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パッチング・レコーズ  作者: トモクマ
第4章 見えざる脅威
43/190

5月4日(土)① 襲撃

挿絵(By みてみん)

<TMO-1042>







5月4日(土)みどりの日 天気…曇り



 ――昨日は本当に色々なことがあり過ぎて、散々な一日だった。


 二人が撃たれた後、紬希の方は治癒能力のおかげで負った傷は完全に治り、普通に立ち上がって歩けるようになった。


 そんな彼女を見た虎舞は、顔を真っ青にして「アンタたちみんな化け物よ!」と声を上げ、そのまま倉庫から飛び出していった。


 銃で撃たれた傷が、肌の内から生え出た糸によって再生してゆく奇怪な光景を間近で見てしまったのだから、怖くなって逃げ出したくなるのも無理はない。どうして僕まで化け物呼ばわりされないといけないのか少し不服なところもあったけれど、あんな風に傷がひとりでに紡がれてゆく光景を見て平静を保っていられる僕も、虎舞から見れば化け物に映ったのかもしれない。


 そして気付けば、捕らえられていたあの女生徒も倉庫から消えていた。まだ外は危険かもしれないというのに、虎舞と心境を同じくしていたのか、恐怖のあまり逃げずには居られなかったらしい。小兎姫さんに追いかけてもらおうかとも思ったけれど、彼女も弾をかすめた左脚からかなり出血をしており、満足に歩ける状態ではなかった。


「私に傷を見せて」


 紬希が駆け寄り、小兎姫さんの怪我した脚を見て傷の深さを目で測ると、それから人差し指をそっと傷口に当てて、目を閉じた。


 すると、指先から伸びた糸が皮膚の内側に根を下ろすように入り込んでいき、負った傷口を優しく紡いでいった。それは以前、少女の破れた縫いぐるみを直してやった時にも見せていた、相手の傷を縫合し直すことのできる力だった。


「……ありがとう。まるで嘘みたいに痛みが引いていくわ。恋白ちゃんの持つ力は、自分以外の相手にも治癒効果を分け与えることができるのね。私びっくりしちゃった」


 自分だけでなく、相手の怪我も治せることが立証され、これで紬希の能力の使い道がまた一つ増えたことになる。本人にとっては大きな飛躍かもしれないけれど、なるべく能力を使ってほしくないと願う僕にとって、それは朗報であるとは言い難かった。


「この人たち、警察に引き渡しますか?」


 倒れている六人の男をどうしようと思い、小兎姫さんに尋ねてみると、彼女は首を横に振って言った。


「今晩だけここに監禁して、明日警察に引き渡すことにしましょう。それまでに私が、彼らから色々と情報を引き出しておくわ。あなたたちはもう帰った方がいい。恋白ちゃんも今日はお疲れみたいだから」


 ――それから、紬希が血に濡れた衣服を着替えた後(幸い、小兎姫さんが紬希から借りていた衣服があったので、着替えに困ることはなかった)、僕らは倉庫を後にした。六人の男たちは、紬希の頑丈な白い糸でがんじがらめに縛られて、小兎姫さんの監視のもと、廃倉庫に一晩拘留されることになったのだった。



 こうして、災難続きだった一日はようやく幕を閉じたかと思われた。


 しかし翌朝になり、僕はテレビのニュースを見て思い知ることとなる。……僕らの災難な日々は、むしろこれから始まるのだということを。


 そのテレビ画面には、中継の映像が流されている。ニュースキャスターの居る背後には、昨日まで僕らが居た廃倉庫――いや、((かつて廃倉庫だった場所))が映し出されていた。


「嘘、だろ……」


 僕は思わず声を漏らした。ニュースキャスターによる現場解説の声が、淡々と部屋の中に響いてゆく。


『――美斗世市郊外の工場地帯にある倉庫が、昨夜突然倒壊し、建物内から男性六名が遺体で発見されました。警察の調べによりますと、発見された男性六名はいずれも遺体の損傷が激しく、身元確認は難航している模様で、建物倒壊に巻き込まれた可能性があるとして、捜査を進めています……』

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