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パッチング・レコーズ  作者: トモクマ
第6章 熱き血潮に賭けてみよ!
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5月10日(金)⑨ 良薬口に苦し

「ごはぁっ‼︎」


 ウニカの銃口から白い閃光が迸り、それを口で受け止めた亀蛇は大きくのけ反り、頭を地面にぶつけた。


「――いっ、いってぇえええええぇぇっ‼︎」


 しかし、亀蛇はその場で口を押さえながら悶え苦しむだけで、死んではいなかった。長雨の放った魔法弾は、彼を殺さなかったのだ。


「はぁ……まったく、貴様はアホか? マスターの唱えた呪文は『解毒』の呪文だっていうのに、無理矢理割り込んで止めようとしおって」


 長雨の持っていた銃が煙となって変形し、少女の姿に戻ったウニカが呆れ顔でそう言った。


「解毒? ……ってことは――」


「殺しちゃいないよ。奴からはまだ聞き出してやらなきゃいけないことがある。――それに、相手がどんな奴であろうと助けてやるのが、連合団の掟なんだろ? 俺だって隊の一員になっているからには、掟は守るさ」


 長雨はそう言って、倒れた亀蛇のところへ歩いてゆく。


「畜生……痛ぇなこの野郎……」


「『良薬口に苦し』だ。そのくらい我慢しろよ」


 亀蛇はしばらく口元を押さえて呻いていたが、やがて大人しくなって静かに寝息を立て始めた。


 すると、彼の舌に付いていた幾つもの薬物注射の痕が、色褪せるようにして徐々に表面上から消えてゆく。どうやら長雨の放った解毒魔法が効いたようだ。


「お前はいつもはしゃぎ過ぎなんだ。暫くそうして大人しくしてろ」


 長雨は泣く子をなだめた後のように疲れ切った溜め息を吐き、肩を落としてそう言った。



 一方、僕は倒れている紬希に駆け寄り、彼女をそっと抱き起こした。


 撃ち込んだ銃弾による傷は、もう既にそのほとんどが縫合されていて、出血も止まっていた。これが自分の手によって付けられた傷だと思うだけで、どうしようもない罪悪感に胸が締め付けられる。


「……紬希、さっきは本当にごめん。こうするより他に手がなかったんだ」


 僕は、紬希からどんなことを言われようとも、目をつむって耐える覚悟でいた。銃に撃たれることが、彼女にとってどれだけの苦痛を伴うものなのか知りもしないで、躊躇なく引き金を引いてしまった自分の罪は重い。無責任で、血も涙も無い冷酷非道な人間だと言われても、何も言い返せなかっただろう。


 しかし、薄く開いた彼女の口からささやかれたのは、僕に対する恨み辛みでもなければ、怒りでも悲しみでもなかった。


「大丈夫、私は平気だから………むしろあの時、私を狙って撃ってくれて、嬉しかった。……凪咲君が、やっと私の力を信じてくれたんだって、分かったから」


 紬希は掠れた声でそう言い、顔を綻ばせたのである。まさか感謝されるなんて思っていなくて、僕は返す言葉を失くしてしまう。


 ――でも、確かに今となって考えてみれば、あの作戦は紬希の不死身の力があってこそ成せた業だった。僕は紬希の能力を信じ、そして紬希は僕の下す決断を信じてくれていた。僕らはここにきてようやく、本当の意味での信頼関係というものを築くことができたらしい。


 ……だけど、あんな風に互いの信頼を命懸けで試すような修羅場には、もう二度と遭遇したくはないものだ。


「これからも、いざと言う時には私の身体を使っていいから……」


 咳き込みながらそう言う紬希に対して、「いや、その言い方には語弊があるだろ」と僕は呆れながら、血で汚れてしまっていた彼女の口元を持っていたハンカチでそっと拭ってやるのだった。

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