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 *

 

 

 早いもので、三年が過ぎた。

 私は部屋にほぼ監禁された状態で過ごしてきた。

 両親が会いに来たことは一度もない。

 ほとんどが、メイドのアリーシャと執事のロディの二人と過ごす日々だ。


 アリーシャとロディはエルフの兄妹で、私の専属らしかった。


「ノイン様。今日も読書ですか?」


「うん。お勉強ちないと」


 死んでしまうからね。とは言わないけど。事実そうなのよね。

 ふぅ、と私は積み上がっている本に頬杖をついて溜め息を溢す。

 植物図鑑と魔物図鑑。あれ? これ読書って言えるのかな?

 図鑑って見るものよね? でも本だし、読んでることになるのかしら?

 

 なんでもいっか。重要なのは、この生活は、あっても残り二年ってこと。


 でも、もう自由に動けるし、そろそろ脱出しちゃおっかな。早い方が良いわよね。


 ふぅ、もうこの快適空間ともおさらばか……。


 名残惜しいなと思いながら、また溜め息。寝床とか、どうしようかなぁ。


「ふふっ、ノイン様は、たまに大人のようなことをなさいますね」


 ロディが苦笑して紅茶を用意してくれる。

 背が高くて、すらりとした中性的な美青年。

 銀の台車、ガラスのティーポット。紅茶を注ぎ入れる様も、執事服も良く似合う。

 後ろで束ねられた長い金髪が、これまた綺麗なのよ。


 ぼーっと見つめていると、近づいて跪いてくれる。

 そして、床に座って分厚い図鑑を読んでいる私に、束ねた髪を向けてくれる。

 

「ノイン様は、本当に私の髪がお好きですね」


「しゅべしゅべで、ちゅやちゅやなんだもん」


 手触りが最高なのだ。こんな美男の髪を触らせてもらえるとは。

 王女最高。と喜んでばかりもいられない。早々に、お礼を言って読書に戻る。


「もう、よろしいのですか?」


 ロディが残念そうに私を見る。なんてキラキラ美しい眼差しなの。

 私の中にいる、ド近眼で瓶底眼鏡を掛けていたアンコが眩しさに悶絶する。


 触ってほしいのね。もっと触っても良いのね。ハァハァ。


 でも、ここは――。


「うん、もういい。ありがちょう」


 触りたいけど、涙を呑んで断る。ロディは寂しそうに私から離れた。

 

 そうよね、そうなっても仕方ないわよね。


 地味な前世と違い、現世の私は金髪の可愛らしいハーフエルフの幼女。

 初めて鏡を見たときはビックリした。前世の私とは可愛さのタイプが違う。

 

 昔から、こけしと揶揄されたものよ。こけしだって可愛いのにさ。


 だけど、こけしに髪を触られたいとは思わないわよね。

 そんなの、もはやホラーだもんね。そもそも、こけしに手足はないんだけどね。

 

「何か、お考えですか?」


 ロディがソーサーに載せたティーカップを私の前に置いて言った。

 私は、なんでもにゃーいと答える。本当になんでもない。

 だって、瓶底眼鏡を掛けた、こけしについて考えていたんだもの。

 

 それは果たして地味なのか。一周回って派手ではないのか。

 そんなことを考えていたなんて、馬鹿馬鹿しくて言えないわ。


 それに、献身的な二人には、瓶底眼鏡のこけしなんて関係ないわよね。


 ロディとアリーシャの兄妹は、私の母の側仕えとしてやってきた。

 だけど、エルフの母は人の国が肌に合わず、現在は自国に帰っている。という話になっているけど、実際は心を病んで、父に送り返されたというのが本当の所。


 不可抗力だけど、その咎は私にあるんだよね……。


 エルフは魔力に敏感らしいので、母はどうやら、母胎内で子が死んでいることに気づいていたらしい。だから、私が産まれてきたときに、産声を上げたのを聞いて、恐怖のあまり気絶したのだとか。周囲に、この国は呪われているとまで言ったらしい。


 そりゃ、魔族の先祖返りが起きた後で、死体が産声なんて上げたらね。


 とにかく、そういうこともあって、二人は母から側仕えの任を解かれ、私の世話係になったという訳だ。母は気の毒だけど、その点はラッキーだったわよね。

 

 

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