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ガーランディア防衛戦(5)

 

 

 *



 龍に姿を変えたアルトの背に跨り、空へと上ったアスラとディーヴァは、竜騎兵を討つべく防護壁に向かっていた。


「ねぇ、思うんだけどさ――」


 張り詰めた糸を緩めるように、横を飛ぶシクレアが笑って言った。


「私たち、守護神なんて大袈裟な存在になっちゃったわよね」


 皆、思わず軽く笑った。初めて話題に上ったが、同じことを思っていた。


「確かに、そうですね。私もまさか、これだけ大勢の人から戦女神などという大仰な通り名で呼ばれる日が来るとは思いませんでした」


「俺もだ。軍神な上に、敵国では漆黒の悪魔だ。おかしなもんだ。元はレッドキャップに殺されかけるシャドウウルフだったのにな」


「あー、レッドキャップ。懐かしいわねー。覚えてる? 私、そのときマンティスベビーだったのよ。こーんな小さくて、ノインの肩に乗ってぴょんぴょん跳ねてたのに、今じゃ精霊王よ。人と話せちゃうし、興味深いわよね」


「シクレア姉ちゃん、もっと興味深い話があるよ。口減らしされた子供からウインドゼリーフィッシュに転生した奴が、今じゃ龍神なんて呼ばれてんだってさ」


「あっはは、それって、あんたのことじゃない」


 四人が声を上げて笑う。和やかな空気になったが、不意にシクレアが眉を下げた。


「私ね、ノインに会えたことを奇跡だと思ってるの。ノインが来なかったら、城の庭園の、ロナの花の中で一生を終えていたって不思議じゃなかった。それが、こんなに多くのことを知れて、何よりみんなと会えた。上手く言えないけど……」


「分かりますよ。私もノイン様と出会えていなければ、ライトウルフで生を終えていましたから。今与えられている繋がりを大切に思っています」


「おいらも分かるよ。離れたくないって気持ちだろ。そんなの当たり前だよ。だって、ずっと一緒だし。もう、家族みたいなもんじゃないか」


「シクレア、皆、同じ気持ちだ」


 アスラ、ディーヴァ、アルトの三人は察していた。シクレアが、大切な者を失うかもしれないという不安を抱いているということを。

 二つの邪悪な気配は、そう思わせる程に強大だった。


「ごめん。弱気になってたわ」


「謝ることはない」


 やがて防護壁が近づいた。竜騎兵が目前へと迫る。

 弛緩していた緊張の糸が再び張り詰める。

 直後、気配の一つが地上に降りた。側にはアデルの気配。誰もが眉を顰めた。


「俺とディーヴァは、アデルの応援に向かう」


「分かったわ。私はここに残るわね」


 防護壁を抜けた途端、手近にいた竜騎兵が一騎、アルトに襲い掛かってきた。その攻撃が届く前に、シクレアがワイバーンの翼を鎌で刈り取る。

 そして、アデルのいる方向を塞ぐ竜騎兵たちに陶酔の吐息を吹き掛ける。桃色の呼気が風に乗って飛んでいき、それを浴びたワイバーンと騎乗兵が表情を蕩けさせる。


「アルト、早く行って!」


「分かった! おいらが戻るまで、無茶すんなよ! シクレア姉ちゃん!」


 恍惚としている竜騎兵の隙間を縫うようにアルトが進んでいく。


(行かせないわよ!)


 アルトに向かい、死角の上から竜騎兵が一騎襲い掛かった。

 騎乗者はルリアナ。ゲオルグ同様、眼球の色が反転し牙が伸びている。しかし、美貌は損なわれるどころか妖艶な魅力が増している。

 肌は褐色、髪は赤色に変わり、体格が一回り大きくなった為にドレスが合わず、白い下着だけを着用した扇情的な姿となっている。


(死になさい!)


 襲撃が成功したと確信し、笑みを浮かべたルリアナの視界からワイバーンの片翼が消える。寸前に肉が断ち切れる音が耳に入っていた。血飛沫が楕円の粒になって揺れる。


(真下⁉)


 ルリアナは咄嗟にワイバーンの背を蹴った。その瞬間、ワイバーンの首が刎ね跳んだ。落下するワイバーンの陰から、シクレアが大鎌を回転させて現れる。


「あんたの相手は私よ」


「やってくれるわね……!」


 ルリアナの背に、蝙蝠のような翼が生える。それを大きく羽ばたかせながら空中浮揚するルリアナと、音もなく翅を動かすシクレアとが向かい合う。


「興味深い程うるさいわね、それ。どうにかならないの?」


「地上に降りれば仕舞えるわよ」


「じゃあ、移動しましょ。耳障りだわ」


「あなた一人でどうぞ!」


 ルリアナが素早く突進して蹴りを放つ。シクレアは少し後ろに退いて避ける。

 お返しとばかりに鎌を振るうが、ルリアナも即座に斬撃の範囲外に移動する。

 そして、両者は再び対峙し睨み合うのだった。

 

 

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