第1部完結スペシャル「登場人物とトーク会を開こう!」Part1
みなさんどうも、トモクマです。
『パッチング・レコーズ』を描き始めたのは2020年の4月からで、ずっとストックしてばかりいたのですが、この度一気に第一部までの全作品を放出しました。出すもの全部出してスッキリしている次第です。
最初この作品を始めた時は、長く続けてやろうと意気込んではいたものの、これまでどの作品も尻切れトンボのまま終わっていた過去があり、この作品もずっと続けていけるのか、正直言って不安しかありませんでした。
ですが、いざここまでやって来て、やっぱり継続の力は凄まじいものだなぁと、過去積み重ねてきた話の行列をスクロールしながら、しみじみと実感しています。
しかし、今自分のいる立ち位置はまだ物語の前半に過ぎず、更にここからまた話を広げていかなくてはならないと思うと、途方に暮れてしまうような時がよくあります。
事実、この物語の全体像は、ぼんやりとですが既に頭の中で組み上がっていて、実際に「パッチング・ワールドプロジェクト」なんて大層な企画をおっ立ててしまっている始末です。
(※詳しく知りたいという方は、『パッチング・ワールドプロジェクト 企画作品一覧』をご覧ください)
ゆえに、こんな延々と続く長距離執筆マラソンをさせられている訳なのですが……
でも、自分で企画してマラソンを始めたからには、ちゃんとゴールまで辿り着かなければならないと思っているので、まぁぼちぼち頑張っていこうかなと。焦って書いても面白くありませんから。
なので読者の皆様も、どうぞ気長に次編の更新を見守っていただけたら幸いです。
――さて、第1部も終わり、いよいよ次編へ突入する訳ですが、その前に何かしらやりたいな〜と思って、とあるイベントをこちらで用意しました。
それがこちら! デデン!
「『パッチング・レコーズ』の物語に登場する人物たちと、ゆるいトーク会を開こう!」
……はい、ということで、コミュ力皆無な私ことトモクマが、実際に架空の町である美斗世市に足を運び、主役の凪咲尋斗さんと、メインヒロインの紬希恋白さんをお呼びして、質問コーナーかつ雑談会みたいな感じでお話をして来ましたので、その様子を皆様にお届けしたいと思います。
ちなみに私トモクマは、偽名として「友田熊吉」と名乗っておりますが、お気になさらず……
では、どうぞ楽しんでいってください!
□
――ここは美斗世市。人口百万人を超える大きな町で、都市部から山間部まで、さまざまな地理が一つに組み合わされている。
五月に入って春も深まり、暖かな陽気が心地良い季節になったのだけれど、街路を吹き抜ける風はまだ冷たい。
そんな冬の名残である肌寒さが色濃いこの街に、僕はとある依頼を果たすべく、こうしてやって来た訳なのだけれど……
「……待ち合わせ場所って、本当にここで合ってるよな?……」
心配になった僕は、手元にあるスマホに映された手書きの地図を何度も見返しては、自分の辿って来た道筋を確かめる。
――うん、何度見ても合っている。地図に書かれた星マーク。その場所は、間違いなく今自分の立っている場所を示していた。
しかし、周囲に見えるのは、どこを向いても鬱蒼とした森、森、森……
近くにある建物としては、廃墟と化した神社のみで、ここはその神社の裏手に当たる森の中だ。
そして、僕のすぐ隣には、今にもあの某呪いのビデオに映し出されそうな、不気味な古井戸がぽつりと佇んでいる。傍から見ていてもかなり不気味で、近寄る気も起こらない。
「何でこんなところを待ち合わせ場所なんかにしたのかなぁ……」
そう思いながら、ふと地図の写真の下の方を見ると、小さな文字で、こんなことが書かれていた。
『P.S.
星の付いた場所まで来たら、近くに古い井戸があると思うので、一番下まで下りてください。理由は底まで下りれば分かります。』
「………いや、え? ……下りるの? マジで?」
僕はギギギ、とぎこちなく首を曲げて隣の井戸に目を向ける。その古ぼけた井戸は、確かに人が出入りできるくらいの大きさはあったけれど、とても中に人が入れるような雰囲気ではない。むしろ、あの某呪いのビデオに登場する髪長の女性が今にもイナイイナイバァして来そうで、思わず固唾を飲み込んだ。
しかし、このままここで待ち惚けする訳にもいかず、仕方無しにその古井戸へ近付き、そっと中を覗き込んでみる。
「あれ?……底の方に灯りが見える……それに、何だこの梯子?」
◯
井戸の底まで下りてみて、僕はたまげた。
底に水は溜まっておらず、代わりに鉄製のハッチのような扉が、下りてきた僕を出迎えた。扉の上には小さな電球が明かりを灯しており、扉に掛けられている店名を記したプレートをぼんやりと照らしている。
「……ゆ、ユナイターズ・カフェ?」
僕は戸惑いながらも、恐る恐る扉に手を掛ける。重い扉を引き開けると、ドアベルがカランカランと軽快に鳴り響き、それまでホラーだった雰囲気が、ガラリと一変した。
そこには見渡す限り、一つのカフェ空間が広がっていた。
こじんまりとした内装に、シックなデザイン。中はカウンター席とテーブル席に分かれ、天井から下がる照明が、暖色の柔らかな光を落としている。カウンター左右には小さなポータブルスピーカーが置かれ、そこから流れてくるレッド・ガーランドの軽快なピアノ演奏が、良い感じに場を和ませていた。
「……ひょっとして、ここがその待ち合わせ場所?」
呆然としていた僕がそう独り言ちると、カウンターの方から、突然何の前触れもなくウサギの仮面を付けた一人の女性が現れたので、僕は驚きのあまり声を失った。
「あら、いらっしゃい。あなたが友田熊吉さん?」
素顔を隠したその女性は、僕を見るなり、いきなり名前を呼んできた。おかしいな? 確か僕の知り合いの中でも、あんなウサギの仮面を被った変な奴は居なかったはずだが……
「あ、あの、どうして僕の名前を……それに、その仮面は?」
「ふふっ、あなたがここへ来ることは、恋白ちゃんから事前に聞いていましたから。……ごめんなさいね。仮面なんか付けて素顔を隠したまま自己紹介するなんて、失礼なことは重々承知しているのですけれど。――私はこのカフェの店主を任されている小兎姫月歩です。よろしくお願いしますね」
そう言って、彼女は僕の前で軽くお辞儀する。どうやら、ウサギの仮面を被った彼女がこのカフェのマスターであるらしい。一体このお店は何なのだろう? お客は全員仮面を付けていないと入店できないような如何わしいクラブにでも来てしまったのだろうか……
僕は、どうして仮面を付けているのか彼女に尋ねようとした。けれど、その前に小兎姫さんが仮面の口元に人差し指を当て、声を落として言う。
「私が素顔を隠している理由は、今は秘密にしておいてください。いずれはあなたにもお話しする時が来るでしょうから」
彼女はそう言って、「どうぞ、好きな席にお掛けになってくださいね」と残してカウンターへ戻っていった。僕は口にしようとした疑問をどうにか飲み込んで、彼女の言われるままにお店の中央にある円テーブルに腰掛ける。
席に着いて、僕は改めて周りを見渡してみた。
カフェの内装は細部に渡ってよく作り込まれており、雰囲気もなかなか良い。高い天井にはゴツゴツとした岩が剥き出しになっており、この場所が地下にあることは一目瞭然なのだけれど、その無骨な天井が逆にカフェの整った内装と対を成しているところもまた面白く、見応えがある。
でも、まさかこんな立派なお店が、山奥にポツリと佇むちょっとホラーな古井戸の下にあるなんて、誰も考えないはずだ。……いや、そもそもホラーな古井戸の中にカフェを作るというコンセプト自体が間違っているとも思うのだが……
――それにしても、あのカフェの店主。仮面で顔を隠しているのは謎だけれど、人当たりもいいし、声も優しいし、変な人ではなさそう。嫌いじゃない。
(中々色っぽい女性だったなぁ……)
などと勝手に思ってしまっている自分に気付き、「いかんいかん」と慌てて自らの頰を叩き、知らぬ間に抱いてしまった邪な妄想を振り払う。
――そうだ、僕はここで一人お茶を楽しむために来たのではない。僕こと友田熊吉は、ここでとある二人の人物と待ち合わせをしているのだ。
その待ち合わせの相手と言うのが、今日僕が取材させてもらう二人で、一人は凪咲尋斗くん。そしてもう一人は紬希恋白さんだ。
二人とも、この町で一番生徒人数の多いマンモス校である美斗世第一高校に通っている学生である。今日は平日で、事前に二人へアポを取ってみたところ、授業終わりの放課後にわざわざ時間を割いて取材に応じてくれるとのことで、こちらとしてはありがたい気持ちと申し訳ない気持ちで一杯だった。
――さて、取材を行うことになったのは良いものの、問題は取材をどこで行うか、その場所決めだった。僕としては、二人の通う学校から近いファミレスとかで待ち合わせしようかなくらいにしか思っていなかった。
しかし、そこへ紬希さんが唐突にこう提案してきたのである。
「集まる場所なら、私たちの秘密基地がいいです。手書きの地図を送るので、それを参考にして来てください」
そうして、手書きの地図を写した写メが僕宛に送られてきたというわけだ。
「秘密基地」と言われて、最初はどんな場所なのだろうと思って面白半分に来てみたけれど、まさか山奥の地下にこんな立派なカフェが開かれていたなんて驚きである。
……いや、驚きを通り越してもはや呆れてしまい、開いた口が塞がらない。これだけの設備を整えるのにも、一体どれだけの多大な労力を費やしたのだろう? こんな場所に、あの二人は毎日のように集まっているというのだろうか?
(なんか落ち着かないな……)
何だか、慣れない場所に来てしまったせいで緊張を隠せない。元々コミュ障である僕の性格も祟って、今回の企画を自分だけで上手くやり通せるのか不安になってくる。
でも、今回の企画は自分から言い出したことなのだから、やると言ったからにはきちんと僕が主体となって最後までやり通さなくては。しっかりしろ自分!
そう己に喝を入れて、着ていた背広の裾を伸ばして姿勢を正していると――
「ご注文はどうなさいますか?」
いつの間にか僕の隣に小兎姫さんが立っていて、驚いてしまう。
「あっ、あの……ほ、ホットコーヒーを一つ……」
「かしこまりました。ブレンドに何か好みはございますか?」
「えっ……えっとあの……僕そういうの、あんまり詳しくなくて……」
「ふふっ、冗談です。私の特性ブレンドをご用意しますね。どうぞ、ゆっくりしていってください」
いたずらな笑みを残して、彼女は再びカウンターへ戻ってゆく。何だか遊ばれたような気分がしたけれど、緊張して固まっている僕を見て、彼女なりに緊張を解そうとしてくれたのかもしれない。
(それにしても、ここ地下の割には意外と暖房が効いてるんだな……)
僕は首元ににじむ汗を気にして、ネクタイできっちりと締めた襟に指を入れ、少し緩めた。
(わざわざスーツなんか堅っ苦しい格好で来る必要無かったんじゃ……)
そんな思いが頭をもたげ始めていた時……
カランカランカラン――
唐突にドアベルが鳴り響き、奥にあった入口の扉が開いて、制服姿の高校生が二人、姿を現した。
一人は男の子。背格好からしてそれほど目立った特徴はないけれど、言われたことはきちんと素直に答え、相手のことをしっかり考えられる真面目な性格が雰囲気から見てとれた。僕も、昔はあんな感じの地味な学生だった気がする。まるで過去の自分を見ているようだ。
一方で対照的なのは、彼の隣に居るもう一人の女の子。サラサラな白髪をなびかせ、碧眼の無垢な瞳が僕をじっと見つめている。その純粋な目付きは、まるで小さな子どもを見ているようだったが、それとは真逆に体付きは大人の女性すら羨むくらい成長していて(どこがとは言わないけれど)、思わず目を奪われそうになった。彼女は絶対クラスでも人気のあるヒロイン的な立ち地位を手に入れているに違いない。
「……あなたが、友田熊吉さんですか?」
すると、女子の方が淡々とした態度でそう声をかけてきたので、僕は慌てて答える。
「あ、はい! 友田です! 今日は来てくださってありがとうございましゅ……」
自分が主体となって事を運ぼうと思っていたはずが、出会い頭からタジタジで、おまけに噛んだ。
初っ端から思いきりコミュ障全開で痴態を曝け出してしまった僕は、思わず顔を熱くしてしまった。
「こんにちは。紬希恋白です」
「あの、凪咲尋斗です。今日はよろしくお願いします」
「い、いえいえこちらこそ! どうぞ座ってください」
二人はこちらに向かって律儀にお辞儀をしてくれた。高校生である彼らなりにきちんと礼儀を尽くしてくれているようで、僕はそんな彼らに対して、タジタジになりながらも席に座るよう促した。
二人が席に着くと、小兎姫さんがカウンターの方からやって来る。
「あら、いらっしゃい。二人とも学校お疲れ様。今日は何にする?」
やはりここの常連だからなのか、二人とも小兎姫さんの素性について理解しているらしく、ウサギの仮面を付けた彼女が現れても、彼らはただ普通にお辞儀を返すだけだ。
「僕はいつものブレンドをお願いします」
「月歩さん、今日は何かとっておきのデザートはあるの?」
そう尋ねる紬希に対して、「もちろんあるわよ」と小兎姫さんはグッと親指を立てた。
「今日はね~、ここのキッチンにオーブンが設置できたから、久々にパウンドケーキを焼いてみたの。空越くんや器吹さんにもお裾分けしたんだけど、それでも半分くらい残っちゃって……」
「心配いらない。私が全部いただくわ」
そう言ってグッと親指を立てて返す紬希。変なところで意思疎通してしまう二人を前に、僕や凪咲くんは何も口出しできなかった。
注文するのは結構だけれど、いくら店主と親しいとはいえ、カフェだから当然お金も払わないといけないはず。二人の珈琲代は自分が持ってあげるつもりでいたけれど、何だか思ったより高くついてしまいそうで、僕は思わず渋い顔をしてしまった。
〇
「えっと……二人とも、学校が終わってからここに来てくれたんだよね? 忙しい中で時間を作ってくれて本当にありがとう。もっと学校近くのファミレスとかにした方が良かったかな~とも思ったんだけど、まさかこんな隠れ家みたいな集い場があったなんて知らなかったよ。授業終わりで疲れてるのに、ここまで来るの大変じゃなかった?」
僕はおずおずと話を切り出す。
「あ、それなら気にしなくて大丈夫です。いつも放課後になったら紬希と一緒に連合団の巡回に出かけているので、この時間に外を出歩くのは慣れてます。それに、ここは僕ら放課後秘密連合団の拠点なので」
そう言って、青年は苦笑いした。
しばらくして、小兎姫さんがコーヒーとケーキをお盆に乗せて持って来てくれた。
紬希さんの注文した小兎姫さん特性パウンドケーキは、幾つにも切り分けられていたけれど、その一片だけでもかなりの大きさで、中にはレーズンやナッツがたくさん敷き詰められており、見た目だけでもかなりのボリュームがあった。あんなの全部食べたら胃もたれしてしまいそうだ。
そうして、二人の前にそれぞれ注文の品が揃ったところで、僕は本題に入ろうと鞄からボイスレコーダーを取り出す。
「そ、それじゃあ早速始めようと思うんだけど、大丈夫かな? それとも、彼女が食べ終わるまで待った方がいい?」
「ふぇいきへふ。はひへへふははい」
僕がそう尋ねた時には、もう既に紬希さんは巨大パウンドケーキの攻略を始めてしまっていて、フォークでケーキを切って口に入れていた。
「紬希のことは気にしないでください。彼女は他人の目を気にせず自分のペースで進んでいくタイプなんで」
凪咲君からそう言われ、僕は戸惑いながらも頷いて「それじゃ、始めるね」と、レコーダーの録音ボタンを押した。
こうして、コーヒーの香ばしい香りが店内に漂う中、僕は二人に向かって質問を始めた。




