番外編1-6 残されたガラクタたち
――こうして僕は、幽霊のお姉さんと協力して、玩具の墓場の噂を見事解決したのだった。
けれどそれで「めでたしめでたし」という訳にはいかなくて、結局その日は帰るのが夜遅くになってしまって、家に帰ればご飯抜きどころか、寝る前まで親から散々怒られてしまった。
ようやくお説教から解放されて自分の部屋に戻ってくると、ふと僕は自分の部屋の押し入れに仕舞われたたくさんのガラクタたちに目を付けた。
これまで、あの公園の砂場を掘り起こして集めに集めたガラクタたち。でも、どれもこれもみんなピルクが他人から盗んでしまったものなのだと分かってしまい、少しがっかりする。
今までずっと、あの砂場に何が埋まっているかを見るのが楽しみで、授業中も休み時間も、あの砂場に埋まっているものが何なのか想像を巡らせるだけでワクワクした。それまでずっとつまらなくて色褪せていた学校生活が、放課後の宝探しのことを思うだけで、何か明るくて色鮮やかなものに塗り替えられていくような気がした。
でも、あの噂の謎が解けてしまった今、もう宝探しはこの先ずっとできなくなるのかと思うと、何だか無性に悲しくなって、気付けば部屋の床にポロポロ涙をこぼして泣いていた。別に楽しみが一つ減っただけで、悲しむようなことじゃないはずなのに、どうしてだろう?
――また、いつもの退屈な日々が戻って来ちゃうんだ……
そんなことを思ってふと顔を上げた時――
たくさんのガラクタが詰まった段ボール箱から、奇麗なリナちゃん人形が顔を覗かせていた。そのお人形の顔を見て、僕は公園でピルクと飼い主を見送った後、幽霊のお姉さんから言われたことを思い出した。
〇
「……ねぇ、これまでにピルクが盗んでは砂場に埋めていた玩具たち、みんなあなたが持っているんでしょ?」
帰ってゆくピルクと飼い主の背中が見えなくなってしまってから、隣に居たお姉さんがいきなりそんなことを言い出したので、僕はぎくりとした。
「なっ……だ、だから何だよ? あれは僕が見つけたものだ。僕が砂場を掘って探し出した宝物なんだ。だから――」
「別に返してほしいなんて言う気はないわ」
思わず慌ててしまう僕に向かって、お姉さんはそっけなく答えを返した。
「……けれど、持ち主の元に戻れない玩具やガラクタたちは、きっと寂しくて泣いているでしょうね」
そう言われ、僕はハッとしてお姉さんの方を見る。お姉さんは、ピルクと飼い主の帰っていった方角をじっと見据えたまま、何処か悲しそうな顔をして立っていた。
「……ね、クマッパチも、そう思うでしょ?」
そして、気付けばいつの間にかお姉さんの手の中にあったあのボロボロの縫いぐるみに向かって、そう話しかけていた。
「……ほら、クマッパチも『寂しい』って言ってる」
「……また、嘘ばっかり――」
そう言いかけて僕はふと口をつぐむ。忘れてはいけない、お姉さんは玩具の幽霊なのだ。だから、ああやって縫いぐるみとも会話ができる。もしお姉さんの言っていることが本当なのだとしたら、僕は……
「……で、でも、それでもあれは僕のものなんだ! 盗まれる奴の方が悪いんだっ!」
お姉さんにまた捕まってしまいそうで怖くなった僕は、そう言い残して後ろも振り返らずに公園を走り去ってしまった。
〇
――再び、僕の記憶は今居る自分の部屋の中に引き戻される。あの時の罪悪感が、まだ心の中に汚れのようにこびり付いていて離れなかった。
『持ち主の元に戻れない玩具やガラクタたちは、きっと寂しくて泣いているでしょうね――』
あの言葉がどうしても嘘だとは思えなくて、僕はもう一度段ボールに詰められたガラクタたちを見た。箱から覗く砂まみれなリナちゃん人形の顔、その目は別れ際にお姉さんが見せたあの悲し気な瞳にそっくりで……
「――やっぱり駄目だ!」
僕は涙を拭いて立ち上がった。
これは僕がやったことなんだ。僕がやったのだから、後片付けもきちんと僕がやらなきゃ――
そう自分に言い聞かせながら、僕はいつも体操着を入れている大きなバッグを持ち出して、その中に段ボールに入った玩具やガラクタをたくさん詰め始めた。




