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第6ラウンド 全ボクサーの鬼門

今日お送りするのは「左VS左」です。

 瑠希菜の準決勝の相手が決まった。


相手は昨年市内準優勝の強敵「松本陽子(まつもとようこ)」。


低重心の変則サウスポーで、技巧派の選手が次の相手だった。


サウスポーで、しかも変則型は()()()()()()()()となる。


ただでさえサウスポーが少ないボクシング界だ、変則型ともなれば数は絞られてくる。


良くも悪くも正統派の瑠希菜では相性は本来悪いのだが、変則型も一応は練習している。


ただ、公式戦では初めてのサウスポーとの試合だ、諒太も教える側として、慎重にならざるを得なかった。



 こうして瑠希菜と陽子はリングへと上がった。


そして、ゴングの音が鳴る。


両者拳を合わせてリング中央にポジションを構えた。


どこから飛んでくるかわからないパンチ。


フリッカーのようでフリッカーとも言い難いのが陽子のスタイルだ。


対して瑠希菜は高くガードを上げて対処している。


初の大会でここまで勝ち進んできた瑠希菜と、小学生の頃から経験豊富な陽子。


真逆な両者はジリジリと距離を詰めていく。


開始から数秒、まだ両者は出方を伺っていた。



 ようやく動き出したのは1ラウンド開始から15秒経ってからだった。


先に仕掛けたのは陽子だ。


下から顎に向かってリードジャブを放つ。


瑠希菜は右でパーリングをするが、戻しが速い。


続け様にジャブ二発を下から打ち出し、陽子が先制攻撃を仕掛けた。


これをギリギリのところでスウェーをして躱したが、主導権を取られたのは間違いない。


立て続けに陽子がボディージャブ、踏み込んでのジャブを放っていく。


スウェーとサイドステップを上手く使って躱していったのだが、なかなか付け入る隙がない。


だが、瑠希菜も負けてはいない。


リードジャブに対して長い距離からのジャブを放っていく。


これが相打ちになった。


お互いの頬と額にパンチが当たる。


今度は瑠希菜が仕掛けた。


フックジャブから踏み込んでのワンツースリー。


陽子のディフェンスも上手く、浅くしかヒットはしなかったが、流れは取り返した。


その後数十秒はお互いジャブの差し合いになる。


どちらもスピードが互角だ。


体を左右に動かしながら出方を伺う瑠希菜に対して、陽子は目のフェイントを使って瑠希菜のディフェンスを撹乱していく。


気がつけば残り10秒。


拍子木が鳴る。


両者が踏み込んだ。


瑠希菜が顔面へのストレート、陽子が左アッパーで応戦する。


顎に浅くヒットした瑠希菜の脳が少しだけ揺れる。


一方、瑠希菜のストレートも届いているが、陽子が直前でスリッピングアウェーをしたのでダメージは低いし、ダウンを取れないパンチだった。


瑠希菜が被弾したのは幸いにも「顎先(チン)」から右にズレているためにその程度のダメージで済んだが、本来相打ちなら、まともに被弾したのであればダメージが深くてもおかしくはない。


そして第1ラウンド終了のゴングが鳴り、二人はそれぞれの陣営のコーナーへと戻っていった。


諒太をはじめとする陣営がマウスピースを取り出し、洗浄する。


諒太は指示を出す。


「瑠希菜、自分から仕掛けていけ。いいな? で、足ももっと使ってけ。的を絞らせんなよ、向こうに。」


コクン、と小さく頷いた瑠希菜。


弱気にはなっていない、ただただ、落ち着いていたのだった。


一方陽子の方では。


「パンチが痛いなぁ……堀岡さんの。左頬(ココ)()()()()()()よ、まだ。」


瑠希菜の威力を十二分に味わっていたのだが、まだまだ余裕そうだ。


「まあ心配すんな。まだアイツは素人だぞ、世界チャンプの娘とはいえど。……無理に手は出すな、カウンターを狙ってけ。いいな?」


「おっけ。任せといて。」


両陣営の思惑が一致したところでセコンドアウトを告げる笛が鳴り、第2ラウンドが始まった。



 拳を合わせた後、すぐに低い姿勢を取った陽子。


瑠希菜の目を見ながらカウンターのタイミングを伺っていた。


しかし、瑠希菜はそんな意図はお構いなしだった。


目のフェイントを一切入れず、また足の予備動作もなく右ショートアッパーを繰り出した。


まともにもらい、陽子の顎が跳ね上がり、瑠希菜は続け様にもう一発アッパーを同じところに入れた。


思わず仰け反った陽子。


瑠希菜は見逃さず、ワンツーを叩き込んだが、左を警戒していた陽子は左をダッキングで躱してヘッドギアを掠めるだけに留まらせた。


ここから瑠希菜の左フックと陽子の左ボディーフックが相打ちになったり、お互いのフック同士がヒットしたり、と一進一退の攻防が続いた。


だが、優勢になったのは瑠希菜の方だ。


左打ち下ろしを利用して徐々にダメージを与えていき、カウンターも同時に警戒することも瑠希菜は忘れない。


だんだんと、陽子のパンチが空を切るようになり、瑠希菜がペースを握っていった。



 が、陽子も負けてはいなかった。


瑠希菜の右のフックをダッキングで空転させた直後に左のクロスフックを放って瑠希菜の顔面へヒットさせ、追撃で右フックを放った。


だが、瑠希菜は鎖骨でフックを受け止め、すかさず反撃に転じた。


左ストレートから右フックの返しで反撃し、両方が急所の顎にクリーンヒットし、陽子はダウンを喫した。


勢いよく腰から打ち付けられた陽子はダウンに気づき立ち上がろうとした。


ゴスン、という鈍い音と共に倒れたのだ、ダメージがデカい。


しかも、瑠希菜のストレートはあの右フックを鎖骨で受け止める以前から始動していたものだったので、カウンターという形でまともにもらってしまったのだった。


陽子の闘志は消えてはいなかった。


(冗談じゃない……決勝で……()()()()リベンジするためにやってきたのに……こんなところで負けてられるか!)


立ち上がってファイティングポーズを取り、レフェリーがそれを見て再開させる。


ダウンのダメージなど露知らずなのか、陽子は猛然と襲いかかってきた。


瑠希菜は淡々とそれを迎え撃つ。


両者激しい撃ち合いになるが、終わりの時は近づいていた。



 陽子が不意に頭を突っ込ませて放ったワンツーに対して、瑠希菜が放ったのは。


ノーモーションの()()()()()()だった。


インパクトの瞬間、陽子の首が45度に曲がり、陽子は尻から崩れ落ちた。


芸術的なカウンターショットだった。


ニュートラルコーナーへ行く際、瑠希菜はボソッと呟いた。


「手応えあり………」と。


陽子が立とうとしたが、膝から下が機能しない。


立ち上がれず、10カウントを迎える前にレフェリーが試合終了を宣告した。


2ラウンド1分47秒。


これがKOラウンドとなった。


陽子は何が起こったのかわからず、尻もちをついたまま、ただただ茫然自失状態になっていたのだった。


瑠希菜はこれで決勝進出と同時に、「3戦3勝3RSC勝ち」となった。


決勝の相手は前回大会の新14歳の部で優勝を果たした「三ツ矢夏帆(みつやかほ)」となった。



 一方その頃、会場外では、というと。


「ヤバイヤバイ、早くしないと終わっちゃう……!」


何やら会場まで走っている少女がいた。


摩耶だった。


「ああ……よかった……間に合った……ってか、瑠希菜、決勝まで行ってんじゃん! すごっ!!」


摩耶が応援に来たことがこの後で波乱含みになるのだが、()()()()()()()()である。

瑠希菜、決勝進出です。

次は決勝戦になります。

お楽しみください。

ちなみに陽子戦のフィニッシュシーンは、「井上尚弥VSジェイソン・マロニー」のラストを再現させていただきました。

ただ、ちょっと流れは違いますけどwww

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