5月3日(金)② 相談
<TMO-1038>
僕は月歩さんに昨日の成果を報告した。虎舞に紬希の能力について打ち明けたこと、けれど信じてもらえなかったこと、能力者であり未来人でもある月歩さんの言葉に対して、虎舞はまだ半信半疑でいること等々……
そして、月歩さんと面と向かい合ったこのタイミングで、僕は紬希に関するこれまで抱えていた悩み等々を、洗いざらい彼女に打ち明けてみた。
「……これまで、僕はずっと一人で紬希の面倒を見続けてきました。あいつ一人だと一体何をしでかすか分からないから。……でも、ずっと一人で見ているのは疲れるし、骨も折れるし…… だから、一人でも多く能力者について理解のある人間を増やした方が良いって月歩さんから言われた時、自分もその意見に大賛成でした。……でも、昨日虎舞に紬希の能力について話して聞かせても、やっぱり信じてもらえなくて…… 仲間ができないまま、これからもずっと一人であいつの面倒を見ていなければならないのかと思うと、正直言って――」
「気が滅入ってくるんでしょ?」
最後の言葉を月歩さんに見事に言い当てられ、僕は口をつぐんだ。紬希が超能力を持つこと。それは言わば、無邪気で正義感の強い小さな子どもに、本物の銃を持たせるようなものだった。
もしそうなれば、その子どもは世界中にいる全ての悪人を撃ち殺してしまうかもしれない。それが真の悪党であれば良いのだが、まだ善悪に対する知識が浅く、何が正しくて何が間違っているのか、その定義すらも曖昧な子どもは、やがて面白くなって、遊びの感覚でところ構わず銃を振り回し、ぶっ放し始めるかもしれない。そうなれば、もう正義もへったくれもない。
だから、もっと慎重になるべきなのに、彼女はいつも結果を考えるより先に行動に移してしまう。闇雲に力を振るって物事を解決しようとする。大きな力を持つ者には、同時に大きな責任が伴うことを、まだ彼女はよく理解していない。
けれど月歩さんは、いつものように優しい口調のまま、僕に向かって意見を返してくる。
「そんなに心配しなくても、恋白ちゃんの好きにやらせたらいいと思うな。恋白ちゃんもある程度は分別のある子だと私は思ってるし」
「……でもあいつ、はっきり言って何を考えているかもわからないし、たまにとんでもない無茶もやらかすし……」
「確かに、ちょっと向こう見ずなところもあるけど、いつまでもそうであるわけじゃないわ。……それに、私だって少し前までは大人気ない世間知らずな子どもで、この能力を使って散々好き放題に遊んでは周りに迷惑をかけていたものよ。そうしているうちに、徐々に自分の持つ力のことを色々と知って、そこから自分なりに上手く付き合い方を身に付けていったの。自分の内に秘めた力との付き合い方にね」
その話を聞いて、僕は少し意外に思った。いつも冷静で大らかな彼女が、その昔は所かまわず能力を使って暴れ回る問題児だったとは、とても想像できなかったからだ。
「……だから、あの子もきっと色々と試してみることが必要なんだと思うな。試して転んで失敗して、そうやって学びながら、徐々に力を自分のものにしていく。そうすれば、これから先待っているであろう困難も、自分の力を利用して乗り越えていけるようになるはず」
「で、でも……」
「あの子のことを心配するのも分かるけど、能力者という運命を背負ってしまった限り、常に危険を冒したり、失敗して痛い目を見たり、他人に迷惑をかけたりすることが当たり前になるわ。面倒に思うかもしれないけど、それでもあの子を信じて、受け入れてあげる広い心が必要よ」
月歩さんはそう言って、笑うウサギ仮面の奥で、戸惑う僕の顔をじっと見つめた。
その時僕はふと、彼女の付けたウサギ仮面に描かれている大きな傷痕は、この人が能力者であるが故に刻まれてしまった、かつての痛々しい過去の記憶なのかもしれないと思った。そして、その辛い過去を乗り越えてこそ、完全に力を我が物とし、成長した今の月歩さんがここに立っているのだろう。
紬希の好きにやらせてみようか。月歩さんのアドバイスを聞いてそんな気持ちが芽生える一方、失敗しては傷付いてゆく彼女の姿を見る辛さを想像してしまい、ジレンマに陥る。
……でも、それが能力者に定められた運命であるのなら、受け入れる他に手はないのだろうか?
「――そら捕まえた! 逃げようったってそうはいかないんだから。ほら、紬希は足を押さえてて」
「分かった」
「ちょっ、二人でかかってくるとか卑怯だろ! おい待て早まるな! うひゃひゃひゃ! おいやめろっ!」
僕らから少し距離を置いた所で、紬希と虎舞が逃げ回るチッピを挟み撃ちにして捕まえ、二人して嫌がる彼のお腹をひたすらくすぐりまくっていた。
紬希と虎舞の二人も、唐突な出会いから始まって色々とごたごたが重なりはしたものの、今はああして互いに仲良くやれているようで僕は安心する。例え紬希が能力者であることを信じてくれなくても、こうして彼女を一人の遊び相手として見てくれているだけマシなのかもしれない、と僕は思った。




