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パッチング・レコーズ  作者: トモクマ
第2章 たった一つの命を捨てて
20/190

4月22日(月) 連合団の密かな暗躍

挿絵(By みてみん)

<TMO-1019>







4月22日(月) 天気…晴れ/曇り



 帰りのホームルームが終わって放課後になると、それまでクラスの中で目立たず大人しくしていた紬希の時間がやって来る。彼女はきびきびとした動きで帰り支度を済ませ、毎回一番乗りで教室を抜け出してゆく。そして、その度に僕は慌てて彼女の後を追いかけた。


 紬希の結成した放課後秘密連合団の活動は、まず初めに町の巡回から始まり、そして巡回に終わる。通学路付近だけでなく、町外れの林道や森の中、駅前の路地裏から賑わいを見せる商店街まで、限られた時間の中で廻れる場所をくまなく廻り、日常の中に紛れる小さな事件を探す。


 でも、実際に僕らがやっていることと言えば、ただの慈善活動に過ぎなかった。例えば今日は、大通りの交差点上にある歩道橋で、両手に荷物を一杯に抱え、辛そうに腰を曲げて階段を上ろうとしているお婆さんを見つけた。困っている人を放っておけない紬希は、すかさず声を掛けて駆け寄ると、自らお婆さんを背負って歩道橋を駆け登り、道路の反対側まで走って送り届けてしまった。お婆さん一人だけでもかなり重かったはずなのに、抱えていた大量の荷物までまとめて背負い、眉ひとつしかめずに軽々と運んでしまう姿は圧巻の一言だった。


 運んでもらって嬉しそうに何度もお礼を言って去っていくお婆さんの後ろ姿を見送りながら、僕は紬希の横顔をちらと(うかがった。あれだけ激しく動いたというのに、彼女は息ひとつ乱さず、汗も流さないどころか、その表情はどこか満足げで、疲れを全く感じさせない。


「重くなかったの?」


 そう聞いてみると、紬希は「あれくらい平気」と悠揚(ゆうように答えた。どうやら彼女の言葉の辞書には「辛い」とか「しんどい」とか、そんな言葉が粗方削除されてしまっているようだ。


 さらに、僕を驚かせる出来事はこれだけでは終わらない。


 住宅地を通る人気の無い路地に入った時のこと、前方に少し距離を開けて、二人の親子連れが歩いていた。母親に連れられた男の子のもう一方の手には、鮮やかな青い風船が握られている。


 けれども紐が手をすり抜けてしまったのか、風船は男の子の手元を離れ、空高く舞い上がってしまう。


 「あっ!」と男の子が声を上げたと同時に、隣に居た紬希が駆け出していた。彼女は親子の背後まで一気に駆け寄り、ぶつかる寸前のところで思い切り地面を蹴り上げた。


 黒髪が宙を舞い、はだけたブレザーとスカートの裾が風になびきはためく。


 おそらく五メートル以上の高さはあっただろう。紬希は男の子の隣にいた母親の背丈をも軽く跳び越えて、上昇してゆく風船の紐を手で捕まえる。そしてそのまま地面へと落下し――


 タッ、とローファーが地面を叩く小気味良い音が響いて、親子二人の前に青い風船を持った女子高生が着地した。


 それは、わずか数秒間の出来事だった。


「……はい、どうぞ」


 まるで何事もなかったかのように平静な態度で男の子に風船を渡す紬希。男の子はおどおどしながらも小さくお礼を言って風船を受け取り、横に居た母親は、ぽかんと口を開けたまま、平然と背中を向けて去ってゆく紬希の後ろ姿を見送っていた。



「……あれも、紬希の能力の一つだったりするの?」


 呆然とした表情で突っ立ったまま僕らを見ている親子を尻目に、逃げるように早足で歩きながら、僕は紬希に尋ねた。


「そうかもしれない。自分でも、まさかあの高さで取れるなんて思っていなかったけど」


「思ってなかったの⁉︎」


 その言葉を聞いて僕は戦慄した。あんな大ジャンプを、成功する確信もないまま人前で繰り出してしまうなんて、無鉄砲にも程がある。あの時、もしあそこまで高く跳べていなかったら、勢い余ってそのまま親子の背中に激突していたかもしれないというのに……


 ろくに結果がどうなるのか考えもせずに見切り発車で突っ込んでゆく彼女の悪い癖に、僕はどうしようもなく辟易してしまった。


 ……でも、どうやら紬希の持つ力は不死身だけではないらしい。体力や筋力も並の人間よりずば抜けているし、高い場所から勢い良く着地しても足を挫かなかったところから見て、体もかなり頑丈になっているようだ。


 ただでさえ不死身なだけでも厄介な力であるというのに、彼女が一体どれだけ並の人間よりかけ離れているのか、先の一件を見てから、正直よく分からなくなってしまった。

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