第55ラウンド 晴れ舞台に立つ
今回からインターハイ本戦。
前日譚ですが、トーク中心回でお送りします。
さて、月日は流れて8月初旬。
瑠希菜は全国大会に出場するために山形県へと足を運んでいた。
会場に入り、開会式を終え、いよいよ減量も過渡期へと入ってくる。
ホテルの一室でミット打ちを終えた後、瑠希菜は温泉に行き、サウナで汗を流し、水分を抜く作業へと入っていた。
約10分、深呼吸をしながら精神を整えている瑠希菜。
何しろ彼女にとっては初の全国大会なのだ、心臓に毛が生えているくらい強心臓な瑠希菜でも多少なりとも緊張はするものだ。
汗が滴り、それと共にのぼせるような暑さも来る。
減量は楽になったとはいえ、瑠希菜の身体は本格化を迎えつつあり、トレーニングによって筋肉量が増えているような状態だ、過酷である事には変わりはない。
そろそろ水風呂に行くか_____としたところ、見慣れた顔がサウナに入ってきた。
「あれっ? 瑠希菜?? 偶然だね!? 減量の真っ只中って感じ??」
「夏帆………?? って、アンタもでしょ、減量しなきゃいけないの………なんでそんなにハツラツとしてんのさ………」
夏帆も偶然、といっていいのか運命的といっていいのか、共に同じサウナへと入り、世間話をする事になるのだった。
話題は悠馬のことになる。
「えっ!?!? 御子柴くんが栖鳳に居たの!?!?」
夏帆はその事を知り、驚きを隠せていない様子だった、というよりかは悠馬の事を知っているような口ぶりだった。
「知ってるの? 夏帆………」
「知ってるも何もさ、御子柴くん、うちのジムに来てたんだよ、中学時代!!」
「えー………それは意外………で、どう思ってたの? 御子柴くんのこと………」
「うーん………やっぱ子役上がりだしイケメンだなぁ、とは思ってたよ?? けど素っ気ないというか、斜に構えてるというか………ボクシングは真面目にやってたけど、人に対する態度がアレだからなぁ………それでさ、どうなの? 部活内とかだったら。」
「そー………だね、最初は夏帆が言ってた通りかなあ、っていう感じだったんだけどね、けどウチのジムに来てからはなんだかんだで打ち解けてさ、感性とかは割と普通、って接してるうちには思った。でもやっぱ………ボクシングはホントに上手いね。細かく行かないとパンチ当たんないし、スパーしてる時とか。今はそんなに悪い風には思ってないけど、女の子は苦手意識あるみたいでね、まだ。」
「え、マジ!? そんなこと言ってたの、御子柴くんが!?!?」
夏帆の反応から察するに気づいていなかったのだろうな、と瑠希菜は感じたが、悠馬から口止めされていた意外な趣味を暴露することにした。
「あとさ………御子柴くん、女の子が集めてるようなもの、あるじゃん? なんていうのかな、ファンシーショップで売ってるような食器とかクッションとか。」
「………え………まさか………」
「うん、そのまさか。集めてるんだって、1人でいる時は特に。」
「えーーーーーーーー!?!?!? 意外すぎるって、それ!!! なに、その可愛い趣味!!!」
「………声大きいって、夏帆………他に人いるんだからさ………」
「あー………ゴメン、意外すぎて………」
「あんまり口外しないでくれ、って言ってたけどさ、別にアンタならいいかなー、って思って。気軽にバラせれるような環境下じゃないじゃん、アンタ。東京の学校に通ってるんだし。」
「言えるわけないでしょ、それは!! ………ところでさ………緊張してる? 瑠希菜、初めてじゃん、全国。」
「ん? あー………緊張はしてるかな、やっぱこれだけ大きい舞台だと、流石にね。でもさ………同時にワクワクしてるんだ、インターハイ。」
「なんで??」
「どんな相手と巡り合うのか、とか………やるからには勝ちに行くけど、私のスタイルがどこまで通用するのか、とか………世界の広さを知る上で大きな経験になるかな、って思うと楽しみで仕方ない。」
瑠希菜はそう言って、左拳の健在ぶりをアピールする。
「フフッ………アハハハ!! やっぱそうこなくっちゃね、緊張でガチガチになってたら何も出来ないもん、そりゃそうだよ!!! ………実を言うとさ、私も秘策、用意してるんだよ、アンタに勝つための。」
「秘策???」
「それは本番でのお楽しみ〜〜♪ マジシャンは同じマジックを使わないんだよ、そうじゃなきゃタネがバレるからね?」
「………じゃ、やるなら決勝でやろうか、それは。私もジャブ鍛えてきたし、簡単にはカウンターは合わさせないよ?」
「望むところ!! それじゃ!!」
そう言って、夏帆はサウナから出て行った。
瑠希菜も気が楽になったのか、水風呂に1分浸かったあと、温泉を出ていき、休息を取ることにしたのであった。
次回から本番、一回戦。




