葉です」


 ノルギス王が立ち上がる。


「ルシウス殿下、わしはそなたを気に入った。ノインもそのようだ。そこでだ。わしからの提案なのだが、ノインと婚約を交わすというのはどうだ? そなたにとっても決して悪い話ではあるまい?」


 私とルシウス、ロディとアリーシャはみんなで顔を見合わせて笑った。


「なんだ、お前たち、まさか最初からそのつもりでおったのか?」


「あい!」


 私が手を挙げて答えると、ノルギス王は一瞬きょとんとした後で大笑いした。

 王の間は笑いと歓声に包まれた。

 

 


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