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第一話 全ての始まり

膨大なる世界、広がりゆく大地、そしてあまたに存在する強者たち。世は弱肉強食であり、拳が大きいものこそが勝者という理念の元に立っていた。奪い奪われ、殺し殺されるものたち。しかしその全ての者の根本には、何かに争う事が宿命のような重みがあった。そんな者たちこそがアセンダーと呼ばれる存在であり、この世の摂理、その理を追い求めるがために天に争う者たちだ。


そんな理念のある世界、源守星と呼ばれる青い惑星が存在した。五つの大陸に分けられており、最も東に位置する大陸、東大陸の辺境の村で人々はいつものようにこの血生臭い世界を生き抜いていた。


村はそれほど大きいものでもなく、木々などでできた簡単な家が十数個当たり並んでいる。朝日が出ると共に村人たちの1日は始まる。大人は田んぼに向かうものもいれば、村のすぐ隣にある巨大な森に狩りをしにいくものもいる。子供たちは慣れたかのように村の中心にある土台の上で整列していた。列はそれぞれの年齢ごとに分けられており、十歳から十七歳までの7つの列になっている。そんな様子を遠くから見ていた一人の少年がいた。まるで平民の生活を見に来た王子かのように、その少年の容姿は実に美しいと言えるものだった。金色の髪には薄らと白いハイライトが見られる。宝石のような紅色に輝く瞳は、老若男女すべてを虜にできるものだろう。少し薄汚れてはいるが、その顔もまたしっかりと整っていた。だが、容姿とは相反するようにその服装は列に並ぶものたちよりも薄汚れており、所々破れてもいた。


その少年の周りにいる大人たちはまるで可哀想なものでも見ているかのように、深いため息を吐きながら歩き去っていく。少年もまたその事に慣れているのか、気にしている様子はない。


「戻るか」


ポツリと一言だけ言い残し、少年はその場から離れた。


少年が向かった先は、村の後ろ側にある湖だ。崖に囲まれたその湖には滝が降っており、ひと目で美しいと言えるだろう。そんな湖を前にして、少年は脚を組んで座った。そしてゆっくりと両腕を反対方向に回しながら円を作り、ちょうどお腹の前に両手で輪っかを作る。その次の瞬間、少年の周りから青いエネルギーが現れた。


「オリジン……」


そう、少年が自分を中心に集め、そして操作しているこのエネルギーの正体は世界のエネルギーと言われるオリジンだ。古い昔から、人々はただ一つのシステムを信じてきた。それは星等級だ。強力なモンスターや、自然災害、無力な人族を一瞬で滅ぼせるものなどこの世界には多く存在する。だが、人は争うことができると悟り、この星等級というシステムを用いて、災害とも言えるモンスターにも、争うことが不可能とされた自然災害ですら争うことに成功した。星等級、それはオリジンを体内に吸収、循環、そして保存し扱う事で徐々に人族という種族の限界を常に突破する事ができるシステムのことだ。


だがそもそも、星等級が存在しその方法を分かっているだけで、星等級を使う事ができるようになるとは限らない。星等級を使うには何よりもオリジンを感知できる能力が必須となる。その次に、そのオリジンを吸収するために体内に存在する霊根が必要になる。この霊根にはランクというものが存在しており、才能が良ければ良いほどランクは上となる。そしてより優れた霊根は他人よりも多くオリジンを吸収する事ができるのだ。このランクはそれぞれ、黒霊根、灰霊根、紫霊根、赤霊根、蒼霊根、白霊根、そして金霊根だ。全てのものたちは十歳の年齢で己の霊根を発現させる、そしてそこからゆっくりと星等級を使い、強者への道を歩んでいく。そんな者たちを、人はアセンダーと呼ぶのだ。


三年前、この少年は村全体を驚かせた。神童アゼル、それがその時の少年の名前だ。ベルフォード村と呼ばれるこの村では、黒霊根を発現させるだけでも十分だが、数十年ごとに天才と呼ばれる灰霊根が現れる。しかし、アゼルが十歳になった時、発現させた霊根は驚くべきことに赤霊根だったのだ。紫霊根を超えた赤霊根を持つ子供、アゼルはこの村を新たな時代に引っ張っていく存在だと思われたのだ。しかし、喜ぶにはあまりにも早かった。


一度霊根を発現させた子供は、オリジンを吸収し星等級の最初の等級である血造級から始める。これは、体内に存在する血液にオリジンを充満させる等級だ。体中の血液がオリジンで溢れかえった時、その者は次の等級である血線級に突破する事ができる。血線級では体中の血管をオリジンで溢れさせ、強化する。血管は体中にオリジンを溢れさせる道だ。それが強力でなければ、オリジンを使った攻撃を使ったときに破裂してしまう。血線級を突破すればやってくるのは血筋級だ。その名の通り、この等級では全ての筋肉を強化していく必要がある。その後には、血骨級があり体の全ての骨をオリジンで強化していく。何よりも他の等級に比べて最も激しい痛みに襲われる等級でもあるため、アセンダーの中では真の強者を分けるとされる巨大な壁とも言われている。そして最後にやってくるのが血核級であり、体中の内蔵を全て強化していくものだ。この五つの等級をまとめて肉体精錬級と言われている。


アゼルもまた、本来なら他の子供たちと同じように勢いよく血造級に入れると思われたが、現実は残酷なものだった。アゼルよりもランクの低い霊根を持っていながらも、アゼルだけが血造級に未だに入れないままだった。いくらオリジンを吸収しようにも、その全てがまるで穴の空いたバケツに水を注ぐようにどこかへと消えていく。だが、だからといってアゼルが諦めるようなことはしなかった。ただひたすら、毎晩毎朝ただひたすらにオリジンを吸収していった。


「最初は大変だったな。あのまま何も起きなかったら、俺は多分あの瞬間諦めていた。アルシアとの約束があったとしても、追い抜かれていく気持ちはどうしても耐えることはできない。だけど……クックックッ」


アゼルはあの瞬間のことを思い出していた。それは2年前、諦めかけでいながらも日課の如く滝の前に現れては瞑想を始め、オリジンの吸収を再開した時だった。一時間、二時間と時間が経っていき、頭の中で今日もまた何もないと諦めかけのため息を吐いた瞬間、まるで体の中に大爆発が起きたかのようにアゼルを中心に衝撃波が起きた。一瞬驚きはしたものの、すぐに瞑想を始め体内の様子を確認してみたとき、アゼルは思考を一瞬停止した。そこにはあってはならない光景があったからだ。何度もその色を見てはかつての栄光と絶望を思い出していた真っ赤に輝く霊根、それが今驚くべき事に青く輝いていたのだ。


「な、何が起きてんだ!?」


そう驚きに叫んでも、答えが返ってくる事はない。だが、目の前の光景が夢だという事でもない。それは確かに現実であり、紛れもない事実だった。そう、アゼルの才能を示す霊根は赤霊根から蒼霊根に進化したのだ。どういう原理か、アゼルが今までに吸収していたオリジンは血液に向かっていたのではなく、不思議と霊根に向かっていたのだ。その影響か、霊根は進化に至った。ならば、これをさらに続けていけば、伝説の金霊根まで進化できるのではないかとアゼルは考える。


「そしてそれから毎日霊根にオリジンを吸収させ、今では俺の霊根はすでに白霊根となっている。何よりも、薄らと今日あの伝説の金霊根をとれるような予感がしてならない。くっくっくっ、もう俺だけが置いてけぼりにされるような事は起きねえ。ここからは、俺が全てを出し抜いてやる」


覚悟を決めて、アゼルは再びオリジンの吸収を開始した。それから二時間後、既に慣れている感覚がアゼルを襲う。その感覚を感じるだけで、アゼルの顔には笑みが浮かんでいた。そして次の瞬間、再びアゼルを中心とした衝撃波が発生する。ゆっくりとその場から立ち上がりアゼルは霊根を見つめる。その霊根は神々しく黄金の色に輝いていた。それを見た瞬間、アゼルは喜びと今までの全ての負の感情を追い出すかのように咆哮を上げる。


「うううおおおおおおおおおおおおっっ!!!!」


その咆哮を歓迎するかのように空もまた轟き始めた。否、それは歓迎のものではなく、アゼルを狙った雷であった。どこまでも広がる青空は一瞬で暗い雲に覆われ、アゼルを中心に雲に渦が発生する。そして一息ついたかと思えば、ちょうどアゼルを中心に雷が降り注いだ。


「くっ!! なんだこれは!?」


その雷は、驚くべきことにアゼルの体をすり抜けて、アゼルの霊根を直接狙っていたのだ。訳もわからず、アゼルはただ必死にその痛みを耐え忍ぶ。一度目、二度目、止まる様子を見せない雷の連打はアゼルのメンタルを徐々に削いでいった。しかしちょうど九つ目の雷の鞭がアゼルに落ちた後、金色に輝いていた霊根の上に突如、見たこともないようなルーンが現れる。それがどういう意味か、どんな影響を出すのか、それらの疑問はあっても、アゼルには考える余裕はなかった。九つもの雷を耐え忍んだアゼルは、そのまま意識を失い湖の中に落ちていった。

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