番外編1-7 これは誰のもの?
次の日、僕は重い体操着入れを抱えて、学校にやって来た。
教室に入ると、僕の隣の席にすわっている葉月ちゃんに目がいく。彼女の後ろ姿を見た途端、怖くなって思わず足がすくんでしまう。それでも覚悟を決めて、彼女の前まで重い足を運んだ。
「葉月ちゃん、おはよう」
僕がそう声をかけると、葉月ちゃんは僕の方を見て目を丸くした。いつも無口で誰とも話さない僕にいきなり話しかけられて、驚いているようだった。
「――あら、おはようたっくん。どうかしたの?」
そう問いかけられて、僕は体操着入れの中から、あのリナちゃん人形を取り出して見せた。
「あの……こ、これ、葉月ちゃんのじゃない?」
僕が取り出したそのお人形を見た途端、葉月ちゃんの目が大きく開いて、僕の方を見た。
一瞬、心臓が止まるかと思った。けれど次の瞬間、目の前でパァッと明るい笑顔が弾けた。
「それ私の! 何処にあったの⁉︎ 見つからなくてずっと探していたのよ!」
「いや、あの……前に葉月ちゃんがお人形を無くしたって周りの友達に話していたことを思い出して、それで――」
「あなたが見つけてくれたのね! ありがと! とっても嬉しいわ!」
僕の胸がトクンと高鳴った。こんなに元気な「ありがとう」を聞いたのは初めてだった。とてもびっくりしたけれど、どうしてか胸の奥が暖かくなって、いつの間にかこっちまで嬉しくなってくる。
「で、でも服は砂だらけだし……」
「大丈夫! この服はもうダメかもだけど、まだ替えの衣装は一杯あるし、リナちゃんもプラスチックだからお風呂に入れれば奇麗になるわ。だから、私の元に戻って来てくれただけで、とっても嬉しいの! 本当にありがとう、たっくん」
ひどく汚れていて、何か文句でも言われるんじゃないかと思っていたけれど、葉月ちゃんはそんなことなんて大して気にしてないみたい。安心した僕は、つい本音を漏らしてしまう。
「い、いや、僕はただ宝探しをしていただけで――」
「宝探し? 何それ何それ⁉︎ 詳しく聞かせてよ!」
思わず口にしてしまった言葉に、葉月ちゃんはしつこく訊ね返してくる。だから僕は仕方なく「玩具の墓場」の噂の秘密を彼女だけに教えてあげた。
葉月ちゃんも玩具の墓場の噂のことは知っていて、僕が真相を話している間も興味津々になって聞いてくれていた。
「――へぇ〜、そんなことがあったんだ! じゃああの噂は、そのピルクっていう大きな白い犬が犯人だったのね。凄いよたっくん! 美斗世市にたくさんある噂の一つを見事解決しちゃったんだから!」
「そ、そうかな……」
葉月ちゃんからそう言われて、思わず照れてしまう。
「……でもさ、そうなるとたっくんがこれまで宝探しで掘り当てた玩具やガラクタとかって、まだたっくんが持っているんでしょ?」
「うん……だから、全部元の持ち主に返してあげたいなって思ってさ」
「ふふっ、つまり宝探しの次は『宝の持ち主探し』ってわけね。なんか凄く面白そう! ねぇ、私も手伝わせてよ!」
――こうして、僕は葉月ちゃんと二人で『宝の持ち主探し』を始めた。
まずは僕らは、自分たちの通う学校の生徒の中から落とし物の持ち主を尋ねて回ってみた。
すると、なんと驚いたことに僕が持ってきたガラクタのほとんどはこの学校の生徒たちのもので、うち半数は僕らのクラスメイトのものだった。
クラスの仲間たちにも噂の話をすると、彼らは途端に僕の話に食い付いてきて、僕らの『宝の持ち主探し』の仲間に加わりたいと願い出てきた。
こうして新たに仲間も増えたこともあって、僕らは手分けして学校中の生徒たちの中から落とし物の持ち主を探し出し、持ち主の元へ返してあげた。砂場の中から掘り出したこともあって、砂で汚れていることに文句を言う奴も居たけれど、それでも最後には見つけてくれた僕らの功績を認めて「ありがとう」と言葉を返してくれた。その言葉を聞くだけで、僕らは互いに嬉しさを分かち合うことができたのだった。
――けれど、問題はまだ残っていた。
「……これでこの学校の子たちにはほとんど返し終わったけれど、この学校の子以外の人が持ち主であるものもまだ一杯あるんだよね? それらはどうやって返せばいいだろう? 町中の人たち全員に聞いて回る訳にもいかないし……」
葉月ちゃん含めた僕たちは、残った落し物をどうやって持ち主に返そうかと悩んでしまっていた。
そこで、僕はとある一つの案を思い付く。人前で意見を言ったりすることに慣れていなかった僕だけれど、ここは勇気を振り絞ってみんなの前で発言してみる。
「……あ、あのさ、僕に一つ提案があるんだけど、聞いてもらえるかな?――」




