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2.

夕方、定刻に仕事を終えムーアと帰り支度をしていたら、レギア様がドアを壊す勢いで入ってきた。


昼に王都からの使者を迎えるといって部屋を出ていったきり帰ってこなかったが、今は眉間に大きな皺つきでの帰還だった。


「おかえりなさい。何かありましたか?」


ドカッとそのままソファに座り、足を組んだ。


ほんとうに、珍しい。

基本、貴族の綺麗な所作をされる方なのだ。

こんなふうに動作が荒々しくなるところを、俺は今まで見たことがなかった。


「……アルフィ、貴殿に王都へ行けとの異動命令だ」

「アルが王都って! 先月、ラッセル様とディラン様が行ったばかりじゃないですか!」


ムーアは目を見開き憤っていたが、当の本人である俺は別のことを考えていた。


(ムーアの瞳の色、金色っぽくないか?)


元から「見えているのか?」というほど細い目なので、瞳の色をじっくりと見たことがなかった。


だが、まぁ、そんなこともあるかもしれない。


「この世界」の瞳の色はその地位を象徴している。

金色は王族の瞳だけだ。


そして、この国の第3皇子は、王城にずっといない。

という情報を俺は持っていたりする。


なんとなくそうかもなぁと思うが、それだけだった。

正直なところ、関わるのが面倒くさいにつきる。


「レギア様、王都での自分の仕事は何でしょうか?」

「アル!」

「ムーア、落ち着いて。異動命令が出ているのに、行かないわけにはいかないだろう」


鋭い視線がくるが、気にしない。

王都だろうが、ここだろうが、事務官は事務職を行うのみだ。


それに、王都で働けるならいろいろと自分にとっては都合がよい。

しかも、志願でなく異動なら目立つこともない。


「アルフィ、君は第7師団の事務官として赴任だ」

「申し訳ありません、第7師団とは何処をお守りする師団でしょうか?」


俺がいるこの国カエルレウムには、第1師団から第6師団までしかなかったはずだ。


第1師団は皇族を守る部隊。城の中の騎士はすべて第1師団所属だ。


第2師団は城の外の王都すべてが管轄


第3師団から第6師団は王都に隣接する4領に各当てられている。


その4領のうちの一つが俺が今いる領「セプテントリ」だ。

ここは、第3師団が管轄している。

領主は領内の一切合切の責務を持つことから、レギア様は「領主」兼「第3師団の師団長」となる。


だから、俺は今第3師団所属の事務官だ。


「知らないのはあたりまえだ。第7師団は数日前にできたばかりの師団で、まだ公表していない治療専門の師団だ。当面は、常駐場所としてロサ小宮殿を「治療院」にするそうだ。アルフィは魔力量5と少ないため、ここでの業務と同様に通常業務は事務官。非常時は治療の補佐的な役割をしてもらうことになるだろう。住まいはロサの隣の元使用人専門の宿舎だ。家具その他はすべてそろっているため、何も持ってくるなだそうだ」

「ロサを利用……」


ムーアがありえないという声を出していた。

それには俺も同感だった。


ロサは今の皇后がまだ正妃でなかったときに与えられた宮殿で、正妃になって王城に移られてから閉鎖されたのだと聞いている。

たしか、10年ぐらい使われていなかったはず。


ロサの今後の役割は代々正妃になる予定の高貴な方の、一時の仮の御所だ。

つまり、今は使わないから閉鎖されているに過ぎない小宮殿なのだ。


そのロサを治療専門とはいえ、師団に貸すことは異常ではないのか?

なにか、この国に非常事態が起こっている、もしくは起こるかもしれないってことだろうか。


面倒なことにならないといいが。

バックレて他国に行くという手もある……。


ただなぁ、ロサは閉鎖されるときに王城内の「禁書」をロサの地下に一次的に移動したという魅惑的な場所でもあるのだ。


(俺が知りたい情報がありそうなんだが、なんとなく胡散臭い)



「あ、あのレギア様、」

「ムーア、君の言いたいことはわかるが、私も半日第7師団の奴等と話し合い(戦い)をして相当疲れている。君の話も聞いてやりたいが、明日以降で」

(おうっ、何をしてきたんだレギア様……氷漬けの人間しか連想できない……)

「り、了解しました」

「アルフィ、第7師団には2週間後に異動だ。明日から3人の事務官が王都から来る。それらへの引き継ぎを終えてからということになる」

「かしこまりました」


明日から引き継ぎで忙しくなるということで、俺たちは早々に帰宅させられた。


俺は領主館の隣にある宿舎住まいなので、そこの食堂にいき夕食を取ったあとは、自室で明日からの引き継ぎの資料を作っていた。


まぁ、それも業務のこまごまはいつ引き継ぎしてもよいようにまとめていたので、

ものの数分で終わってしまった。




さて、「この世界」には俺がいた世界と違って「魔力」というものがある。

全人類、誰にでも魔力がある仕様だ。

だが、魔力があっても力として外に出る大きな魔力が誰にでもあるわけではない。

外にでる大きな魔力とは、レギア様のように突然何もないところから氷を出したりする魔力のことだ。


レギア様は「氷」の属性。

ムーアは「風」の属性。

俺は「光」。

ちなみに、光とは「治癒力」ということと認識されている。


一般的なもので他には、「土」「火」「雷」。


他にも、めったにない属性もある。

例えば、「緑」。

あらゆる植物を自由自在に操ることができるそうだ。

現在はこの「緑」の属性はいないとされている。


(緑の使い手だと、一生食べることに困らないよな。この属性持ちは軍部が手放さない気がする。遠征時に種さえあれば食べ物は調達できる。自国にはいいが、他国にいたら恐ろしいな)


そして「闇」。

あらゆる影をあやつることができる。

この闇の属性持ちは数人いるらしいが、素性は明かされていない。

多分、国の暗部にいるはずだ。


(影をあやつるってことは、影に潜んで諜報活動もし放題。こっちもやばい属性だ)


そして、大きな魔力を持っていないほとんどの一般人は、少ない魔力を生活に使用することで便利な生活ができている。


台所の火をおこすのに。

食べ物を保存するのに。

水をくむのに。

多少の魔力でいろいろな道具を使え、便利な暮らしができる。


その魔力は小石を少し浮かせるだけの小さな魔力さえあればいいのだ。

そこには、属性はない。

ただの魔力というだけだ。


しかし、師団には、大きな魔力がある人しかいない。

師団への入団試験の条件が「属性魔力持ち」だからだ。


ちなみに属性に多重属性はない。

火だけ、水だけ、光だけ。


(多重属性は、ない……「はず」なんだけどなぁ)


ベッドに横になりながら、今日でこの世界に来て3年と20日たったことに思いを馳せた。


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