第54ラウンド 幕間・灼のボクシング奮闘記③
今回はガチボクシング回。
前回との温度差がエグいと思うです、はい。
さて、またある日。
灼と諒太がリングに登って互いにグローブとヘッドギアを嵌めていた。
何をするのか、というと正真正銘のスパーリング。
とはいえ、重量級の灼と中量級を主戦場にしていた諒太では体重差がかなり大きい。
ただ諒太に関しては経験でカバーできるので、柔VS剛の様相を呈しており、ジムの面々も固唾を飲んで見守っていた。
「………いいのか? オッさん………マジで行っても。」
「当然そのつもりだ。だがやるからには負けるつもりはねえ。全力で来い。」
「そういうことなら………やってやろうじゃねえかよ?」
そんなこんなでタイマーが鳴り、スパーリングが始まった。
両者、ガードを高く掲げ、じっくりとパンチが出されるタイミングを窺っている。
開始から10秒、先に動いたのは灼だった。
ギュッ………とマットを踏み締め、重いワンツーを放つ。
これを諒太はガードをして凌いだ。
(いいパンチだ………体重が乗って、且つコンパクト、俺が教えた通りになってんな………)
諒太は不敵な笑みを浮かべ、鋭くジャブを放つ。
灼はガードが間に合わずに鼻に被弾した。
(クソッ………!! 相変わらず速え!! けれどこっからだ、バンバン出してやらあ!!)
灼は諒太の十八番であるジャブにも全く怯まない。
次々と左右のフックを繰り出して諒太を攻撃していく、だが諒太も45とは思えぬ柔軟性のあるディフェンスを披露し、まともに当てさせることはなく、更に時折カウンターで軽いジャブを出してあしらっているようにも見えた。
(チッ………こりゃだりぃな………まあそりゃそうか、体重の重い俺相手にはまともに打ち合わねえ、ってタマかい………普通にディフェンス上手えじゃねえかよ………?)
(まだコンパクトにできるが………いいねえ、腰が乗っていて、当たったら俺も倒れかねんな………だったら俺も動きますか………)
諒太は動いた。
頭を振りながらジャブのフェイントを入れながら右ボディーストレートを放った。
灼は腰を曲げて衝撃を殺そうとしたが、避けきれなかった。
灼が一瞬怯んだのを見越し、諒太はコツコツと近距離でパンチを積み重ねていった。
コンパクトな左フックに右アッパー、左ボディーのフェイントからの巻き込むような右フック、間髪入れずにジャブ二発から右ストレートを顔面に突き刺した。
繋ぎが速い諒太の攻めに、灼はガード一辺倒で対応をするのがやっとだった。
しかしただでは終われない。
そう判断した灼は、左フックを放ってきた打ち終わりに右のノーモーションを繰り出した。
流石の諒太も浅く被弾するが、すかさず必殺の左ボディーを、灼の肋に深々と突き刺した。
これには灼も怯んだ。
効かされたのである。
その後は防戦一方となり、諒太が一方的に灼をロープに詰めて攻めていく展開になった。
もちろん灼も負けじとパンチを返すものの、諒太は的確にカウンターを叩き込んで行き、灼をグロッキーに追い込んだ。
立っているだけでも救いのようなもので、スパーリングを終えたのであった。
灼はリングを降り、水を口に含んだ。
(流石にそんな甘くはねえか………元世界王者は違うもんだな、だが収穫はあった、右のノーモーションは案外当たっていた、アレを起点にしていけば………世界も夢じゃねえ、今はただ………来年のプロテストに向かっていくだけだ………!!)
灼はほぼ打たれっぱなしのスパーだったにも関わらず、ポジティブに事を捉えていた。
右のノーモーションは当たっていた、これを起点にして磨いていけば世界も見えてくる、と。
諒太も同様だった。
(あの右のノーモーションは………流石に想定外だったな、一瞬グラっと来たしな………読まれたらそれまでだが、ありゃあ俺の左ボディーに並ぶ必殺パンチになってくるな、こりゃ………とはいえディフェンスはまだ甘い、ガードだけじゃ世界は獲れねえからな………とはいえ成長していっている、ホント、灼は教えるのが楽しいな、指導者冥利に尽きるぜ………)
指導者目線で、灼をどういうボクサーにするか、その青写真が見えていたようであった。
次回からインハイ本戦。




