表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
パッチング・レコーズ  作者: トモクマ
番外編1 玩具の幽霊
117/190

番外編1-4 犯人捜し

挿絵(By みてみん)

<TMO-1116>







 それから僕は、幽霊お姉さんに連れられて、あの縫いぐるみを拾った公園の砂場まで案内させられた。『玩具の墓場の噂』のことも、僕がやってる秘密の宝探しのことも、洗いざらいみんなお姉さんに打ち明けてしまった。


 僕だけの秘密の遊び場が知られてしまうのは嫌だったけれど、教えずに逃げ出したら、きっとまた知らぬ間に追い付かれて連れ戻されてしまうだろう。そう思ったら、怖くなって教えない訳にはいかなかった。


 幽霊のお姉さんは、僕の手を引いて、公園までの道を歩いていく。


「………ねぇ、本当のこと教えてよ」


 僕は思い切って、手を引くお姉さんにそう尋ねてみた。


「……どうして、僕が縫いぐるみに話していた言葉を知ってたの?」


 僕は、公園であの縫いぐるみを見つけた時に呟いた言葉をお姉さんが知っていたことが、不思議でたまらなかった。……だって、あの時確かに僕は公園に一人きりで居て、誰も僕の言葉を聞いていなかったはずなのに。


 すると、そのお姉さんはこう答えた。


「クマッパチが、私に教えてくれたの。あなたが酷いことを言ったって」


「クマッパチ?」


「そう。この子の名前」


 ………変な名前。


 ――そう言おうとして、僕は言葉を飲み込む。また、お姉さんに咎められるのが嫌だったから。


「……でも、本当は違うんでしょ? 本当は、影に隠れてこっそり僕の言葉を聞いていたんでしょ?」


「違う。この子が教えてくれたの」


「嘘つけ。縫いぐるみは喋らないんだよ」


「私だけにはこの子の言葉が分かるの」


「……本当に分かるの?」


「ええ」


 僕は嘘だと思いたかった。けどそのお姉さんは、まるでそれがいつものことみたいに思いながら話していて、とても嘘のようには聞こえなかった。


 僕らはまた黙り込んで、公園までの道のりを黙々と歩き続けた。



「……ほら、ここがその公園だよ」


 上に道路の橋桁が通っているせいで一日中日陰になったその公園には、今日も相変わらず、誰も人が来ていなかった。


 そして、僕がついさっきまで宝探しをしていた砂場を指差す。あそこで、僕はあの縫いぐるみを見つけた。


 お姉さんは暫くの間砂場をじっと眺めて、それから今度はあのクマの縫いぐるみを取り出し、何やらひそひそやり始める。


「……そう、ここであの子に見つけられたのね。……なら犯人の顔は見た? ……そうだったの。………ええ、分かってるわ」


 お姉さんはボロボロの縫いぐるみに向かって話をしていた。僕は急に怖くなって彼女から少し離れた。


 やっぱり、あの人は本当に玩具の幽霊なんだと、僕ははっきりそう思った。


「そ、その縫いぐるみは、クマッパチは、一体何て言ったの?」


 僕は震えた声でそう尋ねると、お姉さんは答えた。


「……ここに埋められた時、埋めた犯人を見たんだって」


「えっ? 犯人を見たの⁉︎」


 僕は驚いて声を上げた。これまで毎日のようにこの公園の砂場に通っていたけれど、僕が掘り返す度に、毎回何かしら新しい玩具やガラクタが砂の中から出てきた。きっと誰かがここに来ては毎回新しいガラクタを埋めていくのだろうと思っていたけれど、お姉さんが言うには、その埋めていた人物を、あの縫いぐるみが目撃していたらしい。


「そう……やっぱり、私の思った通りだった」


 お姉さんは独り言を呟くようにそう言ってその場にしゃがみ、掘り返された砂場の跡をじっと見つめたり、砂を手に取ったりしていた。


 それから彼女はすっと立ち上がると、僕の方を振り向いて、言った。


「これから、ここにガラクタを埋めに来る犯人を私の手で捕まえるけど、あなたも来る?」


 そう問いかけられて、僕はごくりと唾を飲んだ。


「ど、どうして捕まえなきゃいけないの?」


「それが、私の任務だから」


 任務――とそのお姉さんは言った。胸を張ってそう言い切る姿は、どこか少しカッコ良くて、そんなお姉さんに、思わず僕は見とれてしまう。


「ぼ、僕も、その……は、犯人を見たい」


 そして、気付けば僕はそう答えていた。早く帰らなきゃお母さんに怒られるのに。


 でも、もうとっくに約束の時間を過ぎてしまっているのだから、いつ帰っても結局は同じだろう。


「なら、あの滑り台の陰に隠れて、犯人がやって来るのを待ちましょう」


 玩具の幽霊は、乗り気になった僕を見て何を思ったのか、硬い表情を少し緩めて、そう返した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ