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パッチング・レコーズ  作者: トモクマ
第7章 異世界からの侵略者
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6月4日(火)⑨ 招かれざる客人たち

「……うむ、そういえば――」


 チヨベの背中から飛び降りて華麗な着地を決めたイナリは、広げた両手を下ろしながら、ふと何かを思い付いたように声を漏らした。


「――近頃、その転送石を求めて、妙なやからが各地をうろついておるようでな」


「妙な輩?」


 不穏な響きを含んだその言葉に、僕らは疑問の声を投げる。


「おそらく、お主らと同じ余所者なのじゃろう。見たこともない格好をした奴らが、見たこともない羽根の付いた乗り物に乗って、何処からともなく大勢やって来おってな」


「僕らと同じ余所者?」


「ちょ、ちょっと待って! ってことは、私たちの他にも、この世界に迷い込んだ人間が居るってこと?」


 虎舞が驚いて声を上げる。もし、イナリの言うその余所者が、僕らの世界から来た人間であるならば、彼らも僕たちと同じく、転送石の引き起こす蛍昇泉の光の渦に巻き込まれて、この異世界に飛ばされたということになる。


 ……でも、《《大勢で》》この世界に迷い込んでくる、なんてことが有り得るのだろうか? それに、「見たことのない羽根の付いた乗り物」というのも気になる。


 そこへ、不満げな表情を露わにしたイナリが、愚痴をこぼすように言葉を続ける。


「まったく、酷い連中じゃよ。いきなりやって来たと思えば、我が物顔であちこち飛び回って、勝手に地面を掘り起こすし、田畑は踏み潰すし、川はあさるし山は崩すし……もうやりたい放題じゃ。おかげでこれまで澄んでいた川の水はにごるし、獣たちは餌が無くて里へ下りてくるし、ヨネの収穫は減るしで、村の連中も大迷惑をこうむっておる」


「そんな……どうしてそんなことを――」


 そこまで言って、僕はハッと気付く。


「……まさか、この転送石を狙って?」


「うむ。さっきも言った通り、転送石は鉱石じゃ。希少であるとはいえ、探せばある程度の量は見つかる。地下深くに埋まっている転送石が蛍昇泉けいしょうせんを起こした場合、放出されたエネルギーが地上にまで到達し、光の粒子が地面から湧き出る現象が起こる。この現象は各地でよく見られるのじゃが、あやつらはその現象の多発する土地を中心に、地面を掘り起こしているようなのじゃ」


「……私たちと同じく、彼らも元居た世界に戻るために、必死になってこの石を探しているんじゃないかしら?」


 そう紬希が推測を述べるが、それもまた違うような気がする。たかが石一つを見つけるだけにしては、山を崩したり川をにごしたりと、やることがあまりに大げさ過ぎている。


「あやつらは、故意にこちらの世界にやって来ては、この世界にしか存在しない貴重な鉱石である転送石を集めて回っておるようなのじゃ。まったくもって不可解な連中じゃよ」


「でも、そんなにたくさんの転送石を探し集めて、一体何に使おうとしているの?」


「それは……貴重な鉱石なのなら、売ってお金儲けするためとかじゃないの? 知らないけど」


 紬希と虎舞が疑問を投げ合う中、イナリは眉をひそめたまま、僕らに向かって警告するようにこう言った。


「――どちらにせよ、野蛮な余所者共が、何か良からぬことを企んで、妾たちの住む世界を荒らしておることは確かじゃ。……それに、つい数ヶ月前、冬ノ地方で猟をしていた村人が、奴らの拠点らしき怪しい建物を見つけたという話を聞いてのう。それで、わらわの弟子であるミヤナに、冬ノ地方まで様子を見に行かせたのじゃ。だが――」


 そこまで言うと、イナリは急にしゅんとして肩を落とし、大きな狐耳を垂らして黙り込んでしまった。


「――でも、ミヤナさんは帰って来なかった」


 そして、後に続く言葉を、紬希が代わりに紡いでいた。


「うぅ……妾があの時、冬ノ地方へ様子を見に行けと言ったばかりに、ミヤナが……妾の大切な愛弟子が、あんな酷い目に遭ってしまうとは……ひっく……ぐすっ……」


 イナリは、また大粒の涙を落して泣き始めてしまう。すかさず紬希がイナリの傍に駆け寄り、「落ち着いて、大丈夫」と慰めながら、やしろの前に彼女を座らせた。


「……でも、これではっきりしたわね。私のトラを――ミヤナをあんな姿にしたのは、きっとその余所者たちの仕業よ。本当になんて非道な連中なの……」 


 虎舞が憤りを露わにし、両手に拳を握り締める。


 確かに、ミヤナは余所者たちが拠点を築いたという冬ノ地方へ偵察に出かけ、そこで何者かに襲われて片腕を失った。敵に見つかって返り討ちに遭ったのか、それとも初めから気付かれていて、待ち伏せを食らったのか。実際に現地で何があったのか、詳しい状況は分からない。けれど、この世界を荒らす余所者と、ミヤナに大怪我を負わせた犯人は、同一犯であるとみて間違いないだろう。


「ちっ、クソったれめ。だから俺ぁ余所者は嫌いだって言ってんだよ。何処の誰だか知らねぇが、俺たちの土地に土足で踏み込んでヨネを荒らすだけじゃ飽き足らず、俺の娘の命まで狙おうとするたぁ良い度胸じゃねぇか! 喧嘩上等だ! いつでもかかってきやがれってんだ‼」


 隣で話を聞いていたチヨベが、獣の咆哮ほうこうのような一声を上げて、近くに立っていた木の幹に思い切り拳を打ち付けた。その衝撃でザワッと木が唸りを上げ、周囲に木の葉を撒き散らす。



 ――この瞬間、僕は、ひらひらと舞い散る葉音に交じって、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

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