6
どうしよう。
それが、止まった思考が動き出した瞬間に浮かんだ言葉だった。
それからは驚くほど速くいろんなことを考えた。イメージだけが脳内で目まぐるしく展開される感覚。たぶん、エルモアと会話していることの影響で、できるようになったことだと思う。
だけど、どれだけ多くのことを考えることができても、それがすべて役立つこととは限らない。むしろ、足を引っ張るようなことの方が多くて、私は戸惑っていた。
浮かんでくるのは、ロディとアリーシャが優しくしてくれたときのことばかりだった。二人が自分を殺そうと探しに来たということは分かっている。なのに、それを受け入れるのが難しくて、身動きがとれなくなってしまった。
いえ、それだけじゃないわね……。
たとえ動くことができたとしても、私にはどうすることもできなかった。
幼児の体では、外に飛び出したとしても逃げ切ることは難しかったろうし、体の中にいるアスラたちに助けを求めたとしても、その後に生き延びる未来を想像することができなかった。
魔物を体に住まわせ、その力を借りる幼女なんて目立って仕方がない。
宿場町でそんな噂が広まれば、私は安息の地を失うだろう。そして、ルシウスも巻き込むことになってしまう。
結局のところ、こんな狭いお店の中で暗殺者二人と鉢合わせてしまった時点で手詰まり。そういう結論に至ってしまったことが、私を動けなくしていた。
下手に動いて、ロディとアリーシャが焦れば、すぐさま攻撃される可能性があるっていうのもネックよね。ルシウスはきっと私を庇おうとするだろうし、本当、困ったわ。
なんて考えて、とにかく冷静に、相手の動きを見ることに努めたんだけど、やっぱり甘かった。
それはそうよね。常識的に考えて、生まれてたった三年ちょっとしか経ってない幼児の私が、暗殺者として数十年生きてる、ロディとアリーシャの身体能力に敵うわけがないんだもの。
一瞬で視界が真っ暗になった。
あ、これはもう、死んじゃったな。
そう思った。だけど、違った。
私は抱きしめられていた。とても優しく。
「ノイン様……よくご無事で……」
耳元で、アリーシャの涙声が聞こえた。
その後で、ふわりとまた抱きしめられる感触が訪れた。
「心配したんですよ。本当に。生きた心地がしませんでした」
ロディの囁き声だった。
震えていて、泣いているのが分かった。
私は呆然とした。どういうことなのか、分からなかった。だけど二人がとても優しかったものだから、張り詰めていた糸が切れてしまって、なんだかわからないうちに大泣きしてしまった。
「大丈夫ですよ。もう大丈夫です」
「私たちが、命に代えてもお守りしますからね」
ロディが髪を触らせてくれた。相変わらず、すべすべでつやつやだった。




