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パッチング・レコーズ  作者: トモクマ
第8章 誰がために花は咲く
101/190

5月18日(土)⑫ 庭園からの脱出

挿絵(By みてみん)

<TMO-1100>







「どうやら、上の階のほとんどはもう火の海になってしまっているようです。急いで逃げないと、あなた方も危険です」


「そんな……」


 施設全体の揺れは大きくなってゆく一方で、きな臭い煙も漂い始めた。火災報知器が作動してサイレンが鳴り響き、施設のあちこちで赤い回転灯が明滅を始める。どうやら状況は最悪のようだ。気温も上昇し、白い煙が出入り口の隙間から流れ出てきている。


「ここから廊下を通って地上まで戻るのはもう無理だ。他に脱出口はないのか?」


 長雨がそう尋ねると、千柳は上方を指差し、高い天井に沿って平行に伸びている太いパイプを指差した。


「あれは通風用のパイプで、研究施設から離れた地上に直結しています。人が通れる程の太さは十分にあると思うのですが、あれだけ高い所にあっては……」


「それなら大丈夫だ。俺の相棒が付いてる」


 そう言って長雨は腰に差していたリヴォルバーのウニカを抜き、弾倉を開けて一発の銃弾を装填する。それは、弾丸が水晶のように透き通った、例の魔法弾だった。


「……『アリアインサート――ザ・バースト』! みんな耳をふさげ!」


 小さな魔方陣の描かれた銃口を天井へ向けて引き金を引く。ガラスの割れる音と共に純白の光弾が放たれ、パイプに着弾すると轟音と共に激しく火花を散らして爆発し、太いパイプに大穴が開いた。


 しかし、爆発の衝撃で天井を支えていたコンクリートに亀裂が入り、みるみるうちに広がっていく。


「危ない!」


 次の瞬間、天井が一斉に崩れ落ち、火の粉と共に僕らの頭上へ降り注いだ。僕は慌てて紬希の手を掴もうとしたが、彼女は瓦礫の雨の中へ身を躍らせ、千柳と空越の居る傍らへ滑り込んだ。後を追いかけようとした時には既に遅く、僕らの前には崩れ落ちた瓦礫の山と、燃え盛る炎が行く手を塞いでしまっていた。


「紬希! 無事か⁉」


「……大丈夫。千柳さんと空越君も無事」


 瓦礫の向こう側から、微かではあるけれど紬希の声が聞こえ、僕は安堵する。どうやら三人共巻き込まれずに済んだようだ。


「私は二人を連れて行くから、凪咲君たちは先に逃げて」


「無茶だ! もうじきこの地下施設も崩落するぞ!」


 瓦礫と共に落ちてくる炎が地面に蔓延るミロガンシアのツタに燃え移り、あっという間に地下全体へと広がって、据え置かれた装置にも燃え移り、激しくショートして火花を散らした。危険薬物の入った試験管やフラスコが割れ、炎に引火して大きな爆発があちこちで立て続けに起こる。もはや火災を食い止める術はなく、僕らは燃え盛る火の手に追い立てられた。


「おいウニカ! いつまで寝てるんだ、起きろっ!」


 長雨が持っていた銃を放り投げると、ポンと音を立てて煙となり、元の姿に戻ったウニカがどさりと地面に倒れる。


「むにゃあ……う~ん、まだ寝てたいのにぃ……」


 少し前にミロガンシアの花粉を浴びてからというもの、あれからずっと眠りこけてしまっていたらしく、少女は涙目を擦りながら起き上がる。


「暢気なこと言ってる場合かよ! もう花粉の影響は大分薄れただろ。俺たちを抱えて飛べそうか?」


「うぅぅん……二人だけなら何とか……」


「駄目だよ! 紬希を連れ戻さないと!」


 僕は紬希の所へ行こうとがむしゃらに瓦礫をよじ登ったが、燃え上がる炎と吹き付ける熱風にやられて転がり落ちてしまう。


「いいから先に行って! 必ず戻るから――」


 瓦礫の向こうから聞こえていた紬希の声もそこで途切れてしまい、後の言葉は燃え盛る業火の音にかき消されてしまった。


「もう時間がない! ウニカ、俺たちを抱えて飛ぶんだ!」


 ウニカは大きなあくびをしつつ背中から巨大な蝙蝠の翼を生やし、長雨と僕を抱えて大きく飛び上がった。


「待ってくれ、まだ紬希たちが下に居るんだ! 頼む下ろしてくれっ! 紬希―――っ‼︎」


 瞬く間に僕の足は地面を離れ、紬希や千柳、空越少年を地下に残したまま、ウニカは宙高く舞い上がり、降りかかる火の粉を払って、穴の開いた通風管の中を潜り抜けていった。

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