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 尿意を催して目が覚めた。

 時計を見ると午前一時。


 やだな。寒いな。


 そう思いながら、でも生理的欲求は無視できない。

 溜め息を溢して掛け布団を避けて、ベッドから降りる。

 

 うう、やっぱり寒いー。


 震えながら、慌ててトイレに向かい中へと駆け込む。

 

 やだ、漏れちゃう。


 ぎりぎりまでベッドで粘った結果、膀胱が悲鳴を上げた。

 急いで蓋を上げて、ズボンとパンツを下ろし、便座に座る。

 そこで、殴られたような頭痛に襲われた。


 え、ちょっとこれ……。


 目の前が白くなって、息が荒くなる。

 座っていられず、頭を抱えて前のめりに倒れ込んだ。


 嘘でしょ、私、こんな死に方する訳……?


 生温い湿っぽさが、股間から太ももに広がっていく。


 やだ私、アラフォーなんだけど……。


 意識が遠ざかり、死ぬんだとハッキリと理解した。

 手足の感覚が失われて、目の前が暗くなっていく。


 なんでこんな……。


 贅沢せず、身の丈に合った生活をするよう努めてきた。

 ただ地味に、ひたすら質素に、健全に生きてきた。

 本当は、私だって着飾って恋をしたかった。

 もふもふしたペットだって飼いたかった。


 だけど、その勇気が出なかった。考えるのは、いつもお金。

 歳を取って、老後の心配をするようになってからは尚更。


 こんなことなら……。


 もっと生きたいように生きれば良かった。



 *



「おぎゃああ」


 へ? 何これ?


 視界に小さな手が二つ映る。

 股間と内股には相変わらず湿っぽさ。すごく不快。


「あらあら、どうされました?」


 微笑む金髪の美女が視界に入ってくる。

 顔立ちは西洋風。耳の先が尖っている。

 着ているのはメイド服。フリルカチューシャも。

 

 そのメイドらしき女性は私の下腹部に触れ、頷いた。


「今、お取り替えしますね」


 そう言って、手際良く私の不快感を取り除いていく。

 いわゆる、オムツ交換をして。


 いや、オムツ交換って。

 なんで私、赤ちゃんになってるのよ。

 

(その質問には、僕がお答えします)


 ふわふわと浮かんだ、金髪巻き毛の男の子が視界に入り込む。

 背中には小さな白い翼が生えていて、とても可愛らしい。

 私の知るキューピッドの姿そのまんまだ。


(その認識で間違いありません。僕はクピドのエルモアです)


 エルモアちゃん。


(エルモアで構いません)


 エルモアは、にこやかに笑んで宙でくるりと回転する。

 メイドさんには姿が見えていないようだ。

 声に気づいている様子もない。

 多分、私の頭の中だけで響いているのだと思う。


(説明が必要ないようで助かります。今、あなたが思われている通り、僕はあなたにしかその存在が認識できません。ミタラシ・アンコさん)



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