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パッチング・レコーズ  作者: トモクマ
第8章 誰がために花は咲く
92/190

5月18日(土)③ 死の楽園

挿絵(By みてみん)

<TMO-1091>







「凪咲君、撃つんだ!」


 長雨の合図で、僕らは向かってくる怪物を目掛けて一斉に発砲した。銃声が連続して狭いフロア内にとどろき、銃口の発火がカメラフラッシュのように瞬く。


 しかし、その怪物は至近距離で肩や腹に銃弾を受けても、背を反らせて少し怯むだけで、足止めにはなるものの一発だけでは倒れもしない。


 しかし、長雨の放った銃弾が怪物の頭部を粉砕すると、途端に奴らは操り糸が切れたようにその場に崩折れた。


「凪咲君、頭を狙うんだ!」


 長雨にならい、僕も化け物の頭に向かって引き金を引く。


 この銃を買った際、僕は器吹から銃の撃つ際の体勢や構え方なども密かに指導してもらっていた。それが功を奏したのか、僕は銃の反動を上手く受け流し、狙った場所に少しは弾を当てられるようになっていた。でも、もちろん僕は射撃のプロではないし、百発百中という訳にもいかない。だから数を撃って当てるという粗い戦法ではあるのだが、そんな僕の腕を見越して、武器商人である器吹があえて装弾数の多いこの銃を持たせてくれたのだった。


 けれども油断は禁物である。ようやく撃ち方のコツを掴んできたところで弾が切れてしまい、慌てて予備弾倉を探す。倒しきれなかった怪物の数体が、僕のすぐ目の前まで迫ってきていた。


「凪咲君、任せて」


 そこへ紬希が身を翻して飛びかかり、化け物の頭目掛けて勢い良く蹴り込んだ。首のへし折れる音がして、怪物は空中でくるりと一回転し、どさりと崩れ落ちる。


「紬希、後ろだ!」


 背後に居た怪物が棘のあるツタを伸ばし、紬希の制服を引き裂いた。彼女の着ていた淡いピンクのカーディガンと、その下に着ていたシャツまでがビリビリに破け、上半身の胸から下が全て剥ぎ取られてしまう。


 しかし彼女は怯むことなく、いつの間にかスカートのポケットから取り出していた作業用カッターナイフで腕のツタを一本残らず切り落としてから、赤子のように怪物の背中に張り付いて頭に両腕を回し、きゅっと一捻り。首元からゴキッと鈍い音がして、相手は反撃の隙を与えられることなく絶命し、倒れ伏した。


 ――こうして、僕と長雨の射撃、そして紬希の力技による連携プレーにより、目に映る怪物全てをなんとか排除することに成功した。


「何なんだよ、こいつら……」


 見たこともない外見をしたその怪物を見て、僕は寒気を覚える。


「これが、さっきあの女性が言っていた『召使い共』のことだよ。……まったく、盛大な歓迎を受けたものだね。こいつらの体をよく見てみなよ」


 そう言って長雨は、怪物の体に巻き付いているツタを乱暴に引きちぎってゆく。すると、巻かれたツタの奥から、人間の着る衣服が現れ始めた。


「この施設の入館証が胸に付いてる。彼らは元々ここで働いていた作業員たちだ。不運にも彼らは全員捕まってあの女の召使いにされてしまったようだね」


 何の罪も無い人たちが、一人の女性の身勝手な思惑によって、こんな悍ましい怪物に変えられてしまうなんて、本当に不幸としか言いようがなかった。もし自分がああなったらと想像するだけで、身の毛がよだった。


「そうだ、紬希はだいじょう――ぶっ⁉」


 僕は振り向きざま、紬希のあられもない姿を目で捉えてしまった。辛うじてスカートは無事だったものの、上半身は完全にへそ出し状態。胸下の破れ目からは薄い水色のブラジャーが覗いている。


「私は大丈夫。……服はまた新しく買えばいい」


 そう答える紬希だが、確か彼女は以前亀蛇と一戦交えた時にも制服をぼろぼろの血まみれにしてしまっていた。彼女の場合、自身の体は治癒できるから良いものの、汚れたり破れたりした服までは直せないから、洋服代が馬鹿にならないはずだ。


 しかしそこへ、長雨がある提案を持ち込んでくる。


「またこの前みたいに器吹に交渉してみたらどうだい? あいつは君みたいな可愛い女の子のためならいくらだって金をみつぐような奴だから、きっと良い服を何枚でも買ってくれるはずだよ」


 器吹の女たらし尚且つロリコンというどうしようもならない性格が、まさかこんなところで役に立つなんて思いもしなかった。彼の商売に関する手腕で右に出る者が居ないというのは間違いないと思うのだが、稼いだお金をもう少しまともに使えないのだろうかと、僕は内心で溜息を吐く。


「――そんなことより、気をつけろ。また次の敵が来るぞ」


 不意に危険を察知した長雨が、ツタの蔓延る廊下の先を指差す。奥からぼうっと浮かび上がる小さな灯り。それは更に二つから三つ、四つから五つと増殖し、地を這う羽虫のように蠢いている。


 僕たちは、今さっき倒した怪物の群れなど、奴らのほんの一部に過ぎなかったことを思い知る。今度はさっきの倍以上、更なる怪物の大群が、こちらにじりじりと迫り寄って来ていたのだ。

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