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パッチング・レコーズ  作者: トモクマ
第2章 たった一つの命を捨てて
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4月19日(金) 「放課後秘密連合団」の発足

挿絵(By みてみん)

<TMO-1016>







4月19日(金) 天気…曇り/晴れ



 これはあまり重要な話という訳でもないのだが、今日が部活動入部届の提出期限日だった。僕らの通う学校には運動系と文化系どちらにも数多くの部活動が存在し、どんな生徒でも必ず一つは気になる部活を見つけられると言われるくらいバラエティーに富んでいた。


 しかしながら僕は今日に至るまで、どの部活にも入部届を出せていない。中学の頃は三年間ずっと帰宅部だったこともあり、「部活に入る=自分の自由時間を無駄に浪費してしまうだけ」という固定観念が頭の中に深く根付いてしまっていた。当時は別に家に早く帰ったからといって特に何をする訳でもなく、結局はただ暇を持て余していただけだったのだが……


 けど、だからと言って何か部活に入ろうかと考えるも、自分の得意分野を見出せなくて、それに部員と上手くやっていけるかどうか、三年間も続けられるのかどうか不安になったりして、手元にある入部届はいつまで経っても白紙のままで残っていた。


 でも、別に今無理して決める必要もないだろう。本当にやりたいことが見つかれば、その時に途中入部すれば良い話だ。


 そんなことを考えながら放課後の教室で一人帰り支度をしていると、突然背後から紬希に呼び止められた。


「凪咲君は、何か部活に入ったの?」


 そう聞かれて、僕は「何も入らなかった」と答えると、彼女はわずかながら安堵の表情を浮かべたような気がした。なんだか嫌な予感がする。


 すると彼女は、突然僕の前に一枚の入部届を差し出してきた。


 その届けの部活動名の欄には、可愛らしい丸文字で「放課後秘密連合団シークレット・ユナイターズ」(ご丁寧に文字の上にフリガナまで付けて)と書かれていた。


「……ふざけてるの?」


 僕があきれてそう言うと、彼女は首を横に振って「ううん、真剣」とだけ答えた。


「別に学校側から公式に認めてほしいなんて思ってない。非公式でやるつもり。だから『秘密シークレット』なの。活動内容としては、美斗世市内で起こる様々な事件を調査して解決すること。活動時間は、平日は主に放課後。土日も任意で活動を行う。あと、部費徴収とかは一切無し。部長――じゃなくて、団長は私。……どう?」


 どう? といきなり聞かれても困ってしまう。


「っていうか、『美斗世市内で起こる問題や事件の調査』って、具体的にどんなことをするんだよ?」


「主に市内の巡回をメインに活動していくつもり。町のあちこちを回って、困っている人や事件に巻き込まれている人を見つけて助けてあげるの」


「そんなことは警察のやる仕事だよ。彼らに任せておけばいいじゃないか」


「駄目、私たちにしかできないようなことがきっとあるはず。私の持つ能力でしか解決できない事件だって無いとは言えないでしょ?」


 ……こうなるともう紬希は止まらない。僕は言い返すのにも疲れて、とりあえず部活のメンバーは集まったのかどうか聞いてみた。


 すると彼女は首を横に振り、「私と――あと凪咲君……だけ」と、少し間を開けてから僕を指差して答えた。


「ちょっと待って。何で勝手に僕が入団する前提で話を進めてるんだよ?」


「別に活動に参加してとまでは言わない。ただメンバーとして加わってくれたらそれでいいの。せめて二人は居ないと『連合団ユナイターズ』にならないから」


 もはやあきれて声も出なかった。そんなことはどうだっていいじゃないか。勝手に一人でやってくれよ。そう吐き捨てて逃げようかとも思ったけれど、逃げても彼女が執念深く後を追いかけて来そうな気がして怖くなった。挙げ句の果てにはカッターナイフを喉元に突きつけられて、入団を強制させられるかもしれない。そんな過去のトラウマが蘇ってきてしまい、恐ろしくなった僕は逃げようにも逃げられなくて、渋々その入部届を受け取ってしまった。


「……あ、あくまで形式上だからな。そっちが何か問題を起こしてこっちに相談持ち掛けられても、僕は多分応じられない」


「うん、それでいいわ。ありがとう」


 紬希は素っ気なくそう返事をして、それからまた「一緒に帰ろう」と、いつもの文句を切り出してきたのだった。



 帰り道、僕は紬希の隣を歩きながら考える。


 美斗世市で起こる事件の調査と解決……どうやら彼女は、この町を巡って探偵ごっこでもやるつもりでいるらしい。


 ――そういえば昨日、紬希は「自分の力を誰かのために役立てたい」とか言っていたけれど、彼女の持つ不死身の力を探偵ごっこ遊びに生かそうとでも思っているのだろうか? 人助けをするために子どもっぽい馬鹿げた名前の部活まで発足させて、あいつは一体何を企んでいるのだろう?


 全くもって彼女の言動には謎が多く、ゆえにこの先何が起こるのか全く予測できない。まるで足元も見えない真っ暗な道を、彼女に腕を引かれ無理やり歩かされているようで、僕は不安でたまらなかった。

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